第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第2話

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第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第2話

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第2話「もう1つの伝承」

私達は新幹線を降り

在来線に乗り換えた

夏休みでもあるので新幹線はそれなりの混みようだった

「こっちですよ」

私達は渚に促され乗り換えホームへと歩いた

何本か路線はあるようだったが

向かう線に近づくほどに人はいなくなっていた

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そして今、待っているホームには

私達を含め人は10人いるだろうか

「ここって新幹線止まる必要あるか?」

潮の言葉に渚はふたたびムッとした

渚と潮がじゃれていると

「ホームでじゃれるな」

東野さんが言う

私達のいつもの風景だ

東野さんも変わった

私達がサークルに入った時は

とっつきにくい印象があった

サークルでの話し合いでもどこかつまらなそうにしていたし

活動報告のようなアルバムでも姿を見るのは稀だった

潮が東野さんと行動を共にし、私達も側にいるようになり

いつの間にか東野さんは

1番上のお兄ちゃん、そんな言い方がぴったりになった

程なく東野さんのベクトルと旅行サークルの他のメンバーが相容れない事が分かり始め

サークル内にオカルト部などと揶揄されるグループが出来てしまった

「来ましたよ」

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渚の声に顔を向けると

電車がゆっくりとホームに入って来た

2両編成の可愛い電車だった

荷物を持ち上げ電車に乗り込むと

乗客は人車両に2〜3人というところだ

渚が言うには通学、通勤電車で

夏休みのこんな時期は乗客はまばらと言うことだった

「わたしが住んでた頃わね」と、付け加えた

渚は中学生の時にこの地域から離れている

車窓には

山、田園、海と

これ以上ない長閑な風景が繋がっていた

「北嶋姉妹、潮、西浦」

東野さんの声で私達は目を覚ました

電車に揺られること1時間

東野さんを残し私達はいつの間にか眠ってしまっていた

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出発が遅かったこともあり

目的の駅、『鬼灯』に着いたのは

夕方を過ぎた頃だった

ホームに降りると

風に誘われて潮の香りがした

「海の家なんて無さそうだね」

ハ月の言葉に潮もがっかりした様子だった

海と言っても

観光地と言うより漁業の町といったところだろう

観光地特有のウエルカムな雰囲気は感じない

無人の小さな改札を通ると

一台の白いワンボックスカーが待っていてくれた

「よぉー」

車から1人の女性が降りてきた

「園さーん!」

渚が駆け寄る

「遠いとこよくきてくれたね」

ニカッと笑うこの女性が

今回の旅行でお世話になる宿の女将さん

西浦園(にしうらその)、その人だった

「こんな何にも無いところ、よく来るね」

わははと笑い私の肩をポンポンと叩いた

「はいっ、乗って乗って」と

園さんの車で宿に向かうことになっていた私達はお尻を叩かれながら車に押し込まれた

車は長く緩やかな坂を下っていく

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しばらく走ると道がひらけた先に海が広がってきた

やはり海はテンションが上がる

それまで疲れた顔を見せていたみんなも

わーっ、うぉー、と様々な声をあげ興奮していた

駐車場に着き車を降りてみると宿は海の近くというか

宿、道路を挟んで海

そんな感じだった

海は砂浜ではなく港だった

「少し歩けば砂浜もあるよ」

園さんはあんた達、砂浜が欲しいんだろと笑った

宿は一階が食堂、二階が民宿といった感じの造りで

食堂も海で働く人達が来るぐらいで

民宿の方は私達が久しぶりの客のようだった

食事の支度出来てるよ、と

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食堂の奥の座敷に通された

やっぱり畳は落ち着く

靴が脱げるだけで疲れも飛ぶものだ

「今、焼き物出すからね」

目の前にはお刺身や小鉢など

海への旅行を実感できる料理がいくつも並んでいる

「来てよかったでしょ〜」

渚もどうだ、と言わんばかりの顔をした

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焼き魚もテーブルに並び

私達は食事を始めた

「これ太刀魚ですか」

東野さんが園さんに尋ねた

「よく、分かったね

これが鬼灯町の名産の太刀魚よ」

と、答えた

皮がキラキラと銀色に光るその魚は

焼き魚、お刺身にも酢の物にもなっていた

ちょっと待ってて、と

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調理場へ下がった園さんが手にしていたのは

体長1メートルはありそうな

秋刀魚のお化けのような魚だった

口には鋭い歯が並び

鱗のないその姿はまさに太刀という名前そのものだった

「こんなの都会のスーパーじゃ見ないでしょ、

お刺身なんてここら辺じゃなきゃ食べられないわよ」

ねっ、と園さんは渚と顔を見合わせて笑った

「普通見る太刀魚より一回りは大きいですね」

釣りを嗜む東野さんも驚いているようだった

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「昔々ね

この地域で魚が全く獲れなくなったことがあったらしいの

もう村人は困り果ててね

どうしようかと思っているところに

ボロを纏った僧が村に辿り着いたんだって

何か食べ物をって

村にも食べ物はもうほとんど残ってなかったんだけど

そこへ居合わせた双子の姉妹がね

自分の家から食べ物をもってきて

僧に振る舞ったらしいの

僧の事を訝しげに見ていた双子の親も勝手なことするな!って

双子を怒ったのよ

食事を終えた僧は

手を空にかざすと鬼灯の実を1つ差し出したの

これを小高い丘の土に埋めなさい

毎日お酒をかけなさい

鬼灯が育ち実の中から出たものを海に投げなさい

それだけ言うと僧は海を歩き島に渡ったらしいの

あ、その島ってここから見える曲津島なんだけどね

それで僧が立ち去った後

村人は狸、狐に騙されたって

鬼灯の実を捨ててしまったらしいんだけど

その双子の姉妹が

その実を拾って丘に埋め

バレないようにこっそりお酒もかけてたらしいの

するとね

3日もしないうちに

それは大きな鬼灯が生って

その中からは刀が出て来たらしいの

その刀を海に投げ込んだところ

大きな太刀魚が取れるようになった

これが鬼灯町に伝わる太刀魚の話ね」

園さんは手振り身振りを交えて

話を終えた

「えっ?」

4人が渚を見た

「あぁ、そうそう

そういう伝承あるのよね!」と

渚は私達の疑問を強引に断ち切り話題を変えた

東野さんは何か思案しているようだったが

私達は食事の美味しさで盛り上がり

伝承のことなど頭からは消えていた

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食事を終えた私達は二階の部屋へ案内された

部屋は3つあり

2つの部屋で男性2名と女性3名に別れた

園さんは

「渚、後は任せたよ」

と、言うと下へと降りていった

荷物を置くと私達は

東野さんの部屋へと移動した

「西浦…西浦の話した伝承とはだいぶ違うな」

東野さんは静かに言った

考えてみれば渚の話は漁業の町に伝わる話にしては

余りにも残酷で

名産の太刀魚にしても

双頭の魚、なんて言われるとなんとなく気味の悪いものを想像してしまう

明るい漁師町を売りにするなら園さんの話の方が民話としても上出来だろう

私達の視線を受け流すように

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渚は窓の外を見つめて言った

「だから私の話したのは禁忌だって…」

見つめるその先には

1つの島が見える

海にうつる月明かりが

道を示し

私達のいく先を暗示しているかのようだった…

第3話へ続く

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僕も、こういう雰囲気のある怪談を書きたい。

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一話目をクリックめんどくささから表示切替して読んでたんですが、あっそうだイラストの表紙とかあったんだと思い出し、この回でポチポチしながら見ました。良いっ!すごく良いっ!
楽しいっ!イメージしやすいっ!
というわけで、もう一回修行者様のページ読み直してきます。
作品のすばらしさに皆さんの愛がひしひしと伝わってきます。

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