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とある山間の村でそれは起こった。
「神社で、みんなでかくれんぼしてたんだ。
鬼の子が、かくれている子をすっかり見つけたと思ったんだけど、ひとりだけどうしても見つからないんだ」
一番年上の子供が、困った様子で神主にそう告げた。
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夏の陽は山の向こうに姿を隠そうとしている。
そうなれば、山の陰があっという間に辺りを覆うだろう。
ここは、そういう場所だった。
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神主は電話で事情を話し、近所の大人たちを集めると、子供の捜索を始めた。
日暮れまでもう時間がない。
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「白いワンピースを着てたんだ」
「肩までくらいの長さの髪だよ」
「赤い靴を履いてたよ」
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子供たちが口々に、隠れている子供の特徴を口にする。
大人たちは神社の境内、裏の森、近所の庭や、河原の隅々まで、目を皿のようにして捜し回った。
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暗い森から遠く近く、金属質なひぐらしの声が聴こえてくる。
空は朱から紫に染まり、東の空は紺色に沈んで一番星が覗いていた。
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子供を捜す、大人たちの声が山間の村に響き渡る。
辺りはどんどん暗くなる。
山の向こうから、冷たい風が吹いてきた。
そして――。
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疲れはてた大人たちが、再び神社の境内に集まった。
もう、お互いの顔の表情がよく見えないほど、辺りは暗くなっている。
黄昏時(たそがれどき)だった。
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子供はいまだ、見つかっていなかった。
森の中に迷い込んだか、誰かに拐われたか。
銘々が不安を口にする中、ひとりがおずおずと皆に問いかけた。
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「なあ…
…俺たち、誰を捜してたんだっけか」
顔を見合わせる一堂。
その問いに答えられる人間は、その場にひとりもいなかった。
【了】
作者綿貫一
こんな噺を。