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仕分けられた亡霊/眠りの召喚者(下)

中編6
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仕分けられた亡霊/眠りの召喚者(下)

註)下品な表現が御座いますので、御注意願います。

あらすじ)探偵事務所にて雇われている灘江民斗は給金を受け取りに来た園部元蔵に出くわす。社長の提案で、渋々ながら園部と共に依頼を遂行する事になった灘江だが……

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そして、依頼された任務を遂行する日が来た。

軽自動車では不自由だろうとの園部の判断で、彼の運転するワゴン車に乗り込む。

「よりによって、何で隣なんだ……」

助手席で、ギョロリと横目で園部を睨む灘江……

「煙草はなるべくなら吸わない様に。携帯灰皿の用意を。乗せる相手が誰であれ何であっても、安全運転で行きますんで」

「吸わねェよ。さっさと……」

「シートベルトを着けて下さい。運転途中で、同乗者に怪我人や死人を出すのは御免ですから」

「野郎っ!!……」と掴み掛かろうとするも、園部は佐縄に目的地を訊いていて、灘江は無視される。

「X県Z市室西字竹川■■-〇〇……」

カーナビに、トントンと住所を打ち込む園部。

「復興途中の場所でありながら、心霊スポットと履き違えたかでたむろしたヤンキー連中が、ことごとく行方不明。一応、親御さんも捜索願は出しているが……」

「奴等はおろか、親迄もヤンキーやら元チーマーで悪行三昧だったのがバレて、一応受理されても、放っとかれてるって所ですか」

「そんな所かもなァ」

灘江と佐縄等の話している後ろで、車内音楽は特撮ソングやらドラマ主題歌にメインテーマ、歌謡曲に洋楽と目まぐるしく変わる。

園部はと言えば、ブツブツ言っている様だが、対向車の出方や速度の増減にカーブの判断らしく、程良い速度で要員を運んで行く。

「あら、灘江君の声がしないわ」

「見なよ、先刻迄ブー垂れてたのに気持ち良さそうだ」

佐縄と結界を張る等の防衛技術に長ける、沓掛里代(くつかけ・りよ)が話している。灘江がいつの間にやら寝息を立てている。

ポーン!とカーナビが目的地に着いた事を知らせる音声が響く。

「灘江君、着いたわよ」

「んう……えっ、ああ」

眠りから覚めた灘江、ムウと園部を睨みつつ灘江は神経を集中させる……男物の、と言うよりは若者向けデオドラントの香りが、不快感を催す異臭と共に混じって、ムワーっと漂い出す。

「ふわああ……又だ……何で……」

灘江が再び掴み掛かろうとした直前に、コテンと木にもたれ掛かる園部。

「ヒャーハハハ……」

「ナローっ!!イミワカンネーシ!ココドコダシ!マヂウケンダケドー」

「てっ、ヤンキーの餓鬼供は、とっくの昔におくたばりってか」

悪態をつく灘江。

「佐縄さん、気の所為かしら……様子がおかしいと思うんですけど……」

「里代さん、気付かれましたか………うん、二種類居ますね」

「二種類?奴等は一杯居る様に見えますけど……」

佐縄と沓掛のやり取りが、今一つ良く呑み込めていない灘江。

「灘江君、悪い意味で騒がしい霊は見えるわよね。それに対して……」

「そうか、ひっそり眠りたいのに、奴等に邪魔されて酷く迷惑してる亡霊って訳か。で、悲しんでる様に見えるのが、もしかすっと、沓掛の姉さん曰くの、二種類目の亡霊……」

灘江の納得した顔を見て、頷く沓掛。

「灘江君、さまよってる震災の犠牲者の霊と見て、間違い無い様よ」

「何だろなァ……何だか依怙贔屓(えこひいき)したくなるよ。ヤンキーの霊はさっさとやっつけて、震災犠牲者の亡霊は……って、ああ──────っ!!」

「!!」

園部を根っこにする形で、ゴーレムの様な物体がズズウン……と姿を現し、今度はグニョグニョとふくよかな形を作り出す。

「ナダ君、見てみろ。私の説明した奴とは今回は違うぞ」

「サナさん、姉さん……あれって……ああっ、相撲取りだ!」

「ヒャーハハハっ!!」と塊になって飛び掛かるヤンキー供の亡霊とおぼしき集まり、グっといわゆるハッケヨイのポーズを取った、力士の姿をした物体が張り手を繰り出して、力士同士の肉体がぶつかる際の音が、闇夜を切り裂く。

バシ──────────ンっ!!

「マヂウゼェェェ────────っ!!」

もろに張り手攻撃を受けたヤンキーの亡霊の塊、弱まりながらもブチ切れたかの勢いだけで、再び飛び掛かる。

「タイリョクノゲンカイ──────っ!!」

何処かで聞いたフレーズを絶叫しながら、余裕有る二発目を御見舞いする力士型の物体。

「離れてっ!!あの口が現れるかも!」

沓掛の言葉を聞いた佐縄と灘江等、園部を引きずって、結界近くに横たわせる。

佐縄と沓掛は祈りの台詞を唱え始めて、灘江は御札を右手人差し指と中指に挟んで、念を送る。

「眠れる民の亡魂よ、汝今安らかにせんとて穏やかなる事を……我も又それを望むなり……」

案の定、巨大な口が闇から現れて、ヤンキーの亡霊の塊を噛み砕いて行き、奴等の甲高い絶叫が響き渡る……が、口の様子が今回はおかしく、口許を歪ませたりしている。

「ウっ……オエェェェ──────っ!!ヤナモンクッタ……ホカノガイイノニ……アリエナクネジャネェワ……」

ドボボボーっと泥を思わせる液体を吐き出すと、そいつは地面へと飲み込まれて行く。

白く半透明な集団に気付いた灘江、身構える。

「!!……手前ェ等も祓ってやる!」

「灘江君、待って!」

「姉さん、何で……」

「彼等を見て……大丈夫。ほら、あれ」と灘江は沓掛に促されて、目を丸くする。

白く半透明な集団は、塊になる事無く、全員がカーテンコールの如く並び立ち、不揃いでありながら御辞儀をしていた。

「サナさん、もしかしたら奴等……いや、あの人達って、死んだヤンキー達に騒がれて、むしろ危害を加えられたんじゃ……」

「灘江君の言う通りかも知れないわ」

沓掛含めて一同が頷いて、力士の姿をした物体も、消えて行く白く半透明な人々を悲しげに、そして優しく見守る様な表情のまま消えて行く。

「んぅっ!!わっ!!泥だらけ!ヒィィっ!!」

今にも吐きそうな表情で、忌々しそうな顔をした園部が慌てて起き上がる。

「よっ、御目覚め」

園部の替えのズボンを持って佇む灘江。

「あっ……えーと……有難う御座います」

佐縄や沓掛等が察して、敢えてそっぽを向いてくれている。

腰掛ける位置は泥で汚さずに済み、運転席に園部が乗り込んだ後は、全員がキチンと乗り込みアクセルが踏まれる。

「又、泥だらけになっちゃった……」

「園部さん、何が有ったんです?今回の前に」

ボヤく園部に、沓掛が優しく声を掛ける。

「台風が直撃しましたでしょ。それで他支店が低い土地だったから、浸水しちゃって……夜中の内に水は引いたみたいなんですけど、商品が泥水被って売り物になら無くなっちゃって……」

「あんた……苦労してんだな」

思わず灘江も声を掛ける。

「あっ、いや……上司や上司の上司も更に大変ですから……」

マイペースではあるが、悪い奴では無さそうだと灘江は少しばかり、園部に理解を示そうとする自分に気付く。

「……似てる」

「は?」

「いや、何も……」

「おい。密室だから逃げらんねェぞ。大人しく話してくれや」

「灘江君、いじめちゃ駄目よ」

「あっ、ハイ……」

「分かりました。隠す事も無いですから……非通知で来た電話が有りましてね、何だか話が弾んでしまって……その掛けて来た相手の声に、灘江さん……貴方の声にそっくりだったんですよ」

「ななな、ななっ?!」

「うーん……ナダ君は、園部さんとは初対面だ。その話したとする相手が……」

佐縄が自分なりの推察を呟いて、灘江はザワザワと不気味に背中を撫でられている予感を覚える。

───俺と同じ様な声質の誰かさんが、非通知で園部と話していたと言うのか。冗談じゃ無いぜ!と灘江は、再び意固地になってしまう。

苦笑いを乗せたワゴン車は、夜明けの道を程良い速度で走り抜けて行った。

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