言霊(ことだま)って知っていますか?
聞いた事くらいは有るでしょうか。
日本では古くから言葉には霊的な力があるって信じられてきました。
発した言葉には力が有り結果を伴う。
だから、汚い言葉や暴力的な言葉は出しちゃいけない。
私はその事を一番良く知っている。
私がまだ十歳の時に両親に凄く怒られた。
何で怒られたのか…それはよく覚えてない。
だけど、私は怒られたのが嫌で、口にしてはいけない言葉を口にした。
「パパもママも嫌い!死ねば良いのに!」
自分の口からそんな言葉が出たのに驚いた。
もちろん、更に怒られてしまった。
その時、母親に言われたの。
「いい?言葉には力があるのよ。もし、そんな事を言って、本当にパパやママが死んだらどう思う?」
…
「悲しい気持ちになる…」
「そうでしょう、だからそういう言葉は使っちゃダメだよ」
「…うん」
nextpage
separator
その僅か数日後に、両親は他界した…交通事故で即死だった。
車に同乗していた私は奇跡的に無傷でした。
その後、私はお爺ちゃんに引き取られた。
お爺ちゃんは優しかった、とても。
それなのに…。
高校に入ると両親が居ない事などで学校で虐めにあうようになった。
そんな事もあって、グレ始めた私をたしなめたお爺ちゃんに酷いことを言ってしまった…。
「うるさい!居なくなれば良いのに!!」
明くる日から行方不明になった祖父は、10年以上経った今も見つかっていない。
nextpage
separator
そんな私も数年前、結婚して幸せになった。
でも、彼の行動が最近少しおかしい。
やたら残業が多い。
会話も少ない。
夜も相手をしてくれない。
良くない事だとは分かっていたけど、スマホを覗いてしまった。
決定的な浮気の証拠を発見した…心臓の鼓動が早くなる…怒りがこみ上げてくる。
私が馬鹿だった。
感情のまま証拠を突き付け大喧嘩。
夫は逆ギレし「夫婦でもプライバシーの侵害だ」「料理が不味い」「女としての魅力が無い」だの罵ってきた。
思わず、あの言葉が口をつく「あなたなんか死ねば……」
だけど、それよりも早く彼が言った「お前なんか死ねば良いんだ!!」
その瞬間、頭が真っ白になりベランダへと走り、手摺を越えて飛び降りた。
マンションの8階から。
落ちていく…。
堕ちていく…。
走馬灯のように甦る記憶。
お父さん…お母さん…ごめんなさい。
お爺ちゃん…ごめんなさい。
そして、母に言われた言葉を思い出した。
あぁ、そうだ、あの日の言葉には続きがあった。
「……だからそういう言葉は使っちゃダメだよ。」
「他人を傷つけるような言葉を使ってはいけない。いつか巡りめぐって自分を傷つけるから。」
「他人を幸せにするような言葉を使いなさい。そうすればいつか自分も幸せになれるから。」
(ああ…そうか…ずっと傷つけてきた。両親やお爺ちゃんだけじゃない、友達…夫…みんな傷つけてきた。誰も幸せに出来ていなかった…。ごめんなさい。)
だけど…
「まだ生きていたい」
shake
グシャ!!!
nextpage
separator
8階から転落した私は半身不随で車椅子での生活となったけれど、奇跡的に一命は取り止めた。
夫とはすぐに離婚した。
あの時飛び降りたのが、彼の言霊のせいかは分からないけど恨む気持ちはない。
今は一念発起して、公認心理士の資格を取得し、カウンセラーとして活動している。
今日は中学生の女の子がカウンセリングに来ている。
「虐めにあってるの?」
「はい。クラスの子達に虐められて。先生も話を聞いてくれないし…もう学校なんて行きたくない…もう死にたい。」
「じゃあ死んでみる?そこの窓から飛び降りる?」
彼女の両親が怒鳴る「ちょっと先生!何言ってるんですか!?」
構わず続ける「だけど、私みたいに死ねないかもよ。
もしも死ねたところで何も残らない。
ご両親は哀しむでしょうけどね。
あなたを失った事を悔やみながら、一生苦しみ続けるわ。
学校や先生は少しばかり責任を取るでしょう。
学校は改善策を作って終わり。
先生は別の学校にでも行くだけかな。
虐めている子達は罪にも問われない。
あなた虐めている人は、一時的には責任を感じるかも知れないけど、すぐに忘れるわ。
あなた1人死んだところで何も変わらない。
あなたがあなたの命を失うだけ。
今の些細な不幸と一緒に、これから待っている沢山の幸せを全て失うの。
あなたが受けとる幸せと、あなたが与える幸せを、捨てるだけ。」
「だから…生きて。」
私は生きる。
私の為に、誰かの為に。
死ねばいいのにとは、もう言わない。
作者悠々人
結果怖くない話になりました(-_-;)