中編3
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違和感

私の県の都市部の方で不動産を経営している人から連絡があった。この人は以前ご紹介した人を魅力することに長けた私より10歳ほど上の経営者だ。例のごとくAさんとしたい。

何でも私の地域の不動産売却を頼まれたから、一緒に見て欲しいのだとか。遠い場所の不動産売却を受けた場合はこういうことはたまにある。

売却の相談を受けた不動産会社が売主から手数料をもらい、案内役となる私が買主から手数料をもらうのである。他の不動産会社が、その物件の買主を見付けたとしたら私とその会社で買主の手数料の半分をもらうという形だ。

どちらにしろ売主から必ず手数料が入るので、遠くに案内に行くより効率が良い。私は私で下手をすれば、鍵を預かって、他の不動産会社に鍵を貸し出す。という作業だけで手数料が入って来るので、正直美味しい話なのである。まあ、その分売れないとプレッシャーがかかることになるのだが…。

私とAさんは古く濃い付き合いなので、私もAさんに頼むし、Aさんも私に頼むという形だ。まぁ、Aさんは人を魅力する力に優れているので、紹介する数には大きな開きがあるが…。

私の地域の相場も分からないのと今後の展開の打ち合わせで一緒に物件を見に行くというのが8割、その後の飲み会を楽しみしているというのが2割だろうか。

その家は住む人がいなくなって約15年ということだった。売却相談者はその家に住んでいた方の相続人で、現在は遠方に住んでいる。遠方に住んでいるので、電話と郵送だけでやり取りをしたとのことだった。

電話や郵送だけでやり取りというのも、遠方に住んでいる方とやり取りする時にはよくあることなのであまり気にはならない。中は当時のままだが、鍵を開け、勝手に中を見てくれ。ということだったらしい。家の中にたいした物も入ってないだろうし、欲しいものがあれば片付けの手間も省けるから勝手にどうぞ。みたいな感じだそうだ。

目的地に到着して、鍵を開けて二人で入ったときにまず最初の違和感を感じた。

家がきれいなのである。いや、きれいに越したことはないが、きれいすぎるのである。通常、15年程度家を空けるとどこかが痛む。特に匂いはかび臭い匂いがする。1年に1~2回帰ってきて掃除をしたところで、カビは防げるものではない。

二人できれいすぎるね。なんて話しながらも家の中に入る。まず、査定をしたり、間取りを書くために各部屋の様子を写真に収めた。写真撮りに夢中だと気付かないこともあるので、写真撮りが終わって、最後に全体的な雰囲気を把握するために全体を軽く見てまわった。

恐らく寝室であろう。ベッドの置いてある部屋に入ったときに、また違和感を感じた。Aさんが感じたかどうかは分からない。だが、お互い経営者の端くれ。洞察力・観察力には優れている。恐らく感じているだろう。さっき写真を撮った時と何ら変わっていないと思うが、何か気持ち悪いのだ。

「人形?」

私は無意識につぶやいてしまった。

ベッドの頭元にいくつかの人形が置いてあったのだ。

やはりAさんも何か気付いていたのか、さっき撮った写真を見始めた。写真を見終わると「やれやれ、気のせいか・・・。」みたいな感じで首を振ってみせた。

その夜、Aさんと私は飲みに出かけた。Aさんは私の地区にあるビジネスホテルに泊まるらしい。

夜、少し酔いがまわったのを見計らって、「Aさん、本当は写真に何か写ってたんじゃないの?」と聞いてみた。Aさんは私を見ると「はは。どうかな。もう消しちゃったしな。」と言って笑ってみせた。

そして間をおき「でも、〇〇ちゃん(私)には悪いけどその物件からは手を引くよ。いいだろ?」と聞いてきた。

私はキザったらしく、「いいよ。」みたいな感じで持っていたウィスキーの入ったロックグラスを少し上げて見せた。

最後まで写真を見ることはなかったので何が写っていたのか分からない。

実はAさんのジョークで何も写っていなかったのか・・・。

人形の位置や向きが変わってしまったのか・・・。

幽霊が写っていたのか・・・。

今となっては真実を知る術はない。

Concrete
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