長編8
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よくある話

よくある話ですが聞いてください。

誰かに聞いてもらうことで何か整理がつくような気がするんです。

その日、彼女Aと友人B、俺の3人で有名な心霊スポットの峠、トンネルへ行くことになった。

正直俺は行きたくなかった。

幽霊というものを信じてるのもあるが、過去にそういった類いを経験していたり

はっきりいって連れて帰る自信すらあったからだ。

ただ、友人と彼女が妙に乗り気になってしまってる手前同行しなければならなくなった。

というのも、車を持ってるのは俺だけだったし

友人とはいえ、彼女が2人で行くようになるのは嫌だったからだ。

うちにいた彼女を乗せ、友人のバイト終わりに迎えに行った。

道中3人で最近出来事など世間話をしながらスポットへと向かった。

夜間の運転ということもあり、注意散漫にならないよう気をつけるために俺は基本的に相槌を打ったり、タバコを吸うにとどまっていたけど。

山道へ入り進む頃には会話は途絶え、妙な緊張感の様なものが流れていた。

道の舗装は所々劣化しており、車体が揺れることもしばしばあった。

今だからこそ言うが、ハイビームで大きく前を照らしていた視界の端々にチラチラと見えてしまっていた。

だが、車内の雰囲気的にそんなこと言うべきではないと思ったから言うのは控えた。

今になって思えば、彼女も友人も「やっぱりやめて帰ろう。」そう言いだしてくれるのを待っていたのだと思う。

しかし、言い出しっぺの2人がそれを俺に向けて言うのは妙な言いづらさやプライドが邪魔をしたのだろう。

俺が気を利かせて言えばよかったんだ「帰ろう。」と。

鬱蒼とする木々を超えて、影から見つめるものたちに一瞥することもなく

車はただひたすら山道を進む。

危険であることもわかっているが、こういう場合の運転だとどうしてもバックミラーに目がいってしまう。

後部座席に何か乗ってるのではないか?なんて考えてしまうから。

ただ、幸いというべきなのか後部座席には友人がいる乗っていた。

故に何かあれば気づいてくれるはず。

そんなことを思いながらバックミラー越しに友人の顔を見ると酷く目が泳いでいた。

不安や緊張からくる類のものだ。

「2人とも大丈夫?」

俺の言葉に2人はただ、うん。

としか、答えてくれなかった。

(こりゃ、大丈夫じゃないな。)

そうこうしているうちに目的のスポットへ到着した。

「着いたよ。」

彼女は意を決したというのか、腹を括ったというのか

「よし!行こう!」

そう言っていたが、友人は

「……ごめん。俺、乗っていていいかな…?」

と言った。

道中の様子からして、そう言うだろうなとは思っていたから

「いいよ。」

「せっかく来たし、私たちは行ってくるね!」

そう言って、友人を車に残してトンネルへとと入っていった。

もちろん、車の鍵は持っていった。

疑うわけではないが、恐怖にかられた友人が運転して逃げ出すのを防ぐためだ。

そうなっては俺らが困る。

彼女は、俺の腕にしがみつき歩く。

「そんなに怖いなら何でここに来よう。何て言いだしたんだよ。」

「なんだろう…。ノリっていうか、変にテンション上がっちゃって。ごめんね。俺くんがいるなら何か大丈夫な気がしたんだ。」

「そっか。」

彼女の頭に手を置いてクシャッとした後

「何もないな。戻ろう。あいつ震えてるかもしれないし。ハハッ」

嘘。何もある。トンネルの奥から無数の手が手招きをしていた。

地面から生えた手、壁から生えた手、天井から生えた手。闇に浮かぶ手。

そういう目的でなく、通り道として利用している人もいる。故に心霊スポットとは言えどトンネル内は灯りもある。

なのに奥は真っ暗で俺には何も見えなかった。

間違いなくあの手は俺らを招いている。

滲む冷や汗と震える膝を隠す様に彼女の返事を待たずに踵を返した。

よくある話、陳腐な二番煎じと思うだろうが実際遭遇するととんでもなく恐ろしいんだ。

不特定多数からの悪意なのか敵意なのか、歓迎なのかわからないがそんなものを向けられると途端に足がすくむ。前進も後退もできない。

だが、今は一人じゃない。

彼女は俺にすがったが、俺も彼女にすがり2人でトンネルを抜けた。

早く帰ろう。

そう思い。足早に車へと近づいたが

友人がいない。

「あれ?あいつは?!」

「何でいないの?!」

最初は用を足しにでも行ったのだろうと2人で車で待っていたのだが15分経っても戻ってこない。

いよいよ、不安になった俺は

「周り探してくる!乗っててくれ!」

そう言って、乗せてあった懐中電灯を手に周囲を探し回った。

といっても夜の峠だ車のライトを確認できる範囲のみに留まった。

無茶をして俺まで戻れなくなったら元も子もない。

だが、結局友人を見つけることは出来なかった。

場所が場所なだけに朝まで待つわけにはいかない。トンネル内で見た手もあるからだ。

「警察に連絡しよう。」

「うん。」

幸い、一本ではあるが電波が立っている。

110番に電話し

「…場所は、〇〇トンネルの側です。はい、申し訳ありません。よろしくお願いします。」

電話を取った警察官の様子から、辟易したような"またかよ。"とでも言いたげな雰囲気だったが、こちらが一方的に悪い。似たような通報がこれまでにもあったのだろう。

同じような通報を何度も受ければ嫌にもなる。

警察官の気持ちも十分に分かる。

通報から15分ほどしてパトカーと共に2人の警察官が到着した。

警察官に事情を話し、捜索を手伝ってもらうことになった。

万が一山の中で遭難してしまった時のために、車に備え付けの発煙筒を持って行った。

彼女を車に残して、俺と警察官2人の計3人で捜索を開始した。

周囲を1時間ほど捜索したがやはり見つからない。

警察官と、やはり夜の捜索には限界がある。日が昇り次第、人員を増やして改めて捜索した方が良いだろう。と話をしていると。

「きゃぁ!!!」

と言う悲鳴をあげて彼女が車から飛び出してきた。

彼女の突然の悲鳴に俺も警察官も心臓が口から飛び出すような思いした。

「ど、どうしました!?」

警官の1人が彼女に事情を聞くと

「車の下から何か床を叩くような音がしたんです!!」

「え?!」

俺も警察官も車の側で話していたのだがそんな音は聞いていない。

「気のせいじゃない?俺らは何も聞こえなかったよ?何か聞こえました?」

と、尋ねると

「いや、私も何も聞こえませんでしたけど…」

「私も…」

と、2人も口を揃えて答えた。

「絶対聞こえたの!!」

彼女のあまりの剣幕に、

「それじゃぁ、下を見てみましょう。その方が早いですし。」

と、膝をついて車の下を懐中電灯で照らすと

「うわぁぁ!!!いるぞ!!!」

と、警察官は大きな声をあげた。

「え?!?!」

俺らもつられて下を見ると、そこには友人がいた。

地面と車の間に仰向けの状態で寝そべっていた。

「おい!B!!B!!」

声をかけても何の反応もない。

「引っ張り出そう!!」

最初に覗いた警官がBを掴み、俺ともう1人の警官が

Bを掴んだ警官を引っ張った。

Bを引っ張り出すと、1人の警官はB脈などを測り様子を確かめ

もう1人は急いで救急車を呼んだ。

俺らはその様子をただ見守るしかできなかった。

程なくして救急車が到着し、Bは運ばれて行った。

今回、場合によっては事件になりかねない。と話され、署の方で詳しく調書を取らなければいけない。

そう話され、車をそのままにパトカーで署まで行った。

ーーーーー

署に着くと、時間も時間であったため電話番号、住所の控えを取ると

「…私たちはお2人が何かしたなんて思ってないから大丈夫です。では、詳しいことはまた明日に。」

一緒に捜索してくれた警察官は俺たちにそう言って頭を下げてくれた。

その日、俺たちは解放された。

Bのことが気がかかりで、仕方なかったが俺たちも疲れ果てている。

救急隊員の方達の様子からも一刻を争うような容体ではなかった。と思ったのです俺たちは帰ることにした。

翌日、彼女とともに署に行くと昨日の二人が出迎えてくれた。

2人別々の部屋に通され、話をしたが昨日事情を話してたということもありスムーズに終わった。

その後4人と年配の刑事だと名のる人の5人で俺の車を置いてあるトンネルへと向かった。

車を取るためというのもあるが、一応実況見分や現場検証もしなければならない。と言われた。

刑事はそれらの責任者となる。と言っていた。

実況見分や現場検証といっても大方は警察官の2人が話をしてくれていたようだった。

「どうやって、車の下なんかに…」

車の周りの土は不自然に荒れたような様子はなかった。

あったのはBを引っ張り出すためにできた地面の擦れ後だけだった。

「君たちを疑いたくはなかったのだが、何かあったらこちらとしても大変なことがあるから昨日運ばれた彼の血液検査や薬物反応を調べたんだ。結果は、薬物どころかアルコールすら検出されなかった。」

当然である。バイトあがりのまま来たから酒なんて入れていない。

「だから、尚更不自然なんだ。素面の人間が車の下に入るなんて。もし、車で轢かれるのであれば木々の中に逃げ込むだろうしね。考えられるとしたら、地面を荒らさないよう気を配りながら自分の意思で下に入る。けど、そんな人間いないよね。」

警察官は話をしてくれた。

「….ここは、昔から変なことが起こるし。噂が後を絶たない、だからいろんな連中が集まる。こういうところには悪戯に近づくべきじゃねぇんだ。….あんたらはもうわかってるだろうけどさ。」

「はい。」

俺たちはそれをすごく痛感していた。

「今回の件、事件でないことはわかってたけどな。一応の決着はつけなきゃならんが、警察不介入の民事の話として上げとくから安心しな。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「….それとな、運ばれた方は今後どうなるかわからない。本人に言う必要はないが、この先何かしら覚悟してた方がいい。」

そう言われた。

その後、友人の入院する病院へと向かった。

友人は意識が戻っており、当時の話を聞くと峠へ向かっている道中からの記憶がない。と言っていた。

その後、今に至るまで友人にも俺や彼女にも何かしら事故が起こった。なんてことは無いがあの出来事以来友人の腕が年を追うごとに黒くなってきているような気がする。

トンネルの中で見た手のように。

これは、俺の気のせいだと思いたい。

Concrete
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