ずっと、一人が不安だった。
何をすればいいのか分からなくて、誰の言うことを聞けばいいのか分からなくて、ママがいなくて寂しい・・・その感情だけが、日を追うごとに強くなっていった。
いっそ、死んでしまえたらだなんて思った。
そんな時、私の前に舞い降りた。それから起こった全ての出来事が、奇跡の物語だったんだ。
しぐ、最初は心の拠りどころがほしくて、あなたに依存してしまっていた部分はあったのかもしれない。どうせ、みんなは私のことを、壊れ物へ触れるように接してくるのだから。そう思っていた。
けど、あなたはそんな私にも普通に接してくれた。心の傷も深くて、自傷行為してるようなこんな私のことを、ちゃんと一人の人間として見てくれたんだ。
しぐだけじゃない。今ここに、私の周りにいる人達みんながそうなんだ。私が何をしていようが否定しないでいてくれて、優しさと勇気をくれて、そのおかげで強くなれたんだ。
だから、今はみんなのことが心から大好きで、しぐのことを、心から・・・愛している。
思わず閉じていた目を見開き、私は海の向こうに広がる町を見渡した。そうか、この町はこんなにも広く、美しかったんだ。
「鈴那ちゃん、準備はよいかね?」
神主姿の長坂さんが、真剣ながらも少し笑顔を見せながら私に問いかける。私はもちろん、彼の言葉に頷く。
「お願いします」
先程、右京さんやひなちゃんに私の巫女姿をべた褒めされて少し照れてしまったが、その喜びは、今は胸の奥にしまっておこう。
「ひなちゃん、いくよ」
私は、私の中にいるひなちゃんに声をかけた。心の中からは、彼女の優しい声が聞こえてくる。大丈夫だよ、と言っていた。
さぁ、この町を救おう!
〇
夢を見ているようだ。
雨宮ひなという少女が、これまで見てきた世界、これまで感じてきた悲痛、兄との思い出・・・その全てが、まるで自分の走馬灯みたいに頭の中を駆け巡っている。
今、こうしている私は一人じゃない。そんなふうに思えて、強く強く祈った。きっと、新しい世界では日向子ちゃんも待っている。
あと少しで、もう少しで・・・新世界への扉はあまりにも固く閉ざされ、なかなか開くことなんてできない。けれど、浄化の儀を出来るのは私達しかいないんだ。
ママが託してくれたこの力で、この町を救ってみせる!
不意に響いた耳鳴りのような音で、私は目を覚ました。
少し汗ばむ陽気の中、優しい夏風が入道雲を動かしている空の下で、私は見覚えのある一人の少女を見つけた。
ゆっくりと振り返った少女の髪が、赤いリボンと一緒にふわりと揺れる。
「さようなら」
少女が、そう言っている気がした。
作者mahiru
白昼夢は僕らに何を見せるか。