Oさんが今から五年前の冬に、祖母が住む北海道爾志郡乙部町を訪れたときのことである。
当時、大学二年生だったOさん。年末年始になると必ず家族と共に父方の祖母宅を訪れていたのだが、なんせ田舎なので遊べる場所も限られており、退屈することも多かった。
その年はたまたまOさん一家以外、親戚がおらず、いつにも増してつまらなかったという。
一階の居間にいてもやることがなかったので、二階の空き部屋に移動して友達と電話で話すことにした。
室内には布団やストーブ、押し入れがあるくらいで、どこまでもシンプルだった。
電気ストーブをオンにして、室内がほのかに暖まるとかばんからスマホを取り出して通話を始める。
大学の友達と女子トークに花を咲かせていると、不意にぷつりと雑音が入り、その直後に回線が切れてしまう。
「あれ? おかしいな」
田舎ではあったが電波はきちんと届いている。液晶画面を確認しても電波状況は良好で、充電の残量もかなり余裕があった。
友達の方でも何も問題はないという。それなのにその後も何度も途中で通話が途切れてしまう。
「ねえ、Oちゃん。近くにテレビでも置いてるの?」
それでもめげずに話していると、友達がおかしなことを聞いてくる。
「えっ、別に何もつけてないけど」
「そうなの? Oちゃんの近くから声が聞こえるんだけど。小さな男の子とか、その辺にいるんでしょ?」
「じょ、冗談よね?」
震える声でOさんが問うと、一瞬間を置いてから友達が言いにくそうに返事をする。
「そんな冗談、言わないわよ」
「やめて!」
あまりの恐怖にOさんはそこで一方的に通話を終了して、急いで階下に駆け下りた。そして居間でくつろいでいた母親に泣きついて、その後は二度と二階に上がらなかったという。
それからOさんは体調を崩してしまう。
冬休みが明けて多少回復してから、Oさんがそのときのことを知人に話して聞かせると、「間取りを教えて」と言われる。
霊感持ちの母親にそのときの間取りを見せれば何かいいアドバイスをもらえるかもしれない、と言うのだ。
そうしてこんな助言をもらった。
「信心深い祖母に引き寄せられた老若男女の霊が見える。中でも少年の霊の念が強烈だ。神社でお札をもらって魔よけにしなさい」
その通りに実行すると、Oさんの体がふわりと軽くなったという。
作者秋元円