私の数少ない友人達は、未だに田舎の方で暮らしているが、大人になってからでも毎日っていいくらいに連絡を取り合って、無駄話に花を咲かせることができるのは、一人二人くらいだった。
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夏の夜長は、ホラーな話題も多いわけで。
その友人たちの体験談である。
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私の田舎は、橋がかからなければ陸の孤島とも言われいるくらいには、田舎である。
その日、友人2人は、車で遊びに出かけることにした。どこへ遊びに行こうと考えて、久方ぶりに遠出でもと思ったらしい。
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車を走らせて、片道6時間程度の場所まで行ったようだ。買い物やらゲームセンターやらで遊んだ彼らが、帰路についたのは夜半時。
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「腹減ったな」
「肉食いたいな」
高速道路を走っている際中に、彼らは空腹感を覚えた。
何か食事を摂ろうと思い立ったらしい。
では、近場のインターで食事を摂るか。そうは思わなかったようで。
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適当な場所で、高速を降りる。
車を走らせて、目に付いた場所が焼き肉屋だったら入る。
携帯で調べろと思ったが、面倒くさいという理由で特に何も調べなかったようだ。
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そのまま車を走らせ続けてみたが、食事処は全くと言っていいほど見当たらない。
真っ直ぐ道路を走らせ続けて、時間的にも日付が変わってしまうほどには、迷いに迷った。
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「今、焼き肉屋の案内看板あったぞ」
「え、マジで。でももうこんな時間やん」
時計を確認すると、1時にはなっていたという。
閉店時間までは見えなかったが、肉、という文字が見えたらしい。
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周囲に街灯は少なく、建物よりも緑が多い。
一体ここ何処、今迷子。みたいな状態で、既に友人たちは疲れもピークにあった。
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しばらく真っ直ぐの道を走らせると焼き肉店の四角い看板と共に、照明が見えた。
車の速度を落として、徐々に近づくと、そこには焼き肉店があった。
砂漠で見つけたオアシスだ。
友人の一人は、とても感動したという。
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友人たちはそのまま車を駐車場に止めて、店に入った。
駐車場には数台の車が止まっており、店内も明るかった。
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店内に入ると、女性の店員が出迎えた。
「二名で禁煙席で」
友人たちは疲れのためなのか、まだ空いているか、というのは頭にすっぽ抜けていたらしい。女性の店員は特に何も言わず、友人達を席へと案内した。
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食事の席へと案内される中、他にも客らしき人の声は聞こえた。というのも、食事の席は個室となっていた為、客の姿は見えなかったらしい。
ただ、親子連れなのか子供の声が聞こえたという。
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個室へと案内されて、メニューを開く。
そうして友人たちは、とにかく肉を食おうと思った。それなりに多くの量を注文する。
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しばらくしてから、肉は運ばれてきた。
友人たちは、しっかりと手を合わせて、がっついた。
焼いて食べては焼いて食べ。
空腹と疲れという調味料がしっかりと加えられれば、美味であることこの上ない。
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数度、網の交換のために店員を呼んだ。
満腹になってからは、少しの間休みつつ、また食べる。
そうして、食事をしている際中は、別室からも和気あいあいとした子供の声が聞こえた。
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美味しい食事に満足して、会計を行う。
特に費用などを見ていなかったが、2人でそれなりの量を食べたにも関わらず、高いとは思えない料金であったらしい。むしろ2人とも安いという考えが一致したという。
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ついぞ、他の客の姿は見えなかった。
しかし、食事を食べたことへの満足感という癒しを得て、友人たちは、特に気にせずに店内を後にして帰路についた。
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朝日が昇るころには、友人両名共に、自宅へと戻ることが叶ったという。
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そうして、数か月後の時が経つ。
友人達は、再びあの焼肉屋で食事をしようと思い立った。
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「そういえば、あの店名前何だっけ」
「あー、分からんね」
そう二人で話合う。店の場所を調べようにも、名前が分からなかった。
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「でも、大体あの辺ってのは分かる」
車を運転していた方の友人は、焼き肉店を帰る道すがらに、大体の場所を記憶をしておいたようだった。彼らは、勇んで車へと乗りこみ、焼き肉店を目指した。
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高速を走って、インターを降り、暫く走らせる。
「ああこんな道やったね」
「ああ、記憶通りやな」
真っ直ぐな道路を走っていくと建物が少なくなり、むしろ周囲には緑が増える。ただ、友人の一人がふと思い至る。
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「焼き肉屋の看板なかったっけ」
「ああ、お前見たって言ってたっけ」
一向に、焼き肉店の看板は見えなかった為、不思議に思う。
それでも真っ直ぐに車を走らせれば、左手側には見えてくるはずだ。
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「おかしいな。全然見当たらん」
「もうあってもいいのにな」
真っ直ぐ道路を走らせて。けれども、お店は終ぞ見つからなかった。
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ただ、焼き肉店の道を間違えていただけではないか。
私は、何がホラーなのかと突っ込んだ。
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道は、間違っていない。周囲の景色も道もそのままに行くことはできていた。ただ、店はなかった。
だから、友人達はあの時のことを思い出しながら、話し合ってみたところ。
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店員の顔やメニューに何が書かれていたのか、思い出せなかった。
そして、どんな肉を食べたのかということさえも、覚えていなかった。
店の外観。提灯で明かりが点いていて特徴的であったため、覚えていた。
しかし、内装の装飾などの記憶が二人ともすっぽりと抜けていた。
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確実に日付は変わっていて、夜中の1時は回っていた。
親子連れが居たことを覚えている。
ただ、あの時、子供の声が聞こえたけれど、あんな夜中の時間に親子連れが焼き肉屋に居るものだろうか。
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夜遅くに焼き肉屋で食事をしたという記憶は、間違いない。
ただ、それがどこであったのかどうか。何の肉を食べたのかは定かではない。
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日付も変わった夜時。真っ直ぐな道と周囲には緑が多い場所を車で行く際。
提灯明かりの焼き肉店が見えたら、ぜひ入って見て下さい。
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安くて美味しいらしいです。
作者m/s
記憶違いではないとの事です。
いいなぁ、と思いました。不思議なお店で食事したいなあ。