ピンポーン
はい、はいはい、──どちら様? えっ、 訪問販売。
珍しいなぁ、しかし凄げぇ雨だな、ゲリラ豪雨ってやつか?
まあ、立ち話もなんだからさ、入りなよ、その辺に適当に座ってくれや。
暑くないかい、俺ぁ、あのエアコンってやつが嫌いでねぇ、扇風機しかねぇんだ。
えっ、一人かって? ああ、子供達は巣だっていったし、連れ合いは二年前に逝っちまったよ。それからはずっと独りさね。
しかし、あんたみたいな若い娘さんが仕事とはいえ、一人で他人の家に入るのは怖くないのかい? ──最近この辺は物騒だし。
そうそう、それ、滅多刺しだってさ、それも三人も......、えっ、四人? そうだっけ? いちいち数えてねぇやそんなこと。
犯人......まだ捕まってないよ、無差別だからねぇ、警察も手を焼いてんだろうさ、そう簡単に捕まってたまるかってんだ。
ん? どうしたんだい、俺の顔になんかついてる?
ところであんた、訪問販売って何売ってるの、はっ!? 雨合羽? 随分変わったものを売ってるんだなぁ。
でも、丁度良かったよ、欲しかったんだよ俺ぁ、雨合羽! えっ、珍しいって、いやぁなに、何も雨合羽は雨避けるだけじゃあねぇさ、それ着てやれば、返ってくるしぶきもさほど気にならんだろ。
血は着くとなかなか落ちないんだよなぁ、 ん、どうした......顔が青いよ──大丈夫かい。
しかし、こんな、どしゃ降りの日はいいよなぁ、色んな音を消してくれる......叫び声も──
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あっはっはっは! ごめん、ごめん、冗談だよ、少しは涼しくなったかい?
冷や汗かいたって、......バレたかと思った──。何が? 何だよ急に立ち上がって、おいおい、なに家のなかで雨合羽着てるんだよ、えっ、売り物だろそれ?
なにっ? 雨が消すのは音だけじゃないって、洗い流す? なんだそのでかいナイフは、え、ちょっと──やめろよ、なにする......やめ......。
作者深山