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異酒屋話ーホタルマスクー

長編8
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異酒屋話ーホタルマスクー

そろそろあの人が帰ってくる。

体が震える。

こんな姿見られたらまた・・・。

___何に震えてるんだ?俺にか?あぁ?

治まれ・・・治まれ・・・。

ピンポーン

呼び鈴が鳴る。

早く・・・!早く開けないと!

玄関まで走る。

あっ!!どさりと、足がもつれて転んでしまった。

カチャリ・・・。ドアのカギを開錠し、ドアが開いていく。

___早く開けてくれよ。

静かに私に近づいてくる。

いや・・・

今日もまた、長い夜が始まる。

__________

猛威を振るった8月の暑さも落ち着きを取り戻し始めた9月。

『やっと、暑さも和らいできたわね~。』

ジョッキに注いだビールを豪快に飲み干していく小鳥ちゃん。

「ほんとねぇ~。私は夏って苦手なのよね。」

『雪女だしそりゃそうでしょ。』

と、ケラケラと笑っている。

「夜はだいぶ涼しくなってきたし、今度みんなでバーベキューでもしようか。」

〈そりゃいいねぇ~。〉

と、小鳥ちゃんの隣で飲んでいた八月朔日君も同意する。

〈あ、春ちゃんスナズリね。〉

「は~い♪」

『春、私もスナズリ!』

「あ~残念、八月朔日君の分で最後よ~」

『え~!!八月朔日!スナズリちょうだいよ!』

〈嫌だよ!小鳥ちゃん何十本も食ったろ!!どれだけ食えば気が済むんだ!〉

『最後の一本は最高なのよ!!』

二人がわちゃわちゃとやっていると

カラカラカラ・・・

≪こんばんは♪≫

と、赤いブラウスを身に纏い、大きめのマスクをした女性がやってきました。

「こんばんは♪いらっしゃい蛍ちゃん♪」

『おぉ~、蛍~!』

蛍ちゃんはおいでおいでと手招きをする小鳥ちゃんの隣に腰を下ろした。

「何にします?」

≪スパークリングの日本酒をお願いします。≫

「はぁ~い。」

〈久しぶりだね。蛍ちゃん。〉

≪あら、八月朔日君?お久しぶりですね。≫

グラス一杯に注いだ日本酒にストローを挿しマスクの下から飲む。

颯さんと同じ飲み方です。

≪最近はこっちにいるの?≫

〈まぁね。やっぱし、居心地いいからさ。やっぱり、マスクは外せない?〉

≪うん・・・≫

『八月朔日!あんたはまたー!』

〈待って待って!そんなつもりで言ったんじゃないって!〉

≪小鳥ちゃん、八月朔日君そんなつもりで言ったんじゃないのわかってるから。落ち着いて・・・≫

そんなやり取りをしている姿を私は眺めていた。

〈今度バーベキューしようって話になっているんだ。蛍ちゃんも来るだろ?〉

≪私は・・・≫

蛍ちゃんの様子に思うことがあるような感じの八月朔日君。

ここに来るみんなは誰がどんな姿をしていようとも決して笑わない。だけど、やっぱり人には見られたくない。女の子なら尚更のこと、裂けた口だなんて。

__________

人間世界には私たち側には無い様々なものがある。

色鮮やかな服、嗜好を凝らした家具や雑貨、スイーツはまるで宝石のようである

人間の頭というのはなんと柔らかいのだろうか。

今日は何を買って帰ろうか。いつも迷ってしまうのだ。不知火君や八月朔日君が人間界のモノを好む気持ちがよくわかる。

アパレル店に立ち寄ろうとしたときに女性と肩が当たってしまい、反動で女性は転んでしまった。

≪すいません!大丈夫ですか?!≫

[はい・・・。こちらこそ、ぼ-っとしてしまってて・・・]

と、差し出した私の手をつかみ立ち上がる。

伸ばした彼女の袖は少しめくれ上がり、隠れていた痣らしきものが見えてしまった。

≪あの、よかったら一緒にお洋服みませんか?≫

自分でもどうしてこんなことを言ったのかよくわからない。人間と近くいればいるほど私の正体がバレる確率は高くなるのに・・・

[はい・・・。私でよければ・・・]

それからは、いっしょに洋服を見たり街中を歩いたりした。

≪服の下の痣・・・。≫

「あ・・・これは何でもないんです。ぶつけちゃって・・・」

彼女は弁明するが、そんな傷のつき方ではないのはすぐに分かった。

それに、彼女の左手の薬指には指輪。それと、彼女から漂ってくるポマードの臭い。

酷い匂いだ・・・。

≪旦那さん?≫

彼女の目をしかと見据え尋ねると、かわせないと悟ったのか

[・・・はい。]

と、素直に答えた。

それからは、せきをきったように男の行いを口にした。

自分への暴力。

男が不倫をしていること。

男の実家に、両親の会社が助けられている為自分が何もできないこと。

逃げ出すよう言ってはみたものの、その後のことを想像したのだろうか小刻みに体が震えていた。完全に彼女は男に支配されていた。

きっと腕だけじゃなく服の下も痣だらけなのだろう。彼女の選ぶ服はどれも肌の露出をできる限り抑えたものだったから。

顔に傷がないのは、顔に傷があれば周囲が何かを察知すると考えているからだろう。

ポマードを使う男にまともな奴はいないのか・・・

まったく、女を何だと思っているのか・・・。

初対面の相手故か彼女は涙を流していた。

___________

彼女と別れた後、あるモノに連絡を取った。

≪もしもし。お願いがあるんだけれど・・・≫

〔俺は探偵じゃないんだよ?ww

まぁ、蛍ちゃんからの依頼なら受けるけどさ。〕

___数日後、男についての調査報告書が届いた。男の好みの女性や性格などについてだ。

それらの情報をもとに、私は自分を彩り男の前へと表れた。

男は自分に自信がある故か、私を口説いた。

私の能力というべきか、条件というべきだろうか。

目標と定めた対象がいる場合にのみマスクを外すことができる。

つまり、対象が側にいる場合、対象並びに周囲には私の口が裂けていないように見せることができる。

男には今、私は普通の女に見えているのだ。

行きつけであろう、おしゃれなバー私に私を連れて行きたくさんの酒を飲ませつつ

甘い言葉を囁く。

顔が近づくたびにむせかえるようなポマード臭が漂ってくる。

・・・吐きそう。

店を出ると、私はマスクをつけた。

___なんで、マスクをするんだい?

≪病気の予防よ。≫

男はさも当然のように私の腰に手をまわしホテルのほうへと連れて行った。

当然、私も乗り気に見せた。

バーから最寄りのホテルへと私を連れてきた男は部屋に入るなり、私を抱きしめる。

≪ねぇ?私、綺麗?≫

___あぁ、綺麗だよ。

男は耳元で囁いた。

寒気がする。

男を離した私はマスクをゆっくりと耳から外していく

≪これでも?≫

___あ・・あぁ・・ぁ・・・

男はその場に尻もちをつきズルズルと後ずさりをする。

___ば・・・化物・・・・・

≪ひどいわぁ。綺麗って言いてくれたばかりじゃない?≫

男は周りにあったものを手あたり次第投げてくる。

≪そうやって、奥さんにも物を投げたり手をあげたりしたんでしょ?≫

___く・・・来るな!!

≪女性に暴力を振るう腕なんていらないですよね?≫

手をかざし鎌を取り出し、壁に切っ先を当て近づいていく。

キーーーーーーキリキリキリキリキリキリ

男の前に屈み、耳元に口を近づけ

≪女はね。・・・男の奴隷じゃないのよ。≫

グサリ

男の手の甲に振り上げた鎌を深々と突き刺した。

___あああああああああああ!!!!

恐怖と緊張。痛みにより男は意識を失った。

≪あまり、女を舐めないことね。≫

私は部屋を後にした。

時間になってもチェックアウトしないことを不審に思った従業員によって発見された。

病院で目覚めた男は警察に女の子と事情を話したが全く相手にされなかった。

ホテルの監視カメラには男の姿しか映っておらず。受付をした従業員は店柄同伴者の顔など見ていなかったため男が薬でもしているのでは?と疑いすらかけられた。

それと、男は「私綺麗?私綺麗?ワタシ綺麗?ワタシキレイ?」と焦点の定まらない目で呟き続け、精神科へと送られた。

もはや結婚生活など無理であり、男からDVを受けていたという妻の証言、病院での診断書の提出により離婚の成立、並びに多額の慰謝料が支払われた。

私がしたことは誰のためでもない。私自身の勝手な行い。

この行為が彼女のためになったなんて、傲慢な思い込みはしない。

私があの男を許せなかった。ただそれだけのことだ。

___

離婚にあたってドタバタとしていたが、引っ越しや荷ほどきがひと段落したある日

ポストに一枚の手紙が入っていた。

“女は強くなきゃダメ。笑って生きて”

そう書かれていた。

実際、あの人の身に何が起こったのかわからない。

けど、誰かが私のことを見てくれている。それだけは確かなことなようだ。

強く・・・ならないと。

__________

「最近は人間の女の子もマスクをよくしてるって聞くよね」

〈うん。すごいよ、真夏でもしっかりマスクつけていたりするよ。なんか、マスクをつけていると目元だけ化粧すればいいから楽らしい。おしゃれアイテムにもなるらしいけど。〉

≪私だけは言っちゃいけないけど、依存症になる女の子もいるらしいわ。人に見られことに臆病になっていたり、自信がなかったり。綺麗な姿を持っているのに・・・それだけで幸せなのに・・・≫

蛍ちゃんはグラスを握ってうつむいている。

〈ほれ、蛍ちゃん。これをあげよう。〉

八月朔日君はカバンから包装された紙袋を取り出した。

受け取った蛍ちゃんは紙袋を広げる。

≪あ・・・≫

中身は綺麗なものや、おしゃれなデザインのマスク。

「わぁ、すごぉい♪」

〈華と憂にお土産を買おうと入った店にたまたまあったのさ。それと、一番渡したかったのはこれなんだよねぇ〉

と一枚のマスクをカバンから取り出した。

≪ありがとう♪あれ?このマスク・・・≫

『穴が開いてるじゃない。』

マスクの中央、蛇腹部の谷部分に沿って少し長めに切られていた。

〈ちげぇよ。それは“開けてる”んだ。・・・蛍ちゃん、ここでお酒は飲むけど何も食べないだろ?そのマスクなら、空いた部分から食べられるだろ。〉

『へぇ~、考えたわねぇ。』

小鳥ちゃんはマスクを明かりに照らして眺めていた。

〈実は華と憂のアイディアなんだよ。子供ってのは頭が柔らかいよな。俺は、マスクは密閉していないと意味がない。って考えちまってた。〉

『なぁんだ、ちびちゃんずのお手柄か。』

え~。とブツブツ八月朔日君はつぶやいていたけど

≪八月朔日君、ありがとう。≫

〈おう。華と憂にも言ってあげてよ。・・・これで、バーベキュー一緒にできるだろ?〉

≪うん♪≫

にっこりと蛍ちゃんは笑っていた。

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