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中編5
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オタガイサマ

【いいわよねぇ、洋子。孝君みたいな明るくて優しい彼氏がいてさぁ。うらやましい】

【えへへ、ありがとう。】

女三人寄ればなんとやら。洋子に日南、私の三人。女子特有の恋バナで盛り上がる。

同じ学科の2年生、一年生の頃はそこまで仲が良かったわけではないけども今年に入って授業の一環でフィールドワークを行う際の班が同じになったことにより今のような関係に至っている。

「私、トイレに行ってくるね。」

私は恋というものにあまり良い思い出がないのでこういった話は好きではないので振られない限り話に加わることを遠慮している。

鏡に映る自分を見る、高校生の頃にあったソバカスのせいで暗い高校時代を送っていた時期がある。しかし、努力のおかげか偶然かすっぴんでもソバカスは目立たなくなり、メイクをすればもうすっかりわからなくなる。

だからといってトラウマともいえる恋に簡単に足が向くような性格を私はしていなかった。

戻るか。

私が、テーブルに戻ってみてもまだ恋バナは続いていた。

女の子ってみんな本当に“恋”とつくものが好きだなぁ。

それからしばらくすると、

【あ、もうこんな時間!私バイト行かないと!二人ともまたね!】

と、私たちの返事も聞かずに洋子は走り去っていった。

【せわしない子だね~】

と日南は笑っていた。

二人で食堂を出たころには17:00を回ろうとしていた。一日の講義を終えた学生でキャンパスのメインストリートは賑わっていた。

___もぅ!なんで電話してるのに出ないのよ~!

と、声が聞こえてきた。

あそこたしか理系棟・・・?

ひと際透る声がしていたのは理系棟にある喫煙所の方からだった。

【あ、今日もいる。】

日南は声の主について覚えがあるようだった。

「知り合い?」

【そういうわけじゃないんだけど。あの子ちょっと有名なのよ。】

と日南が言うもんだから、女の子を見ると

「可愛い・・・」

【そう、あの可愛さだから目立つのよ。そんな女の子が喫煙所なんかにいるもんだからなおさらね。】

「タバコ吸うんじゃないの?」

【そうじゃないみたい。ほらあの彼に会いに来てるのよ。】

______なんで?って言われてもなぁ

___いつもいつも電話かけても出ないんだから!

はたから見れば痴話喧嘩のようだ。

【ホント・・・可愛いっていいなぁ】

日南が隣でつぶやいた。

【あ、そうだ渡し忘れちゃった・・・。葉耶悪いけど、これ洋子に渡してもらえないかな?】

と、日南はバッグから紙袋を取り出した。

「これは?」

【この間、試験勉強のためにノートたくさん見せてもらったから、そのお詫びとお礼なの。私が渡せたらいいんだけど、明日から私用で学校にこれなくて・・・】

正直どうしようかとも思ったが、渡すだけならと了承した。

それから、日南とも別れ私はバイトへと向かった。

____________

洋食店でのバイトを終えて家路へとつく頃には日南に頼まれたことなどもうすっかり頭にはなかった。

『もしもし、お嬢さん』

「はい?」

思わず返事をしてしまったが、今時こんな人が本当にいようとは・・・。

道の端に机を、その上に水晶を置いている。声の主は黒いローブを纏い、フードを被っている。占い師と魔女が和洋折衷状態の・・・おそらく女性。

『やはり、私の声や姿が見えるのね。ということは・・・と、まぁ気持ちはわかるけどその警戒を少し解いてもらえないかな?』

いでたちに思わず身構えてしまったが、声の調子からして若い女性であろうことは読み取れたため肩の力を抜いた。

『いきなりごめんなさいね。私は“睡蓮”といいます。よろしくね。』

睡蓮と名乗る女性はフード脱ぎ顔を見せてくれた。

肩のあたりまでの長さがあり、内側へと緩く巻いてある。

顔のつくりを一言でいれば美しい。

「あの・・・私に何か?」

睡蓮さんは私へにっこりと微笑み『そのかばんの中に何を入れているの?』と指さした。

カバンの中には教科書と財布にポーチなどその程度だが・・・

あぁ、そういえば日南に頼まれた洋子へのプレゼントがあったな・・・

『それか・・・見せてもらってもいいかな?』

そう言う睡蓮さんに手渡した。

『これ、あなた・・・「“葉耶”って言います」葉耶ちゃんのもの?』

「いえ、友人に渡すよう頼まれて預かっているんです。」

『中身、なにかわかる?』

「いえ・・・」

う~ん、と何かを考えている睡蓮さん。

『葉耶ちゃん、時間ある?』

__________

睡蓮さんに連れてこられたのは古びたビルの中にある1つの部屋“幽玄堂”と書かれていた。

『どうぞ』と促されるままに部屋へと入った。

部屋の中にはアンティーク品のようなものが多くあった。コーヒーカップに筆、花瓶、ドレッサー等々、国や地域へのこだわりは感じられなかった。

これまたアンティーク調のテーブルとイスのもとへ案内され腰を下ろした。

『改めまして、“幽玄堂”の店主の“睡蓮”といいます。よろしくね♪』と手を差し出してきた

「四条葉耶といいます。」と手を握り返した。「あの・・・それで」

『単刀直入に言うわね。このプレゼントは渡さないほうがいいわ』

「え?」『見たほうが早いわね。』

パチンと睡蓮さんが指を鳴らすと。「えぇ?!なんで?!」

テーブルの上に置いたプレゼントのピンクの包装が勝手に開いていく。

プレゼントの正体は“櫛”だった。

「櫛?」

『えぇ、櫛ね。』

「でも、どうしてこれを渡してはいけないんですか?」

『櫛というのはね、古くは呪具として使われてきたのよ。“くし”は語呂合わせで“苦”“死”を連想させるから。とは言うものの須佐之男命(すさのおのみこと)は姫を呪法で櫛に変え身に着けて戦ったという話もあるけどこれは女性の持ち物を身につけると男性力が増すって考え方からで・・・て、これは関係ないわね。

櫛を渡す、与える。というのはすなわち、“苦死”を渡す、与えることに繋がるの。それに、この櫛にも十分な呪がかかっている、これはもう立派な呪具であり呪よ。“人を呪わば穴二つ”ってね、呪なんてかけた方もかけられた方もろくな目に合わない。これを送ろうと友人たちは本当に“友人同士”なの?』

「あの二人は・・・」

私は言葉が出てこなかった、二人のことを私は表面的にしか知らない。

あの二人は私が加わる以前より友人同士だった、私の知らない二人の間の出来事が何かあっても不思議じゃない。

『葉耶ちゃんはどうしたい?これを何も知らなかったとして友人に渡したい?』

私は・・・

・・

『何かあったら、いつでもおいで。』

_翌日

【おはよう、葉耶!】

「おはよう、洋子」

私の隣に座った洋子はカバンから教科書を取り出しながら【日南はまだ来てないのか~】

「日南は用事で休むみたいよ。」

【そうなんだぁ、渡したいものがあったのに・・・】

と、ピンクの包装をされた箱を取り出していた。

「それは?」

【この間お世話になったからそのお礼をと思ってね。】

とニッコリと笑っていた。

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Holicでありましたね。こんなお話。
キーホルダーだかストラップだかでしたが。

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