生きてることなんてつまらなかった。だって、何のために生きてんだかさっぱり分かんないんだ。楽しい時は、その瞬間だけで、それが持続することなんてなくて。親は将来のこと考えて勉強しろって口うるさいし。馬鹿みたいだよな。俺の人生なんだぜ?俺の好きなようにやっちゃいけないって言うのかよ。大人なんて信用なんねぇ。答えを求めても、何にも答えてくれないんだ。上手いことはぐらかすだけでさ。そんな奴らの言うことを素直に聞ける分けねぇじゃねぇか。
その点、音楽は良い。俺たちの気持ちを代弁してくれてる。だから俺だって、自分の好きな音楽は毎日続けられている。好きじゃないことを強要される人生は辛い。生きている価値が見いだせない。でも、俺は馬鹿だった。本当に馬鹿だったんだ。自分のことしか考えれてなくて、周囲のことが何一つ見れていなかったんだ。イヤホンをしていた俺は気付かなかった。後ろから、車が来ていたことなんて。
その日、俺は死んだ。
「は?」
目が覚めると真っ白な小さな部屋にテレビが置いてあるだけで、俺は何が何だか分からなかった。車とぶつかった感触だけは妙に生々しく残っていて、俺は身震いした。改めて分かる。ここは、病院なんかじゃない。ふと目の前を見ると、目が真っ赤な黒髪の男が居た。ただ一つ、違和感があるとすれば、それは、その男の背中から黒い翼が生えていることだけだ。
「よぉ、目ぇ覚めたか。」
「…アンタ、誰だ。」
「誰だって良いだろ。知ってどうすんだ。」
確かに、知ってどうするでもなかった。見てくれの通り悪魔だと答えられても俺にはどうすることもできない。どうして俺は当たり前のように質問したのだろうか。
「今度は俺が質問しよう。」
男が俺の傍に近づいてきた。俺は立ち上がって身構える。
「お前、生き返りたいか?」
想像していた質問と違い、俺は面を喰らった。見た目とは違い、なかなかマトモな思考の持ち主の様だ。
「生き返らせてくれって言ったら、生き返られるもんなのかよ。」
「そう言ってしまうと語弊があるが、お前が本当に生き返りたいのなら不可能じゃないさ。」
俺はもう一度よく考える。生き返ってどうする?音楽をしている時は楽しい。仲間と居る時だって楽しい。でも、それ以外に生きている価値なんてあったか?何のために生きていたんだ?また、自分の生きる意味を探すために無意味な時間を増やしていくのか?だったら、俺は…。
「俺は、ここが寿命だったんだと思う。だから、もう、いいや。」
俺のその一言に、今度は男が面食らった様子だ。やっぱり普通の人は、生きたいと泣き喚くもんなんだろうか。
「本当に良いのか?」
「うーん、生きるのも楽じゃないしさ。もっと、楽しいことが多けりゃ生きたいと思うんだろうけど、俺の人生別に普通だったし。」
「…そうか。」
男は心なしか悲しそうな顔をしていた。なんでだ?別に俺の人生なんだから、それで良いじゃねぇか。それよりも俺は、気になった質問をぶつける。
「つーかさ、なんでテレビがあんの?」
「死ぬことを決意したお前には必要ないと思うがな。」
「いやいや、もう死ぬからこそ、気になることは消化しておきたいんじゃん。」
男は無言で俺にリモコンを渡した。悪魔が観るテレビの内容とか正直気になるだろ、そう思って点けたテレビにはICUの中で眠っている俺の手を必死になって握っている母の姿とそんな母の後ろで涙を堪えている父の姿が映っていた。
「アンタ!お母さんより先に死ぬなんて、許さないんだからね!もう、勉強なんて出来なくてもいいから、ちゃんと目を開けなさい!アンタはいっつも、お母さんの言うこと聞かなかったんだから、こういう時ぐらい聞いたらどうなの!音楽も出来なくなっちゃうわよ!友達と遊びにも行けなくなっちゃうわよ!良いの⁉」
「こんなことなら、もっとお前の好きなこと、させておいてやるんだったなぁ。」
「お父さん、弱気になっちゃだめよ!あたしたちがしっかりしないと、この子も安心して家に帰ってこれないでしょう!ほら、泣かないの!」
「大人になったら、就職して自分の金と時間が出来るからって当たり前のように考えてたのが間違いだったんだ。この子が明日も生きている保証なんてどこにもなかった。」
「アナタ!いい加減にして!この子がこの話聞いてたらどうするの?この子を悲しませるような発言はしないで頂戴!」
両親の言い争いを聞きかねたのか、看護師さんがやってきて注意している。何やってんだよ、ICUって、治療を集中的にしなきゃいけない人がいっぱいいるんだぜ?子供の俺でも静かにしなきゃいけないって分かるのに…。ついには母まで大声で泣き始めた。
「チャンネル、変えてみろ。」
俺は男に言われるままチャンネルを変えた。俺の連れが、病院の待合室みたいなところで生気吸い取られたような顔をして座っていた。
「なぁ。」
「ん?」
「なんで、ICU、身内しか入れないんだろうな。」
「…。」
「俺達だって、アイツがどうなってんのか知る権利あると思わねぇ?」
「うん。」
「だって、友達なんだぜ?なんで、大事な奴が苦しんでるのに、傍に居てやれないんだよ。おかしすぎるだろ。」
「うん。」
「畜生!絶対、絶対、元気になれよ!」
「それ、アイツに直接言ってやれよ。」
「言う。言って、元気になったら、一緒にライヴする。」
「そしたら、俺も観に行くわ。」
俺の目からは自然と涙が零れていた。他のチャンネルを回しても、じいちゃんばあちゃんや担任の先生、俺に音楽を教えてくれる近所のお兄さんとか、みんな俺のことを心配してくれていて、俺はどうして自分の人生に価値がないって決めつけていたんだろうと悲しくなった。
「これでも、生き返りたくないか?」
男が俺の横に座って言った。
「…たい、生きて、みんなの元に帰りたい!」
俺は大声を上げて泣いていた。分からない。理由なんてない。それでも、ただ、俺は生きていたい。そんな俺を見て、男は優しく笑った。
「安心しろ、そこまで言うなら、帰れるさ。」
男が俺の手を引っ張った。白い扉の目の前まで連れて来られ、俺は息を呑む。
「ここを、開ければいいのか?」
「あぁ、そうだ。」
「信じるぞ。」
俺はそう言って、ドアノブに手を掛けた。男が言った。
「もう、来るんじゃねぇぞ。」
俺は、男の質問に頷いた。痛い。全身がとてつもなく痛い。感覚が分からない。ただひたすら、痛みしかない。周りがざわざわしている。なんだ?俺は本当に生き返れたのか?右手に異常に痛みを感じて目を開けた。誰かいる。まだ、耳はもやもやとしていて会話は聞き取れない。
けれど、見たことのある景色に俺は安心した。もう当たり前なんて分からない。普通じゃなくて良い。それでも、俺はやっと自分の生きる意味を見つけられたから。答えがすぐ傍にあったんだと気付いた時、人間はなんて言うか知ってるか?俺の場合は『ありがとう』だったんだ。
作者適当人間―駄文作家
ワンオクのアンサイズニアから、インスピを貰った作品です。
主人公の様な考えを持っているのが怖いと思っていただければ幸いですm(._.)m