僕さぁ、全国チェーンの洋菓子メーカーでアルバイトしてるんだけど、その仕事っていうのが、倉庫みたいに巨大な冷蔵庫の管理なんだよね。
防寒対策はしてるけど、なにせ冷蔵庫の中はマイナス30℃の世界だから、仕事は毎日厳しいよ。
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で、僕がみんなに聞いてもらいたいことがあって、それっていうのは、この会社の秘密ってことなんだ。
まぁ、秘密ってのは、ちょっと大袈裟な言い方かもしれない。
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要するに、消費者に知られたらイメージが悪くなるから、会社としてはオープンにしたくない事柄っていう、ただそれだけのことなんだけど…。
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実はさぁ、うちの会社の場合、クリスマスケーキは1ヶ月以上前にほとんど作り上げていて、大量に冷凍して保管してあるんだ。
んで、出荷前に解凍して、イチゴなんかをあとのせして、各フランチャイズ店に出荷してるってわけ。
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ケーキってナマモノのイメージが強いから、1ヶ月以上も前に作り置きして冷凍してあるなんて、大声では言えないからね。
まぁ、クリスマスの時期は目も回るような忙しさだし、それくらいのことはしょうがないことだと思うよ。
もちろん品質には問題ないわけだし。
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知らないほうがよかったかな?
けどね、本当に聞いてほしい秘密は、それじゃないんだ。
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実はさぁ、おおやけにはされてないんだけど、今年の夏、うちの会社で、ひとりの男性社員がある日突然、行方不明になったんだ。
でもさぁ、本当は彼は行方不明になんか、なっていなかったんだ。
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たぶん、事故だったんだと思う。
きっと、仕事中になんかの拍子で、冷蔵庫の中に閉じ込められちゃったんだろうね。
今もいるんだよ・・・冷蔵庫の片隅に…。
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このあいだ、フォークリフトの操作をヘマして、冷蔵庫の隅にあった箱を壊してしまったんだけど・・・そしたら、中からカチコチに凍った彼が出てきたんだ。
もちろん死んでたよ。
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目は半開きで、肌はグレーを混ぜた紫色みたいな色で、会社の作業服を着たまま、体育座りのような格好で、箱の中からコロリンと転げ出てきたんだ。
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そりゃあ、その時は僕だってビックリしたさ。
もちろん、すぐに冷蔵庫の主任に報告したよ。
でも、主任は慌てるどころか、冷静な表情でこう言ったんだ。
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「そんなことはわかっている。
社長も知っている。
だから、お前は見なかったことにしてくれ。
忘れることが身のためだ。
黙っていてくれれば、12月のボーナスを倍払っても構わん」
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僕は悩んだけど、結局、警察には通報せず黙っていることにしたんだ。
そしたらさ、今日ボーナスが出たんだけど、一桁間違ってるんじゃないかっていう金額だったんだ。
僕はこれで、共犯になってしまったわけだ。
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会社が、この件をひた隠しにしたい気持ちもわかる。
なんたって、そんなことがバレたら冷蔵庫に山積みにされてる大量のクリスマス向け商品が全て廃棄処分になってしまうからね。
それだけじゃない。
会社全体のイメージが悪くなってしまえば、経営が傾くことになるからね。
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死体を処分すればいいのかもしれないけど、実行しようとすれば手間がかかるし、足がつくリスクも出てくる。
だから、会社としては、彼を「行方不明」ってことにして、冷蔵庫の片隅にひっそりと隠れていてもらうしかないんだと思うよ。
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冷蔵庫の中なら、何十年と保存しても、腐敗することはないからね。
一緒に保管している商品の品質には、なんら影響はないわけだし…。
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こんな風に、みんなにリークしてしまったわけだけど、秘密を知ったお客様に、少しでも不快な気持ちを和らげてもらおうと、僕なりに機転を利かせました。イエーイ♪
せっかく冷蔵庫の主になった彼に、その仕事にぴったりのアイテム「サンタの帽子」をプレゼントしてあげたんだ。
去年の忘年会のコスプレ衣装をパクってきたやつなんだけどね。
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クリスマスケーキに喜ぶ子どもたちの笑顔を直接見せてあげられないのは残念だけど、きっと彼も冷蔵庫の片隅で、カチコチの顔面が粉々に砕け散っちゃうくらいの満面の笑顔で、喜んでくれるに違いないよね(^o^)v
なんか、僕って変かな?
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それと、最後に言いたいことがひとつ…。
「クリスマスケーキのご予約はお早めに」
・・
・
作者とっつ
っていう、フィクションですが、中国あたりなら現に起こってるかも…。