皆さん「事故物件」という言葉くらいは聞いたことがあると思います。
頻繁に言われているのが、事故が起きた後に一度人が住めば事故のことは報告しなくても良い。という話。これは嘘ですね。まぁ、事故が起きてから期間にもよる。というのが、本当の正解でしょうか。結局のところは裁判所判断にもよるのでなんとも言えません。
しかし、普通の不動産屋ならリスクを犯してまで、どんなに前の事故であっても告知しないということはありません。
さて、私が物件の説明以外のことで、お客さんから一番聞かれる質問は「幽霊が出る物件があるのか?」です。正直私は出会ったことはありません。私どころか知り合いの不動産屋全てがそんな物件見たことも聞いたこともないと言っています。
次に多いのが、「事故物件って取り扱ったことがありますか?」等の事故物件に関する質問。取り扱いしたことがあるも何も事故物件は数ヶ月に1回以上は市場に出ています。孤独死、自殺、殺人、火事…。
不動産屋はお客さんが気にするほど、気にしていません。市場価格より安くなり、気にしない方が購入していくので、意外も意外で早く決まります。
実際、これは賃貸の例ですが、数年前、私の県で全国ニュースにもなりましたアパートでのバラバラ殺人事件がありましたが、その事件の部屋を取り扱いしている不動産に興味本位に聞いたところ、すぐに決まったよ。と言われました。特に殺人事件に至ってはコアなファンもいるようです。
前置きが長くなってしまい申し訳ありません。
その日は査定のお伺いの日でした。書かなくても分かると思いますが、いくらくらいで売れると思いますよ。というやつ。
築浅な綺麗なお家。ピンポンを押すと、愛想のいい40才過ぎくらいのご婦人が。
「今日はお忙しい中、ありがとうございます。」
「いえいえ。とんでもありません。」
その後、雑談が続き、中の状態を確かめる為、中へ。
「そこ段差があるから気を付けてくださいね。」
「ここには収納スペースがあって。」
「ここはこうやって使うんですよ。」
人懐っこい笑顔で、私を案内するご婦人。ある程度、見てまわったところで、ご婦人が、
「お茶でもどうぞ。」
と、一言。遠慮もせずに頂く。終始笑顔で人を不快にさせない仕草。
「何故、売りに出すんですか?」
築浅の場合、実はこれが一番聞きにくい。築浅は経済的か離婚という理由が多数を占めるからだ。でも、これを聞いとかないと、後でトラブルになる可能性がある。
「実は主人が亡くなり、こんな大きな家いらなくなったことと、もうすぐ娘が高校に行きますの。なので、お金も必要なものですから。」
「そうなんですね。失礼しました。でも、娘さんはこれから楽しみですね。」
「ええ。」
その後、ご婦人は何か言いたげに間をあけて、
「…あの、実は主人はこの家の中で、首を吊って亡くなりましたの。こういう場合、売却価格に影響しますか?」
「そうでしたか…。そうなりますと、心理的瑕疵物件(事故物件)として市場に出すことになりますので、相場の7割前後というところでしょうか…。」
そう言うと、
「…あの人も死ぬなら死ぬで、近くの公園とか、どっか別な場所で死んでくれたら良かったのに。」
幽霊より生きてる人の方が恐いなと、つくづく思い知らされました。
作者寅さん