中編4
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取って付けたような

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「でよ、そいつがよ、取って付けたように言うんだよ。『お前は悪くない』ってよ!」

変態先輩はベロンベロンになりながら言った。

俺とたかしはわざとらしく頷く。

変態先輩。

きっともっとましな名前なんだろうけれど、俺は、というか皆「変態先輩」とその人のことを呼んでいた。

俺と変態先輩とは特に接点は無かったのだが、たかしの方は学部も同じだということもあって、結構話すことも多かったらしい。

今日は、たかしの誘いで三人仲良く、たかしの家で呑むことになったのだ。

変態先輩のことを良く知らない俺だが、なんとかうまくいっている。

「変態先輩」というニックネームの割には、普通の人で、安心している反面、つまらないと思っていた。

変態先輩は話を続ける。

「それみたらよ、無性にムカムカしてよー! 俺はよ、『取って付けたような』態度が一番嫌いなんだよ!」

「はいはい! 分かります! 分かります!」

たかしが上手く相槌を打つ。

俺も、そういう態度は嫌いだし、とても共感できる。

「特に、そういうこと言ってるときの顔よ! あれがムカつくんだよ!」

「「あぁ・・・・・・」」

ふむふむ。

ここまでは理解できた。

しかし、ここからだ。ここからが問題だ。

先輩は、大きく息を吸い込むともう一度口を開いた

「ムカつくぜ! 取って付けたような鼻、口、目、眉、まつ毛・・・・・・」

先輩の顔が徐々に赤くなっていく。

「耳、歯、髪、足、手、腕!!!! 全部全部全部!!!!!」

「あ、あの先輩!?」

たかしが先輩の興奮を鎮めようとした。

「あ」

先輩は素っ頓狂な声を上げる。

興奮が収まったらしく、先輩の顔の色は元に戻った。

俺は少しわかった気がした。

この人が「変態先輩」と呼ばれる理由が。

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それから一週間。

俺のスマホが「りりり」と軽快なリズムで鳴った。

画面をタップし、スマホを耳に当てる。

「もしもし」

「おい、俺だ。変態だ。」

「ああ、先輩。どうかしましたか?」

「お願いがあるんだ。ちょっと、裏の○○山まで来てくれ。」

「え?」

○○山は「裏」などではなく、大分遠い山だ。そんな軽く行けるところでは無い。

「お願いだ! ちょっと来てくれ。たかしもいるから。」

「いや、でも今はもう時間が・・・・・・」

時計の針はすでに八時を指していた。

「来いよ!!!!!! ちょっとだから!!!!!!!」

先輩が怒鳴った。耳がキーンとする。

これは、一週間前の先輩の異常なテンションと同じだ・・・・・・。

「分かりました・・・・・・。すぐ行きます。」

俺は、しぶしぶそう答えた。

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バスに乗り、歩いて十数分。

俺は○○山前のあるコンビニで、たかしと落ち合った。

「どうする?」

と、たかし。

「どうするって?」

「先輩、めっちゃヤバかったじゃん。今から逃げるかどうかだよ。」

逃げる。それが最善の手かもしれない。

しかし、たかしは先輩に家を知られている。このまま帰ったら何をされるか分からない。

「いや、行こうぜ。」

「・・・・・・そうか。」

俺とたかしは、先輩がラインで送ってきたメッセージをたよりに、先輩の待っている場所へ向かった。

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「おお。来たか。」

呼びつけておいてそれは無いだろ。

俺はそう思った。

「よし、これを運んでくれ。」

先輩は茶色い麻袋をドサリと置いた。

麻袋は、細長いものや、変わった形のものが入っているような様子は無かった。

「えぇと?」

「いいから運ぶぞ。」

先輩はそう言って、麻袋を掴んだ。

俺とたかしも、先輩の気迫に気おされて、麻布を掴む。

持ち上げ――――――られなかった。

すごく重い。

俺は腕に力を入れる。

ズシリ

麻布が宙に浮かぶ。

「行くぞ」

先輩は左の森へと進んだ。なんの道もない、木しか無い森へ。

ズシリズシリ

俺たちは進む。

しばらく進んだところで、先輩は足を止めた。

「ここで下すぞ」

ズシリ

麻布が地面に触れる。

「よし。やるか。」

先輩が麻布の口をほどいた。

一体、何をやるんだ? なにを? 

嫌な予感、悪寒が体を包み込む。

そして、麻布の中身が顔をのぞかせた瞬間、予感は確信に変わった。

「うっ!」

たかしがうなる。

そこには、そこには・・・・・・

shake

人間の、鼻、唇、耳、目、頭、足、腕、髪、指、歯、舌、胴、臓物。

人間の、あらゆる部位がそこには入っていた。

先輩はそれを「取って付けたような」と言っていた。

それは、つまり・・・・・・つまり!

「よし、埋めるぞ。」

先輩が軽く言う。

ダッ

「誰にも言いません! 誰にも言いませんから俺たちを返してください!!!」

たかしは跪き、懇願する。

それはそうだ! こんなの、俺らはこの後殺されるに決まっているじゃないか!

「たかしと一緒におれも返してください!」

先輩の視線が麻袋から跪く俺たちに移る。

はぁ、と先輩は溜息をつき言った。

「別によ、俺はお前らに通報されてもいいんだよ。でもな、お前らのそういう取って付けたような態度はダメだ。反吐が出る。俺はな、そういうの見てると――」

心臓がバクンバクンとなっている。

俺は、この後の言葉を知っている。それは――

「無性に、殺したくなるんだよ。」

「ああああああああ!」

俺とたかしは立ち上がり、逃げた。

ただひたすら逃げた。

「そうだ。そんな態度が、いいんだ。」

先輩の声が、遠くで聞こえた。

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