俺には霊感はない。
法律上も霊なんてものは存在しないことになっている。
当然だ。そんなものは無いのだから。
存在を証明できないものを前提に話をしてなんになる?
こっちはビジネスだ。生活かかってんだ。
ボンクラの戯言に足を引っ張られてる余裕はねえんだよ。
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「っんなんだよ。チキショウめ!」
俺は道端の小石を蹴りながら、夕闇迫る田舎道を歩いていた。
長らく賃貸リストからも外れていた、いわゆる「倉庫番物件」。
やっと契約にこぎつけたってのに。
クソ上司の言葉を思い出して、俺はまた胸糞が悪くなった。
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「若槻君ねえ。これ、重要事項、顧客のサインがないんだけど。
まさか、事故物件の説明、してないんじゃないよね?
困るねえ。これで顧客に何かあったら、告知義務違反で上げられるのはこっちだよ?君の怠慢に付き合わされるのはご免だねえ」
上司が舐め上げるような視線を向けた。
「サイン、もらってきてくれるね。今日中だよ」
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客のほうは誤魔化せたってのに、チンケな小男のせいで、書類にサインをもらわなけりゃならなくなった。
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(ケッ。契約取ったってのに、たかが書類不備ごときでネチネチと)
うだうだと考えながら歩いているうちに、夕闇が迫ってくる。
やがて、木立のシルエットの向こうに、件の一軒家が見えてきた。
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俺は木立の影に身を隠すと、マイルドセブンをくゆらせながら、古びた木造住宅を眺めた。
窓には明かりがついている。客は家の中にいるらしい。
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(確か首吊りだったよな。ここ。
あー、なんて言って名前書かせようかなあ。)
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そう思いながら何とはなしに見ていると、カーテンの向こうにわずかに人影が動いているのが見えた。
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(・・・?)
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直後、違和感を感じた。
今日契約した客は、独り身の男だったはずだ。
だが、カーテンに遮られてうっすらとしか見えないものの、今窓に移っているのは、長髪の女性に見える。
女がいるような男には見えなかったのだが・・・・・・。
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(・・・・・・え?)
俺の煙草を持つ手が止まった。
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女の影が、何か、紐のようなものを天井に向かって投げたように見えた。
(洗濯物?・・・いや、違う)
女が椅子のようなものを持ってきて、その上に立った。
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(おい・・・冗談だろ?)
紐のようなものを首にかける。
(・・・よせよ)
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一呼吸、二呼吸したあと、女が椅子を蹴った。
(止せ!!)
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女の体が宙に浮いた。いや、上から吊り下げられた。
両足が激しく動く。
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shake
「止せええ!!!」
思わず絶叫していた。
(首を吊りやがった!)
俺は無我夢中で一軒家に向かって走り出した。
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to be continued 月舟様
作者修行者
僭越ですがご指名いただきまして。こんな話を。