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中編6
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想像力の亡者

今回のお話は知り合いの絵梨花さんから聞いたお話です。

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その日、最近ハマったロボットアニメを見ながら、ノートパソコンでいつも見ている怪談投稿サイトに行くと、私のユーザー名が『ラクトアイス-12』になっていました。

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私はアイスが好きで、自分の体型がスレンダーなので、ユーザー名をラクトアイスとしていましたが、なぜか12と付いています。

バグかと思ったのですが、お知らせを見るとなりすまし防止のためのナンバリングだったようです。

私のほかにラクトアイスという名前を使っている人が11人もいたことはちょっとした驚きでしたが、この程度のことはしょっちゅう経験しているので気にしないことにしました。

その後、ポケモンGOのサイトに行くと、明日からまたレアなポケモンの出現率が上がるイベントが始まるようでした。

しかし、ポケモンGOのプレイは旦那から土曜日に限定されていたので、ダメもとでおねだりしてみました。

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「パパ~、明日からポケモンGOのイベントが始まるみたいなの、たまには土曜日以外にプレイするわがままも許してよ」

横では中学生の娘がまた怒られるだけだよとでも言いたげな表情で呆れていました。

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「・・・許す、もう、最後だから、好きなようにしろ」

珍しいこともあるもので、旦那が許してくれました。

感極まったように目頭を押さえながら旦那は言葉を絞り出しました。

娘はついに旦那が私に愛想をつかしたと思い、ママを捨てないであげてと懇願し始めましたが、旦那もなぜ許してしまったのか、分からないようでした。

最後だからという言葉は気になりましたが、嬉しさのあまり明日からという約束すら忘れて、私はその日の夜こっそりとスマホを起動させました。

すると幸運なことにすぐ近くにレアなポケモンが隠れているようでした。

私の住んでいるところは田舎だったので、家の裏はすぐに山になっていました。

私は家の外に出て、裏の山道を上がっていきますが、なかなかポケモンは現れません。

しかし、探す方向が間違っていればポケモンは消えるはずなので、進む方向はあっているはずでした。

かなり山道を登ったはずですが、まだポケモンは出てきません。

スマホ画面は近くにポケモンが隠れている表示のままです。

ポケモンが現われたらすぐに引き返そうと思うのですが、現れないので私はさらに山の奥に入っていこうとしました。

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「ちょっと、ママ、何やってるの!」

突然、私の身体は娘に抱き留められました。

「えっ、何って、近くにレアなポケモンが・・・」

「ポケモン、近くに何もいないって出てるよ、それとやばいよ、向こうに何かいっぱい女の子がいる!」

娘の言う通り、スマホ画面では近くにいるポケモンはいないようになっていました。

そして、娘の示した通り、山の奥には大勢の子供の姿が見えました。

その途端、私の意識が混濁し始めました。

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「ああ、姉さん達が呼んでる」

「ママ、何言ってるの、姉さんって誰、ママ一人っ子でしょ!」

「もう、機体も身体もボロボロだよ、でも私がんばったんだよ」

「別にママそんなにがんばってないでしょ、疲れてるんだったら帰って早く寝ようよ!」

「兵器として生まれた私だったけど、私がここまで頑張れたのは私達の大きな可能性を示せたよね」

「兵器って、何言ってるの、ママは一般事務員でしょ、狂っちゃったの!?」

娘の叫び声は聞こえていましたが、朦朧として誰か別の自分がしゃべっているような感覚でした。

私は娘に引きずられるように山を下りました。

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家に帰って落ち着いてから、娘があらためて口を開きました。

「ママがね、姉さん達が呼んでるってつぶやきながら家を出ていったの!」

さらに娘の話によると、おかしいと思って後をつけて行くと私が入っていく山の先に小学生ぐらいの女の子が大勢私を呼んでいるのが視えたということでした。

私の娘は強い霊感をもっているので、女の子の幽霊を見たのかと思いましたが、いつも視る霊とは違う何か別のものの感じがしたというのです。

確かにうちの裏の山がそんな十何人もの女の子の幽霊が出てくる心霊スポットだということは聞いたこともありませんでした。

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翌日、今回のような心霊事件でもいつもお世話になっている真央さんを家に招きました。

真央さんは神社の娘さんで娘の師匠とも呼べるとても力の強い霊能者さんでした。

家の中に入るや否や真央さんは家の中を色々と散策し始めました。

「これは・・・すごいですね」

真央さんは家の中を一通り見て終わった後、驚いたような様子で口を開きました。

「えっ、家の中に何かいますか、私も何かいるのかなあとぐらいは感じていたんですけど」

娘の問いかけに真央さんは眉をしかめて答えました。

「いわゆる普通の霊ではありませんね」

「普通の霊じゃない、どういうことですか?」

「説明する前に確認したいのですけど、最近絵梨花さんアニメか何かに夢中になっていませんか?」

「あ、はい、最近ネットで紹介してもらったロボットアニメにどっぷりはまっていつも繰り返し見てます」

「それに日常生活の中で常にそのアニメのことばかり考え続けていませんか?」

「はい、ずっと妄想しています」

「もしかして、その登場人物はほとんどお話の中で死んでいませんか?」

「はい、みんな死んでます」

「それですね」

「えっ、それって?」

「絵梨花さんが四六時中そのアニメの登場人物のことを考えているから、その念が集まって複写物と呼べるような人型が作られつつあります」

「え、え、アニメの中のキャラクターが?」

「おまけにあなた自身がそのキャラクターに染まりつつありますから、その念の亡者達からあの世に引き寄せられようとしたのかもしれません」

「それって死相のようなものですか?」

娘が真央さんに問いかけます。

「死の兆候ということでは同じですが、少し違います。

絵梨花さんはそのアニメの中の故人を想いすぎるあまり、その死者とその繋がりのある人達と同調してしまい、またその想像で出来上がった亡者達が絵梨花さんを連れていこうとしたのでしょう」

真央さんの説明によると、私自身の想像の念で現実世界にまでアニメの世界が混濁しつつあったのではないかということでした。

そう思うと、あのユーザー名に12が付いたのも、旦那のあの態度もその影響かもしれませんでした。

「しばらくはそのアニメを見るのは控えた方がいいかもしれませんね」

真央さんはとりあえずの解決方法を示してくれました。

しかし続けてなおも苦笑しました。

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「まあ、でも二次元の死者を想像力で現実の亡者として蘇らせるなんて、なかなかできることじゃありませんよ。

危険ということは差し置いても単純にすごいとしか言いようがありません」

褒めているのか、咎めているのか、分からない表情で真央さんは笑顔を取り繕いました。

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真央さんや娘はまるで私が悪夢に踊らされていたようなことを言うのですが、お気に入りのアニメのキャラに成り切っていたのなら、好ましいことにも思えました。

そのときは・・・

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結局、その日真央さんが私の家から複写霊達をすべて引きはがすのに半日ほどかかってしまいました。

徐念作業が終わった後、あまりに苦労を掛けてしまったので申し訳なく思いました。

「真央さん、いつも迷惑ばかりかけてすいません、今度何かお返しをさせてください」

私の申し出に真央さんはしばらく視線を上に向けながら考えるしぐさをしました。

「それじゃ、アイスクリームでも食べに行きましょう、いいお店を知ってるんですよ」

真央さんのその言葉に私は一瞬戸惑ってしまいました。

あの堅物な真央さんの口からアイスクリームなどとオシャレな単語が出たことに大きな驚きと違和感がありました。

「ま、まおさん?」

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真央さんは感慨深げな表情で口を開きました。

「そう、戦争はもう・・・終わったのですから」

「まおさーん!!」

shake

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やっぱり、私は悪夢を見ていたのでした。

そして、目の前のこの光景もまた新しい悪夢・・・

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