中編5
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焼き肉店

私の数少ない友人達は、未だに田舎の方で暮らしているが、大人になってからでも毎日っていいくらいに連絡を取り合って、無駄話に花を咲かせることができるのは、一人二人くらいだった。

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夏の夜長は、ホラーな話題も多いわけで。

その友人たちの体験談である。

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私の田舎は、橋がかからなければ陸の孤島とも言われいるくらいには、田舎である。

その日、友人2人は、車で遊びに出かけることにした。どこへ遊びに行こうと考えて、久方ぶりに遠出でもと思ったらしい。

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車を走らせて、片道6時間程度の場所まで行ったようだ。買い物やらゲームセンターやらで遊んだ彼らが、帰路についたのは夜半時。

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「腹減ったな」

「肉食いたいな」

高速道路を走っている際中に、彼らは空腹感を覚えた。

何か食事を摂ろうと思い立ったらしい。

では、近場のインターで食事を摂るか。そうは思わなかったようで。

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適当な場所で、高速を降りる。

車を走らせて、目に付いた場所が焼き肉屋だったら入る。

携帯で調べろと思ったが、面倒くさいという理由で特に何も調べなかったようだ。

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そのまま車を走らせ続けてみたが、食事処は全くと言っていいほど見当たらない。

真っ直ぐ道路を走らせ続けて、時間的にも日付が変わってしまうほどには、迷いに迷った。

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「今、焼き肉屋の案内看板あったぞ」

「え、マジで。でももうこんな時間やん」

時計を確認すると、1時にはなっていたという。

閉店時間までは見えなかったが、肉、という文字が見えたらしい。

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周囲に街灯は少なく、建物よりも緑が多い。

一体ここ何処、今迷子。みたいな状態で、既に友人たちは疲れもピークにあった。

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しばらく真っ直ぐの道を走らせると焼き肉店の四角い看板と共に、照明が見えた。

車の速度を落として、徐々に近づくと、そこには焼き肉店があった。

砂漠で見つけたオアシスだ。

友人の一人は、とても感動したという。

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友人たちはそのまま車を駐車場に止めて、店に入った。

駐車場には数台の車が止まっており、店内も明るかった。

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店内に入ると、女性の店員が出迎えた。

「二名で禁煙席で」

友人たちは疲れのためなのか、まだ空いているか、というのは頭にすっぽ抜けていたらしい。女性の店員は特に何も言わず、友人達を席へと案内した。

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食事の席へと案内される中、他にも客らしき人の声は聞こえた。というのも、食事の席は個室となっていた為、客の姿は見えなかったらしい。

ただ、親子連れなのか子供の声が聞こえたという。

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個室へと案内されて、メニューを開く。

そうして友人たちは、とにかく肉を食おうと思った。それなりに多くの量を注文する。

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しばらくしてから、肉は運ばれてきた。

友人たちは、しっかりと手を合わせて、がっついた。

焼いて食べては焼いて食べ。

空腹と疲れという調味料がしっかりと加えられれば、美味であることこの上ない。

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数度、網の交換のために店員を呼んだ。

満腹になってからは、少しの間休みつつ、また食べる。

そうして、食事をしている際中は、別室からも和気あいあいとした子供の声が聞こえた。

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美味しい食事に満足して、会計を行う。

特に費用などを見ていなかったが、2人でそれなりの量を食べたにも関わらず、高いとは思えない料金であったらしい。むしろ2人とも安いという考えが一致したという。

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ついぞ、他の客の姿は見えなかった。

しかし、食事を食べたことへの満足感という癒しを得て、友人たちは、特に気にせずに店内を後にして帰路についた。

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朝日が昇るころには、友人両名共に、自宅へと戻ることが叶ったという。

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そうして、数か月後の時が経つ。

友人達は、再びあの焼肉屋で食事をしようと思い立った。

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「そういえば、あの店名前何だっけ」

「あー、分からんね」

そう二人で話合う。店の場所を調べようにも、名前が分からなかった。

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「でも、大体あの辺ってのは分かる」

車を運転していた方の友人は、焼き肉店を帰る道すがらに、大体の場所を記憶をしておいたようだった。彼らは、勇んで車へと乗りこみ、焼き肉店を目指した。

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高速を走って、インターを降り、暫く走らせる。

「ああこんな道やったね」

「ああ、記憶通りやな」

真っ直ぐな道路を走っていくと建物が少なくなり、むしろ周囲には緑が増える。ただ、友人の一人がふと思い至る。

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「焼き肉屋の看板なかったっけ」

「ああ、お前見たって言ってたっけ」

一向に、焼き肉店の看板は見えなかった為、不思議に思う。

それでも真っ直ぐに車を走らせれば、左手側には見えてくるはずだ。

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「おかしいな。全然見当たらん」

「もうあってもいいのにな」

真っ直ぐ道路を走らせて。けれども、お店は終ぞ見つからなかった。

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ただ、焼き肉店の道を間違えていただけではないか。

私は、何がホラーなのかと突っ込んだ。

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道は、間違っていない。周囲の景色も道もそのままに行くことはできていた。ただ、店はなかった。

だから、友人達はあの時のことを思い出しながら、話し合ってみたところ。

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店員の顔やメニューに何が書かれていたのか、思い出せなかった。

そして、どんな肉を食べたのかということさえも、覚えていなかった。

店の外観。提灯で明かりが点いていて特徴的であったため、覚えていた。

しかし、内装の装飾などの記憶が二人ともすっぽりと抜けていた。

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確実に日付は変わっていて、夜中の1時は回っていた。

親子連れが居たことを覚えている。

ただ、あの時、子供の声が聞こえたけれど、あんな夜中の時間に親子連れが焼き肉屋に居るものだろうか。

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夜遅くに焼き肉屋で食事をしたという記憶は、間違いない。

ただ、それがどこであったのかどうか。何の肉を食べたのかは定かではない。

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日付も変わった夜時。真っ直ぐな道と周囲には緑が多い場所を車で行く際。

提灯明かりの焼き肉店が見えたら、ぜひ入って見て下さい。

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安くて美味しいらしいです。

Concrete
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