wallpaper:4312
私の地元は、
年寄りと猫ばかりが目につく鄙びた漁村です。
学校も病院もほとんどない田舎なのですが、親しい友人も数人いたし、それなりに充実した生活を送っていたと思います。
中でもなっちゃんは大の親友で、高校まで一緒に遊んでいたんだけど、私は関西の女子大に進学するため地元を離れ、なっちゃんは高校卒業後、地元の郵便局に就職したので、その後ほとんど交流はなくなりました。
「ほとんど」と言うのは、直接会うことはなくなったという意味で、電話やラインのやり取りは続いていた、ということです。
やりとりの内容は、仕事やプライベートの他愛無いことばかりでした。
その後、私が関西の会社に就職してからも、たまにですが、ラインのやり取りは続いてました。
nextpage
しばらく連絡していなかったので、私は先週のある日久しぶりになっちゃんに、様子伺いのラインをしたのですが、既読が付いたのは、その翌日の午後2時5分。
メッセージが来たのは、その3分後。
nextpage
|
あ
つ
い
あ
つ
い
nextpage
10月も過ぎてるのに暑い?
私はすぐ、
-あつい??
と返したのですが、それから既読もつかず、連絡もありませんでした。
separator
数日後、なっちゃんの自宅から電話があり、彼女が亡くなったということを知りました。朝方バスタブの中で倒れていたらしく、家の人が気付いた時には、もう脈がなかったそうです。
なにぶん田舎ですから、きちんとした医療施設もなく、十分な救命措置も受けられずに亡くなったのでしょう。
突然の親友の死にショックを受けた私は、しばらく仕事にも身が入らず、食事もあまりできませんでした。
separator
wallpaper:4302
私は休みを利用して、急きょ帰省しました。
葬式には出席できなかったのですが、親友だったなっちゃんのお墓に、線香くらいはあげたかったからです。
昼過ぎに地元の駅に着いた私を、漁師をしているなっちゃんのお兄さんが車で迎えに来てくれて、お墓まで連れて行ってくれました。
wallpaper:4386
村民の共同墓地は村から少し離れた小高い丘にあります。
二人してお墓を洗い草むしりし、私が駅前で買ったお花を供えます。
それから線香をあげ、お墓の前で並んで合掌しました。
nextpage
「夏子、良かったな、
お友達がわざわざ来てくれたぞ」
nextpage
お兄さんが呟いた言葉に、私は少し目頭が熱くなりました。
そして、どういうわけか、あの最後のメールのことが、すごく気になってきていました。
nextpage
帰りの車の中で、お兄さんから泊まっていったら、と薦められたのですが、明日も仕事なので丁重にお断りし、駅まで送ってもらいました。
電車の時間まで少し余裕があったから、私たちは駅の駐車場に停めた車の中で、話をしました。
nextpage
「なっちゃんはいつ亡くなったんでしょうか?」
nextpage
私は運転席のお兄さんの日に焼けた横顔を見ながら尋ねました。
nextpage
「あれは祝日で体育の日だったから、10月9日だったなあ。
下の息子が運動会ということで、珍しく早起きしていたんだが、あいつが風呂場で倒れている夏子に気づいたんだ」
nextpage
そう言うと、お兄さんは作業着の胸ポケットからたばこを出し、火を点けた。
nextpage
「近くの医院の年寄り先生に来てもらい、いろいろ手を尽くしてもらったんだが、ダメだった。
それからはあっという間だったなあ。
その日の夜に家でお通夜をやり、翌日の午前中に葬式、午後には荼毘に付した。
そして夕方、さっきのお墓に納骨したんだ」
nextpage
お兄さんは遠いどこかを見るような目で、ため息をつきました。
nextpage
wallpaper:4289
私は帰りの電車の中で、お兄さんが言っていたことを思い出していました。
―なっちゃんが亡くなったのは、10月9日。
葬式は、その翌日10月10日の午前中。
そして荼毘に付されたのが、その午後。
私はバッグから携帯を出し、なっちゃんとの交信記録を見た。
nextpage
―私がなっちゃんにラインを送ったのは、10月9日午後8時ちょうど。
既読が付いたのが、10月10日の午後2時5分!
そしてメッセージはその3分後!
nextpage
「え!何で?そんなことあり得ない!」
nextpage
私は思わず椅子の上に携帯を落としました。
画面には、なっちゃんからの最後のメッセージが表示されていました。
nextpage
|
あ
つ
い
あ
つ
い
nextpage
wallpaper:51
夜、大阪駅に着いた私はプラットホームからすぐ、なっちゃんの自宅に電話して、お兄さんを呼び出してもらいました。
型通りの挨拶の後、要件を切り出します。
nextpage
「あの、変なこと聞くようですけど、なっちゃんの携帯はどうされたんでしょうか?」
nextpage
しばしの沈黙の後、お兄さんはあっけらかんと
答えました。
separator
wallpaper:1791
「あー、思い出した!携帯ね。
携帯は、荼毘に付すときに、他の思い出の品と一緒に、棺桶の中に入れたよ」
nextpage
―棺桶に入れた!
separator
wallpaper:3620
なっちゃんから私に最後のメッセージが来たのは、10月10日の午後2時8分。
それは、まさに彼女が火葬されている最中です。
nextpage
wallpaper:4442
もし、なっちゃんが火葬される直前、棺桶の中で意識を取り戻したとしたら……
恐ろしい光景が、私の頭の中を駆けめぐりました。
作者ねこじろう
分かりにくいようですので、
タイトルと内容の一部を
変更しました!