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中編4
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あつい……あつい……

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 私の地元は、

年寄りと猫ばかりが目につく鄙びた漁村です。

学校も病院もほとんどない田舎なのですが、親しい友人も数人いたし、それなりに充実した生活を送っていたと思います。

中でもなっちゃんは大の親友で、高校まで一緒に遊んでいたんだけど、私は関西の女子大に進学するため地元を離れ、なっちゃんは高校卒業後、地元の郵便局に就職したので、その後ほとんど交流はなくなりました。

「ほとんど」と言うのは、直接会うことはなくなったという意味で、電話やラインのやり取りは続いていた、ということです。

やりとりの内容は、仕事やプライベートの他愛無いことばかりでした。

その後、私が関西の会社に就職してからも、たまにですが、ラインのやり取りは続いてました。

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 しばらく連絡していなかったので、私は先週のある日久しぶりになっちゃんに、様子伺いのラインをしたのですが、既読が付いたのは、その翌日の午後2時5分。

メッセージが来たのは、その3分後。

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 10月も過ぎてるのに暑い?

私はすぐ、

-あつい??

と返したのですが、それから既読もつかず、連絡もありませんでした。

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 数日後、なっちゃんの自宅から電話があり、彼女が亡くなったということを知りました。朝方バスタブの中で倒れていたらしく、家の人が気付いた時には、もう脈がなかったそうです。

なにぶん田舎ですから、きちんとした医療施設もなく、十分な救命措置も受けられずに亡くなったのでしょう。

突然の親友の死にショックを受けた私は、しばらく仕事にも身が入らず、食事もあまりできませんでした。

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 私は休みを利用して、急きょ帰省しました。

葬式には出席できなかったのですが、親友だったなっちゃんのお墓に、線香くらいはあげたかったからです。

昼過ぎに地元の駅に着いた私を、漁師をしているなっちゃんのお兄さんが車で迎えに来てくれて、お墓まで連れて行ってくれました。

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 村民の共同墓地は村から少し離れた小高い丘にあります。

二人してお墓を洗い草むしりし、私が駅前で買ったお花を供えます。

それから線香をあげ、お墓の前で並んで合掌しました。

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「夏子、良かったな、

お友達がわざわざ来てくれたぞ」

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お兄さんが呟いた言葉に、私は少し目頭が熱くなりました。

そして、どういうわけか、あの最後のメールのことが、すごく気になってきていました。

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 帰りの車の中で、お兄さんから泊まっていったら、と薦められたのですが、明日も仕事なので丁重にお断りし、駅まで送ってもらいました。

電車の時間まで少し余裕があったから、私たちは駅の駐車場に停めた車の中で、話をしました。

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「なっちゃんはいつ亡くなったんでしょうか?」

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私は運転席のお兄さんの日に焼けた横顔を見ながら尋ねました。

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「あれは祝日で体育の日だったから、10月9日だったなあ。

下の息子が運動会ということで、珍しく早起きしていたんだが、あいつが風呂場で倒れている夏子に気づいたんだ」

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そう言うと、お兄さんは作業着の胸ポケットからたばこを出し、火を点けた。

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「近くの医院の年寄り先生に来てもらい、いろいろ手を尽くしてもらったんだが、ダメだった。

それからはあっという間だったなあ。

その日の夜に家でお通夜をやり、翌日の午前中に葬式、午後には荼毘に付した。

そして夕方、さっきのお墓に納骨したんだ」

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お兄さんは遠いどこかを見るような目で、ため息をつきました。

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 私は帰りの電車の中で、お兄さんが言っていたことを思い出していました。

―なっちゃんが亡くなったのは、10月9日。

葬式は、その翌日10月10日の午前中。

そして荼毘に付されたのが、その午後。

私はバッグから携帯を出し、なっちゃんとの交信記録を見た。

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―私がなっちゃんにラインを送ったのは、10月9日午後8時ちょうど。

既読が付いたのが、10月10日の午後2時5分!

そしてメッセージはその3分後!

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「え!何で?そんなことあり得ない!」

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 私は思わず椅子の上に携帯を落としました。

画面には、なっちゃんからの最後のメッセージが表示されていました。

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 夜、大阪駅に着いた私はプラットホームからすぐ、なっちゃんの自宅に電話して、お兄さんを呼び出してもらいました。

型通りの挨拶の後、要件を切り出します。

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「あの、変なこと聞くようですけど、なっちゃんの携帯はどうされたんでしょうか?」

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しばしの沈黙の後、お兄さんはあっけらかんと

答えました。

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「あー、思い出した!携帯ね。 

携帯は、荼毘に付すときに、他の思い出の品と一緒に、棺桶の中に入れたよ」

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―棺桶に入れた!

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 なっちゃんから私に最後のメッセージが来たのは、10月10日の午後2時8分。

それは、まさに彼女が火葬されている最中です。

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もし、なっちゃんが火葬される直前、棺桶の中で意識を取り戻したとしたら……

恐ろしい光景が、私の頭の中を駆けめぐりました。

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