長編19
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おふくろの実家と祠

一難去ってまた一難

今度はおふくろの実家で火事になった

幸いにも古いほうの屋敷が全焼したのみ

そして屋敷の使用人の人が複数怪我をしてしまった

パトカーや救急車や消防車などで現場は騒然となったらしい

出火の原因がはっきりとわからず一応不審火として処理された

だが・・・奴らだろう・・・

新しいほうの屋敷には類は及ばずに済んだようだ

護衛の人以外は全員家へ帰したわけだが・・・

護衛の人といっても10人ほどしかいない

とてもじゃないがおふくろたちを守るには人数が足りない

屋敷の外には警官を配置してくれたようだ

私たちは一路おふくろの実家へ目指した

おふくろと電話で状況を確認をした

「やっと現場の処理が終わったようだよ・・・

やはりね・・・原因がはっきりとわからないみたいだね

古い屋敷のほうは何も使ってないんだけどね

警察の方が言うには玄関のカギを開けて誰かが侵入したんじゃないかと話してたけどね

その出火元がどうも特定できないという説明だったよ」

「そっか・・・やはり不審火だな・・・というか奴らだろ

古いほうには結界をしていなかったからね

とりあえずはその部屋からは俺達が行くまでは絶対に出ないでくれ」

「はいよ・・・そうするよ、おとなしく部屋で待ってるよ」

やっと実家についた

屋敷の周りには警察官が所々に立っていた

裏から直接入ることにした

裏門で警官に呼び止められたがそばに

おふくろが待っててくれた

車を玄関前に止めて早々に屋敷の中に入った

S子やF子、子供たちが玄関で待っていた

「おっちーー!!パパ、大変なことになったよ

古い屋敷が燃えちゃったよ・・・」

「アニキ!!まだ・・・何かが起きそうな気がする・・」

「え!まだ何かが起きるのか!!!・・・」

「うん・・・そういう気がする・・・」

「ちょいまち・・・S子の家へ電話をした?」

「あ!パパ、してない、今からするね」

S子はあわててS子の実家へ電話を掛けた

義理母が電話に出た

「え!!それは大変!!!みんなケガはないの?

子供たちはケガしてない?

え?うちのほうは何もないけど・・・わかった・・・今から様子を見に行くよ」

「あ!ちょっと待ってください、家の周辺だけでいいです、中に入らなくていいです

、お願いします」

義理母に家の様子を見てきてくれるように頼んだ

しばらくたって電話が鳴った

「別に・・・変わった様子はないね・・・」

「そうですかよかった、お義母さん、一応念のために家に帰ったら戸締りをしてください」

「はい、わかったわ、戸締りをするわね」

今のところ、家の様子は変わったことはないらしい

私はS君とオヤジの3人で焼けた古い屋敷の様子を見に行った

焼けた周辺には複数の警官が警戒に当たっていた

警官が敬礼をしてその場から離れていった

むごい・・・すべて焼けていた・・・この古い屋敷はおふくろが幼少のときに住んでいた屋敷だ

思い出の屋敷が今は単なる瓦礫となってしまった

明かりがないと何も見えない

これは朝にならないと何もできない

「こりゃ・・・ひでぇ・・・全部焼けてるじゃん・・・」

「おふくろさんが小さいときに住んでいた屋敷だろ・・・思い出の家が・・・」

「こりゃ朝にならないと何もできないな・・・」

「だな・・・とりあえずは朝になったら調べてみよう」

いったん部屋に戻った

使用人たちを帰したので屋敷内はシーンと静まり返っていた

わたしたちは一番広い大広間に集まった

右隣の部屋には護衛官たちの休憩用に使うようにおふくろが命令を出していた

左隣の部屋は警察官の休憩用にと隊長に話をしていた

だいぶ落ち着いてきた

「さぁ子供たちは寝ておくれ、慣れない場所だけどよく眠るんだよ」とおふくろが子供たちに催促をしていた

「ばあちゃ・・・わかった・・・」

「あたちも眠いよ」

4人はソファの中で眠りについた

「困ったね・・・カギを開けられていたなんで・・・合鍵を使ったんだろうね・・」

「でもまだ・・・確証はないよ、おふくろ・・・俺は餓鬼たちだと思ってる」

「まぁ・・・どちらにしろ、後で使用人全員の聞き取り調査をしないとね・・・

もし・・・名乗り出てきてもあんましうれしくはないね・・・

下手をすると全員解雇という処分をしないといけなくなるかも・・・

中にはね・・・小さな子を抱えてるシングルマザーの人もいるのよ

それに・・・年老いた両親の面等を見てる人もいるし・・・・

みんな家族なのよ・・・

私たち一族を支えてくれている人たちだよ・・・

じぃやばぁやも私が生まれた時から奉公しているし・・・

どうしよう・・・」

「おふくろ・・・この件はもし名乗り出てきてもその人だけを解雇すればいいと思うけど」

「もちろん解雇はするけど・・・今まで築き上げてきた信用がお互いにゼロになるのよ

これから私は使用人を家族じゃなく本当の使用人としてみることになる

そうなると・・・いろいろな問題が一気に噴出しそうで怖い・・・」

「・・・今後の捜査を待ってみようよ、おふくろ」

「そうだね・・・」

今の屋敷には50人ほどの使用人が働いている

おふくろは「使用人」としてではなく家族として接してきた

おふくろの母親はそうとう厳しく使用人と家族の仕切りをしたために

何か些細な不祥事でもすぐに解雇してきたのだそうだ

それを目の当たりにしてきたおふくろは総帥権を母親から移譲されたときにすぐに今の体制へ移行させたのだそうだ

確かに幼少のときにこの屋敷はなにかビリビリとした緊張感があった

今みたいな空気ではなかった記憶がある

わたしからすれば祖母は美人だが何か冷たい感じがしてたな

祖父もすごい形相だったし・・・

あんまし私はおふくろの実家へ行きたくなかった

まぁ、年老いた祖母を見て考え方が変わったのだが

私が大人になったからだろうな

幼少のときは怖い存在だった

その点、F子はあんまし気にならなかったらしく

結構おふくろと一緒に実家へ行っていた

今回は泥棒目的なのか単に放火目的なのかわからないが

おふくろは私たち一族に対する恨みかもしれないと私の耳元で囁いた

その線はありうるかもしれないが今回の件はそういうものではないと私は思っている

S子やF子、おふくろたちも眠くなってきているようだ

「パパ、私は寝るね」

「アニキ、私も~~」

ベッドや布団もないので直接絨毯の上で寝るしかない

和尚様の言いつけでトイレ以外は出ないほうがいいといわれたからだ

オヤジはいつのまにか寝ていた

和尚様と私とS君は寝ずの番だな

隣では雑談をしている声が聞こえてきた

「しかし・・・餓鬼たちは何を狙いに古い屋敷へ侵入したんでしょうかな」

「わかりません、でも、あの古い屋敷にはほとんど何もなかったはずですよ

私は一度もあの古い屋敷に入ったことはないんですけれどね

何かあるのが全然わからないんです

おふくろが目覚めたら聞いてみましょう」

朝8時に目が覚めた

もうみんなは起きていて朝食の準備をしていた

「あ!!、ママ!パパが起きたよ」

「おっちーー、パパ、朝食の時間なんだぞ」

「ううう・・・寝ちゃったのか・・・もう8時かぁ・・・」

「俺も寝ちゃってた・・・」

屋敷の朝食は久しぶりだ

プロが作る料理は高級店と同じだ

というかプロが作ってるのだから当然だが

キッチンで働いているコックは5人ほどあと助手の人みたいな人が5人いる

どれも高級料理店で修業してきたプロばかり

ここの使用人はすべてこの屋敷内で食事をしている

おふくろは使用人をすべて「家族」として接してきた

前にも話だがおふくろの母親時代以前は使用人と一族を厳しく区別していた

それゆえに悲劇を何度も見てきたおふくろ

ほんの些細な失敗でも厳しく糾弾され解雇になった使用人の数は数えきれないほどとか

おふくろの時代になりやっとアットホーム的な感じでこの屋敷は運営されている

だからこそ今回の火事は私は犯人は使用人ではないと感じている

おふくろも同じ思いだ

朝に火事の際にケガをした使用人の病院へおふくろはお見舞いに行ってくると言っていた

私とS君と和尚様とオヤジで火事の現場へ行ってみた

改めてすべて燃えてしまった廃墟を見てなぜか涙が出てきた

一度も入ったことはないのだがなんでだろう・・・涙が出てきた

「なんか・・・涙が出てきた・・・俺さ・・この古い屋敷には一度も入ったことがないのに・・」

「まぁ・・・俺もよくわからんが気持ちはわかるような気がする・・・」

「ちっ!どっちにしろ、このボロ屋敷は解体しなきゃならなかったんだからちょうどいいんじゃねぇ!!」

クソオヤジ!!!何を言い出すんだ

おふくろの前でもう1度言ってみろよ

「おやっさん!!それは言い過ぎだぞ!!」

「そっかい、別名幽霊屋敷として有名だったんだぜ!!犯人は案外幽霊かもな!!」

「オヤジ!!いい加減にしろよな!この屋敷はオアキちゃんの嫁いだ家だぞ!

俺とF子はオアキちゃんの子孫なんだよ」

「そっかい!!俺は関係ねぇーや」

「おやっさん・・・それは言い過ぎだよ」

たしかにオヤジは他人だよ

クソオヤジ、全然治ってない

「F!何を下向いてキョロキョロしてるん?」

「いや・・・あのね・・・あいつらなら足跡を残してるじゃないかと・・・」

以前もそうだが餓鬼たちは大勢で来たときに足跡をあちこち残していた

だから今回も足跡を残してるのではと思い下を見てあちこち探した

しかし、足跡がなかった

「足跡がない・・・奴らじゃないのか・・・すると・・・使用人の中にいるのか・・・」

「考えたくないけど・・・一応・・使用人のことも疑ったほうがいいかもな」

ふと前方を見ると竹藪が広がっている一角が見えた

おふくろの実家は縦横およそ1Kmほどの大きさの土地の中にいろいろな建物が建っている

北のほうには竹藪が広がっている

小さいときにはF子とよく「かくれんぼ」をして遊んでいた

およそ縦横300mくらいの感じだ

入ると竹藪がうっそうと茂っていて昼間でもうす気味悪い

およそ300mほどだから迷うことはないと思うかもしれないが結構迷うというか迷った

本当に私たち兄妹のために使用人が捜索をするということがしばしばあってよく祖母やおふくろから叱られた

まさしく「かくれんぼ」だった

「アニキ・・・」

後ろから私を呼ぶ声が聞こえてびっくりした

F子だった

「わ!びっくりした!!なんだよ、何?」

「あ!ごめん、驚かせるつもりなかったよ、アニキ、ほら子供の時に「かくれんぼ」して遊んだでしょ、そのときに竹藪の真ん中あたりに祠があったのを思い出したから来たんだけど覚えてる?」

「え?祠?そんなのあったかな・・・あったようなないような・・・思い出せん」

「覚えてない・・・私はよく覚えてるよ、小さな祠だったよ」

「そっかぁ・・・あかん・・思い出せん・・・」

「祠ですかい?一度見てみたいですわい」

和尚様がいきなりしゃべりだした

「え!和尚様、祠が気になりますか?」

「いや・・ちょっと気になることがありますわい・・・

すまんが・・・祠まで案内してほしいんですわい」

なにか気になるんだろうな

「あたちも・・行きたいんだぞ」

「あ!!私も行きたい、パパやF子おねえちゃんが「かくれんぼ」してたんでしょ、行きたい」

いつのまにか楓と葵も来ていた

「ありゃいつのまに・・・そんなにあそこへ行きたいのかい?」

「うん行きたい、パパ」

「あたちもだぞ」

「そっかぁ・・・」

F子を先頭に私たちは竹藪の中に入った

「ひさしぶり~~~、この静寂さ・・・私は好きだったんだよ

アニキやパパたちが屋敷へ来なかった時には私一人、ここにきて時を過ごしてたよ

心がなぜか落ち着くんだよね」

「そっか・・・俺は不気味で仕方ないけどな・・・昼間でもうす暗いし・・・」

たしかにオヤジと私はおふくろの実家へは正直行きたくなかった

祖父や祖母が嫌いではないのだが苦手意識が強かった

祖父は眼力が強くてなにか心の中を見られてるような気がした

祖父はもともと詐欺師みたいなペテン?のような感じでこの家に近づいた人だからね

なんで祖母はそんなまでして祖父と結婚したのがよくわからない

でもまぁ・・・愛し合っていたのは確かだけれどね

じゃなければおふくろは生まれなかったからね

祖母は確かに美人だがなんとなくきついというか冷たい印象だった

それが完全にインプットされて苦手意識が芽生えてしまった

それと当時の屋敷の中は陰険というかビリビリとした空気が漂っていた

それも私にはさらに強く苦手意識として深層心理に刻まれてしまった

オヤジは単に祖父や祖母を敬遠していただけ

F子はよくおふくろに連れられて実家へ遊びに行っていた

祖父や祖母に相当かわいがられていたようだ

とくに祖父はF子が来るとあの眼力が無くなるくらいに満面な笑顔になったというから私としては信じられない

祖母も厳しい顔からやさしい顔になっていたというこれも私には信じられない

そのくらい私の深層心理には苦手という心理が働いていたんだと今は苦笑いをするしかない

でも・・・私も大きくなるにつれ祖父や祖母の苦手意識は無くなっていた

自分の妄想というか勝手に自分の殻の中に入っていただけだった

晩年期の祖母から「なぜもっと私に会いに来てくれなかったのか」と聞かれた

正直に言っていいのか迷ったのだが正直に答えた

「おばあさまが怖かったからです」と

そしたら祖母は大笑いをした

「でしょうね・・・たしかに私は怖いかも・・私の母もそれは怖かったからね

私も母の遺伝子をもろに受けついちゃったのかもね・・・娘も怖いでしょ?Fちゃん」

「え・・・あはははは・・・正直怖いですよ」

「でしょ・・・うちの一族は母系家族だからね・・・女が強いのよ

Fちゃんも知ってると思うけど私の旦那、Fちゃんからみれば祖父だけど

あの方、はじめは私の一族の金目当てに私に近づいてきたのよ

私も正直、あの方の目は怖かったのよ、なにもかも心の中を覗かれてるようでね

でもね・・・あの方の仕事の手腕は超一流だった

没落寸前だった私の家を再興したんですから

だから私はどんどんあの方を好きになっていった

でも私の両親は猛反対だったのよ

「あんなペテン師に大事な娘をあげるわけにはいかない」とね

でも・・没落寸前だった家だから・・・結局は結婚を許したわけだけどね」

「その話ならおふくろから聞きました」

「でもおばあさまなぜおふくろとおやじの結婚を素直に許したんですか?」

「あのかたが婿殿を珍しくほめていたからね

「あの若者の目には鋭さがあるそう私の若いころにそっくりだ

娘に近づいてくる連中は金目当てのものばかりだ

だが奴は違う

金目当てに娘に近づいてきてるわけではないことは私が一番わかる

あいつは俺と同じ人間だ

娘は絶対に幸せになる」とね」

幸せかな・・オヤジは今じゃおふくろの完全な奴隷だよ

「え?・・・幸せ?ですか・・・どうみてもオヤジは・・・金目当てというか・・

おばあさまの財産を狙ってるような気がするけどな・・・

ガキみたいな性格だし・・・あのツラはどうみてもまともじゃないような気がします」

「あはははは・・・たしかにね、あの顔はね・・・どうみてもチンピラだわね

でもね・・・あの人や娘の眼力は正解だったわよ

娘にはいろいろとお見合いをさせたのよ

でもすべて断ったんだから

あの方の意見もあったけれど娘は「あの人が一番です、あの方のやさしさは私が一番よく理解していますからお父様、お母様、結婚をさせてください」と言ったのよ

私やあの方は「よく言ってくれたね」と結婚を許可したのよ」

「あぁぁ・・・なんかオヤジのペテンにひっかかったような気がしますけれどおばあさま・・・」

「あはははペテンね・・・たしかにペテンにひっかかったかもね

でもね、私もあの方のペテンにひっかかったんですよ、Fちゃん」

「あ!・・・おばあさま・・・たしかに・・」

その時に私の深層心理にあった苦手意識が完全に開放された時だった

もっと早く気づけばよかった・・・祖母の本当の姿・・・

美人で優しかったのだと・・・今思うと後悔の念で一杯だ

「Fちゃん・・・F子ちゃんの気持ちを分かっている?」

「はい?F子の気持ちというと?」

「やはりね・・・鈍感だね・・・F子ちゃんが言ってた通りだわね」

「え?言ってる意味がよくわからないですけれど・・・」

「フゥ・・・F子ちゃんに聞いたことあるの「今F子ちゃんが一番好きな人はいるの?」と

「はい、私の好きな人はお兄ちゃんです、優しくていつもわたしをかばってくれますから

私のこの性格のためになかなかお友達ができません・・・でも・・・お兄ちゃんといると心が落ち着くんです・・・でもお兄ちゃんは全然気づいてくれません」とね」

「え・・・・それは兄と妹という感情でしょう?おばあさま?」

「はぁ・・・鈍感もいいところだね、Fちゃん・・・F子ちゃんはあなたと本当はずっと一緒にいたいのよ・・・でもね・・・やはり兄妹だからね・・・無理だわね・・・

F子ちゃんにはかわいそうだけど・・・」

「はぁ・・・あはははは・・・ですよね」

これが晩年の最後の祖母との会話になってしまった

「確かに静寂ですな・・・私のお寺のような空気感ですな・・・」

「え・・・あああぁあ・・・確かに・・全然気づかなかった」

この静けさは和尚様の夜のお寺の感じというか空気というかよく似ている

「だからアニキは鈍感なんだよな・・・」

F子は小さな声でつぶやいた

「なんだ?F子、何か言った?」

「ううん・・・別に・・・」

私はF子の顔をマジマジと見た

「なに!!アニキ!!!顔ちかづけないでよ!!(ブサッ!!)」

「顔が赤いぞ!!体の調子悪いんじゃない?S君、F子を屋敷へ連れて行ってくれ!」

「おうよ、わかった、F子戻ろう」

「違う!!違うよ、アニキたち!!体の調子はいいよ!!もう!!!」

F子は顔を隠しながら小走りで前へ進んでいってしまった

「なんだ!!あいつは!!!」

「パパ・・・本当に鈍感・・・女心を全然理解してないじゃん、ママに後で言いつけよう」

「パパ、鈍感なんだぞ!!」

「え?・・・はて?」

よくわからん・・・

「本当に仲の良い兄妹ですな・・・」

「え、はい?そうですか・・・」

「F!!!てめぇ、あとでしばくぞ」

などとしているうちに小さな祠に着いた

思い出せない・・なんでだろう

ここの竹藪でけっこうかくれんぼをしたんだ

ここも何度かきてるはずだ

なぜ思いだせないんだろう・・・

「おっ!これが祠かぁ・・ちょっと荒れてるな・・・手入れとかしてないよな」

「本当だ!!子供の時は綺麗だったのに・・いつもお水とごはんが置いてあったのに・・・」

和尚様は祠のまわりをグルグルと見まわしていた

「うむ・・・やはり・・・似てますなぁ・・」

「え?何が似てるんですか?」

「いや・・ほらあの山の頂上の神社へ行く途中にある祠があるでしょ」

「はい」

「その祠とここの祠瓜二つですわい」

「あ!本当だ、そっくり!!!」

たしかにそっくりだ

「そういうことだったんですわい、ようわかったですわい」

「何がわかったんです?和尚様」

「わたしゃ・・・幼少の時からあの祠はだれが置いたのかな・・といつも思っていましたわい、両親に聞いても「知らない」と言われて町の歴史などの資料も読んだんですけど何も書いてなかった

オアキちゃんが寄贈してあそこに置いたんですわい

これで納得しましたわい」

この祠・・・なんとなく怪しい・・・

なんとなく奥から誰かに覗かれてるような気がしてならない

あの山の祠も同様に感じていた

「なんかさ・・・この祠の奥から誰かに見られてるような気がするんだよな」

「アニキ・・・わたしもそうおもうよ、小さいときから感じてた

誰かに見られてる、という感じはしてた」

「ちっ!!!この祠よ、もしかしたらあっちと繋がってるんじゃねーのかよ

というのもよ

俺が失踪した時の「天国」とやらから逃げるときにこの祠みたいなものがあってよ

そのそばを通った時に気づいたら坊主の寺の蔵の中にいたんだよ」

「まさか!!!そんなことはないだろう」

「いや・・・オヤジ殿の意見、もしかしたらそうかもしれませんわい

わしゃもなにか背中に視線を感じるんですわい」

私は祠の中をのぞいてみた

別段何もない空っぽだ

「何もないよ・・・でも・・・なんか視線を感じるんだよな・・・」

しばらく祠のあたりにいたのだが別に何も起こらない

「もうそろそろお昼ですわい

一旦お屋敷へ戻りましょう」

和尚様のいうとおりに屋敷へ戻った

おふくろが帰っていた

「ふぅ・・・疲れたね・・・ケガをした人たちの見舞いに行って来たけど・・・

幸いにも軽いケガで良かったわ

ついでに「あの古い屋敷で火事になる前に何か変わったことはないか」と聞いてみたけど

全員が「変わったことはなかった」と言ってたわね」

「そっか・・・おふくろ・・竹藪の中の祠、全然手入れがしてなかったよ、手入れをしないと駄目じゃないかな」

「祠?あの竹藪に?祠・・・ね、あったかな・・・私は祠などは知らないんだけれどね」

「え!!ママ!!!祠の存在を知らないの?」

「知らないわよ、初めて聞いたけど・・・私はここで生まれて育ったのよ

そんな祠は一度も見たことないんだよ」

「ええええ!!!マジかよ」

「見たことないって・・・じゃあ・・・あれは一体なんなんだよ?」

「いやあそこに祠があったよ」

「確かにあり申したわい・・・」

どういうことだ?おふくろが知らないと言い出した

私も祠など思い出せない

しかし、F子は知っている

一同ざわつきはじめた

「いやぁ・・・確かに祠はありもうしたわい・・」

「祠はあったよ、ばっちゃん」

「あたちもみたんだぞ、あったんだぞ」

「そうかい・・・でもね、私は一度も見たことないんだよ・・・」

おふくろはここで生まれて育ったのだ

そのおふくろが祠の存在を知らないと言っている

どういうことだ?

「アニキ・・・どういうこと?私はちゃんと記憶してたし今さっき見たし・・

全員が幻影を見たのかな?」

「幻影??いやちゃんと俺は祠を触ったし感触があったぞ」

「おふくろ、昼食が終わったら見に行こう」

「そうだよね、ママ、一緒に来て」

「そうかい、わかったよ、行こうかい」

昼食が終わり

おふくろも加わってもう1度竹藪に入った

だが・・・一同驚愕した(おふくろを除いて)

「え!!遊歩道???なになに・・・こんなのあった?アニキ?」

「いや・・・なかったぞ、竹藪の藪の中の藪だったはず・・・」

「藪の中?おかしなことを言うよね、と思いながら聞いてたけど

確かに私が幼少の時はここらへんは藪でしたよ

私が中学校に入るときに父がここを整理して遊歩道を作ったんだけどね」

「え!?うそぉ・・・信じられない」

一同、もう頭の中は真っ白

今見ている光景は今さっき見た光景とは全然違う

こんなきれいな所じゃなかった

遊歩道を歩きながら大体真ん中あたりに来た

何もない

「ない!!祠がないぞ」

「うそぉ・・・そんな・・・じゃあ私の記憶は何?

ここに来て静かに耳を傾けて休憩してたのに・・・

静かに時間が過ぎていったのに・・・

この記憶は嘘なの?」

と言いながらF子は倒れてしまった

「F子!!!大丈夫かい!!」

「お姉ちゃん・・・起きてよ!!!」

「F子ちゃん!!!」とオヤジは叫びながら

F子を背中に背負って屋敷まで走り出した

オヤジの後を追うようにみんな走り出した

すぐに医者を呼んだ

30分過ぎたころにこの屋敷の主治医が来た

「お嬢様!!いや奥様!お久しぶりです!!」

「先生、あいさつはいいから、娘を診てください」

「はい!!・・・んんん・・・すごい熱ですね・・・体温は・・・40度

これはいけません、至急救急車を呼んで私の病院へ連れて行きましょう」

すぐに電話をして救急車を呼んだ

オヤジとS君が救急車に同乗した

私と和尚様とおふくろは私の車で主治医の病院へ向かった

「おっちーーー、パパ、F子ちゃん大丈夫かな・・・」

「パパ、F子おねえちゃんをみててほしいよ」

「わかってるよ、楓、葵、屋敷で待っててくれ」

「うん、パパ、待ってるよ」

大変なことになった

検査の結果、原因がわからないと言っていた

高熱でだいぶうなされている

「F子ちゃん、パパがついてるぞ!!」

オヤジが懸命にF子に話しかけていた

「F子、アニキだ!!がんばれ」とS君も声をかけていた

「熱いよ!!!体が燃えてる!!!たすけて~~~」

とうなされてる

「おい!!クソ坊主!!何とかしろよ!!!」

「何とかしろと申しましても・・・わたしゃ医者じゃないですわい

せめて・・・この薬を飲ませましょう・・・効くかどうかわかりませんけれど」

和尚様はいつもの薬を細かく砕いてお茶の中に混ぜた

ゆっくりとF子の口を開けて流し込んだ

徐々にうわ言もいうことはなくなってきた

熱も少し下がったようだ

「おいクソ坊主、なんか効いてるようだぞ

もっと薬を飲ませれば治るんじゃねーのかよ」

「いやいや・・・あんまし飲ませても意味はないですわい

様子を見ましょう」

時がたつにつれF子の症状は軽くなってきた

その時にF子が吐いた

みんな、ギョッとなった

黒い塊が出てきたのだ

オヤジはそれを見て驚いた様子だった

「こりゃ・・・アカン・・・餓鬼じゃねーかよ

いつのまに入ったんだ・・・」

「本当に・・・いつ体の中へ入りもうしたのやら」

「アカンですわい、すぐにお経を唱えますわい」

和尚様はお経を唱え始めた

黒い塊は煙を出して消えた

F子の症状も段々と良くなっていった・・・はずだが・・・

「パパ・・・アニキ・・・ここはどこ?」

「おっ!!気が付いたかF子ちゃん!!」

「真っ暗で何も見えないよ・・・パパどこ?アニキ、どこ?

私を置いてどこに行くの?行かないでよ!!!

私はここにいるんだよ・・・」

「なんでこった・・・譫言かっ!!!F子ちゃん、パパはここだぞ」

「お兄ちゃん・・・好きだったのに・・・どこ行くの?

私を置いていかないでよ・・・ここはどこなの?」

「こりゃあかんですわい!!黄泉の世界へ引きずり込まれてるんですわい

オヤジ殿、S君、F君、F子ちゃんの手を強く握ってくだされ

わしゃ、もうひとつのお経を唱えますわい」

和尚様は声を大きくして聞いたことのないような言葉でお経を唱え始めた

F子・・・・

Concrete
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