これは、当時三十代半ばの私が体験したお話。
もしお時間がございましたら章おじさんの体験シリーズを読まれると分かりやすいかもしれません。
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その日、私は夏休みに入った中学生の一人娘ユッコを実家に預け、職場へ向かった。
いつも通りの仕事をしていた私は不意に眩暈を覚え、その場にしゃがみ込んだ。
「ゆ〜さん、大丈夫⁉︎」
同じ部署の人が駆け寄る。
「ごめんなさい。ちょっと眩暈がしたから早めにしゃがんだんやけど。」
帳簿を棚に直そうと、立ち上がった途端、クラっときたのだ。
「顔が青白いよ?無理せんとき。ちょっと休憩室で横なったら?」
大丈夫よ!とすぐに仕事モードに切り替えたいところだが、眩暈が怖いのと職場で倒れたらみんなに迷惑なのとで、少し休ませてもらう事にした。
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勤務時間中の人気のない休憩室。
静かすぎてあまり気が進まなかったが、仕方がない、少し横になればまた、仕事に戻れるはず。
「あー、今何時や。10時35分かぁ。」
携帯のアラームを15分後の10時50分にセットし、まだ眩暈の余韻でフワフワする身体をソファに横たえ、いつの間にか浅い眠りに入った。
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急がな。急がな間に合わへん。(急がなきゃ、急がないと間に合わない)
そんな思考で速足に進む私。
幼い頃住んでいた住宅街を足速に通り過ぎる。
確かに見覚えのある住宅街なのだが、違ったのは空は漆黒の闇、壁と地面は大理石のように白く輝き、眩しくて眩暈がしそうであること。
そこを急いで歩く私を後ろから一つ目小僧や、唐傘お化け、ちょうちんお化けなどが次々に追い越して行く。
何体いただろう。
たくさんの妖怪達に追い越され、やっと四つ辻にたどり着く。
そこも見覚えのある四つ辻で、本来なら右、若しくは正面へ行けば住宅街の続き、左へ行けば駅、となっている場所だ。
「あれ、ろくろっ首やなぁ・・・。」
見ると右側の奥へ急ぐ、先程の妖怪達の後ろ姿が見える。
早く会社へ帰らなければと思っていた、いや、人間の直感か。
迷わず駅のある左へ。
ここを抜ければ駅がある、来た快速に乗ればすぐに会社に帰れるはず。
「え?なんで?」
そこは駅ではなく、一面お花畑だった。
遠い昔、私の叔父にあたる章おじさんが訪れた場所とよく似ていた。※章おじさんの体験①参照
青い可憐な花がメインで、黄色、ピンク、紫などの色とりどりの花が咲き乱れている。
「これ、章おじさんが紫斑病で死にかけた時に来た場所とちゃうん⁉︎」
辺りを見回すが、誰もいない。
「いやや、快速乗らな、会社行けへんやん。」
不安でパニックにを起こしそうになる。
しかし、負けてはいられない。
「いやや、まだ死にたない、いや、私はまだ死ねへん。」
はっきり口に出して宣言した、その時。
『あなた、迷ったの?』
いきなり後ろから話しかけられ、多分、本当に漫画のように飛び上がったと思う。
「え?誰?ですか?え?てか、誰もおらんかったやん、なんなん?急に。」
『あなたはまだここには来たらあかんよ、早よう戻り。』
「戻り言うたかて、どないして戻ればいいの?私、来とぅて来たんとちゃうのに?」(来たくて来た訳じゃないんですよ)
『そうやね、でもね、あなたがここに来たのはね、なにかの予兆なのよ。そう、大事には至らないけど、今後注意しなあかんとかね、仕事と家庭の両立は難しいから時には手抜きも必要よ。』
「あ、はぃ・・・。」
『ちょっと目ぇ瞑ってみぃ。私が手を叩くまで目ぇ開けたらあかんよぉ。』
優しくホンワカとしているが、芯が通った声だ。
ここは黙って従うのが賢明だろう。
「はい。」
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パン!
「うわっ!」
慌てて起き上がるとそこは職場の休憩室。
ピピッピピッピピッ・・・
「ひゃっ!」
休憩室に鳴り響く携帯アラーム。
「夢?」
長い夢を見ていたように思えたが、15分弱だったようだ。
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一方、私の実家に預けられた一人娘ユッコ。
彼女は昨晩、夏休みの宿題を早く済ませたいがために、ほぼ徹夜で頑張ったそう。
七月中に宿題を終わらせる、我が家に代々伝わる家訓のようなものだ。
どうせやるなら、夏休みの最初にぶっ飛ばして、あとは悠々自適で過ごそう、そんな感じだ。
「あ〜ぁ、眠いなぁ、何時?10時半過ぎかぁ。ちょっと横になろかな。」
睡眠時間が2時間くらいだったユッコは実家のリビングでうたた寝してしまったようだ。
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「・・・ぅわぁっ!」
「どうしたの?ユッコ。おばあちゃんここに居るから安心しぃね?」
「今、パン!て手ぇ叩いた⁉︎」
「何言うとんの、おばあちゃんはそんなことしませんよ。」
「今な、夢見とってんけどな、ママが一つ目小僧に追いかけられてな、青いお花畑に迷い込んでな、急に女の人が出てきてな、ママにはよ帰らな帰れんようになるでって言われてママが困っててな、ほんでパン!て手拍子聞こえてな、目ぇ覚めてん!」
理解できない私の母。
まだ寝ぼけながら混乱している一人娘ユッコ。
「そんな一つ目小僧かなんか知らんけど、おるわけないでしょ。」
「でもめっちゃリアルやってんけど。」
混乱するユッコを祖母である私の母はなだめ、庭に出てお茶を出し、落ち着かせた。
「ユッコは来年高校生なるのに、まだまだママが恋しいんやね、可愛らしいね。」
ユッコは頰を赤らめた。
そんなやりとりがあったのをその日の夕方知るところになるのだが、親子ってシンクロするものなのだろうか。
しかし、あの夢はなんだったのか。
一抹の不安を覚えた。
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それから一週間程して、以前に受けていた健康診断の結果が送られてきた。
「軽い貧血かぁ。あと、痩せすぎ?ンなわけないやん、標準やで、標準!」
「あとは、適度な運動とバランスの良い食事、か。うん、分かった。」
貧血以外は特に異常はなく、以降今日に至るまで、健康的な生活を心がけているため、貧血も徐々に治り、家事もあまり気張らずこなすようにしている。
料理全般は主人と娘がしてくれるのでその間に掃除洗濯をするのだが、掃除は元々好きなので、ついつい張り切ってしまうのだ。
仕事も中堅なので、それなりに部下も抱え、忙しくしているのでたまにはズボラな過ごし方をするのが良い、と夢が教えてくれたのかも。
そしてはっきり顔が思い出せないのだが、お花畑で話しかけてきた人、多分あの人は章おじさんの最初の母親なんじゃないかな?とおもってます。
私まで守ってもらえるなんて、嬉しいな、と思いました。
作者ゆ〜