幼い頃から頻繁に夢に現れる美しい少女と、興味本位で始めたカポエラ教室で偶然出逢ってしまった夢見る童貞青年、金森 欽也。
筋骨隆々な彼女は教室に通い始めてもう三年にもなる猛者だった。欽也の担当になった彼女にガッチリと関節を決められながら、耳元でこう囁かれる。
「あー、ええわー、あんたの肝臓食べたいわー」
夢の中での清楚な雰囲気とは全く違い、どぎつい関西訛りで「にひひ」と笑う彼女に戦慄した主人公は、たったの1日でカポエラ教室をやめてしまった。
彼女の雰囲気も怖いしヤバイが、やめる事にした一番の理由は、彼女のそのどぎつい体臭にあった。
くさい。
凄くくさい。超くさい。まるで高野豆腐が腐ったような匂いだ。
彼女は言った。
「なあ、なんで教室やめてもうたん?ちょい聞いてくれる? 欽也くん実はな、ウチ病気やねん。」
既に夢の中の少女も当たり前のように関西弁になっていた。
「あんたの肝臓食べさせてーな。ウチ聞いた事あるねん、昔の人はどこか悪いところがあると、他の動物のその部分を食べたんやって」
「それが?」
「膵臓が悪かったら膵臓食べて、胃が悪かったら胃を食べてって、そうしたら病気が治るって信じられてたんやって。せやからウチ、あんたの肝臓が食べたい」
「きみ馬鹿なの?そんな事して治る訳ないじゃん。お願いだからその気持ち悪い発想やめてくれないかな?キモいんだけど」
「だ、だって昔の人は…」
「しつこいんだよ!食べたかったらそこら辺の野良犬や野良猫の肝臓でも食ってろよブス、ブース!!」
少女は欽也の迫力に黙り込んでしまった。そう、欽也は追い込まれるとキレるタイプだったのだ。
「てかさあ、人の夢に出てくるのはいいけどまずその体臭をどうにかしてくんない?凄く言いにくいんだけどさあ、君ってすんごくクッサいよ?!」
「くさい?私が?」
欽也は鼻を摘みながらカクカクとロボットダンスで応戦する。それが効いたのかどうかは分からないが、呆れた少女は何も言わずに闇の中へと消えてしまった。
それから数ヶ月が経った頃である。偶然街で見かけたカポエラ教室の先生からあの少女が肝硬変で亡くなった旨を告げられた。
「へえ、病気は本当だったのか」
欽也はお腹の辺りがむず痒くなった。
程なくして欽也の夢にまたあの「ワキガ少女」が現れはじめた。
啜り泣く声。
辺りに充満する愚臭。
「くっさ!!」
欽也を見つめるその顔は以前とは違い、憎悪に満ちたそれはそれは恐ろしい表情だった。
「ウチが死んだのはあんたのせいや。死ぬまで取り憑いたる」
作者ロビンⓂ︎
小夜子お姉様のリクエストにより、この恐怖が実現しました!心臓の弱い方は朗読をお控え下さい…ひ…
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