【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編4
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つたえてさん

ミキと俺はいつものように長電話をしていた。

ミキとは大学で一緒のサークルで割と気が合い、付き合っているというわけではないが、こうして深夜の長電話をすることが多かった。

午前1時半も回ろうという頃

「そういえば、最近またあったね、集団自殺」

ミキが言った。

「ああ、そうだな」

「ああいう人達ってなんなんだろうね。見ず知らず同士が一緒の車で練炭自殺、とかさ

 どういう気持なんだろう?」

「さあな・・・まあ、でも寂しいのかもね、一人で死ぬのは」

「気持わかるの?」

「ああ、わかるよ・・・俺も」

一度、集団自殺しかけたことがある、と言いかけて言葉を飲み込んだ。

流石にそれは言えないか。

そう、2年前、進路に迷っていた俺は、ついフラフラと、そういう掲示板で自殺者募集に乗ってしまったことがある。

ただ、怖くなって、最後の最後で逃げ出してしまった。

俺以外の3人は本当に死んでしまったようだった。

自分が悪いとは思わないが、本来は「自殺幇助」という罪に問われかねないらしい。

だから、言えない。

「俺も?もしかして、やりかけたことがあったりして?」

ミキが言う。

俺はぎくりとしたが

「んなわけねえだろう」

とはぐらかした。

ねえ、とミキが続ける。

「知ってる?

 知らない人同士でも、一緒のことをしたり、一緒にいたりすると「縁」が生まれるって。

 一度生まれた縁はそう簡単に切れないんだって」

「そうそう、縁といえば、【つたえてさん】って知ってる?」

「ツタエてさん?知らねえな」

「都市伝説みたいなものなんだけど、あんまり電話してこない知り合いから午前2時に電話がかかってくるんだって。

 それで、ひとしきり他愛ない話をするの。

 で、最後に、「ねえ、伝えてほしいんだけど」

 って言って、あることを伝えてくるんだって」

「あることって何?」

都市伝説のたぐいは嫌いじゃない。

ちょっと俺も興味があった。

「それがわからないの。

 でね、その電話を受けた人は、別の日の夜中2時にフラフラとスマホの連絡帳にある知人に連絡して、それで、雑談すると、「ねえ、伝えてほしいんだけど」って

 そのあることを伝えるんだって。

 でも、それを伝え終わるとどうしても何だったのか、思い出せないんだって」

要は電話から電話に午前2時に次々と謎の「ある言葉」が伝わるって都市伝説ってわけか。

「それだけ?」

俺は正直な感想を述べた。

「うん、それだけ」

「なんだそりゃ」

「うーん、私は思うに、これって縁を辿っているんだと思うんだよね。

 スマホの連絡帳って、みんながみんなちゃんとした知り合いじゃないじゃない?

 その縁を辿って「何か」が移動してるんだよ。

 そう考えると怖くない?

 その「何か」はきっと「どこか」を目指してるんだよ」

「どこかって、どこだよ」

「もう一つ、つたえてさんについての話があるの

 実は、このつたえてさんの大本は、さっきの集団自殺だって話」

「どういうこと?」

「ある時、4人で集団自殺をしようとしたとき、

 一人、最後に逃げ出した人がいたの」

俺はどきりとした。

  ・・・偶然だろう・・・

心なしかミキの声音が落ちている気がする。

「その逃げた人は、みんなで飲もうと言って分け合った睡眠薬を、一人だけちゃんと飲まなかったのね。

 怖くなったの。

 それで、みんなが寝付いたあと、一人だけ、逃げた」

心臓が早鐘のようになる。

 喉がカラカラになる。

   そう、俺は逃げたんだ。

でも、それをミキが知るわけがない。

  警察さえ知らないことだ。

「実は、その逃げた人は知らなかったんだけど、その後、もう一人目を覚ました人がいたの。

 その人は、一人逃げた人がいたのに気づいて、自分も死ぬことが急に怖くなったのね。

 でも、睡眠薬が効いていて、うまく体が動かない。

 やっと、スマホで知り合いに発信した。」

「本当は、きっと、その逃げた人に伝えたかったんだと思うけど、赤の他人同士だから、電話番号知らなかったのね。

 もちろん、その時電話したのは全然関係のないただの友達」

「その時はもう練炭の一酸化炭素が充満して、意識がなくなる寸前だったの。

 ろれつが回らない中で、それでも、必死に伝えようとしたの、

 その「ある言葉」を」

「結局その人は他の二人と一緒に死んでしまったけれど、

 その「ある言葉」だけは、縁を辿って探し回っているのよ。

 その、「逃げた人」を・・・」

ミキはぐっと声を低めて強調した。

時間は午前二時に差し掛かろうとしている。

・・・本当に、こいつはミキだろうか。

「つたえてさん」

知り合いに紛れる声の怪異・・・?

俺は一旦スマホを耳から離して、画面に映る相手の名を確認してしまった。

 「倉科 ミキ」

確かにミキの名だった。

「・・・って、考えたら怖くない?

 ねえ、ねえ・・・どうしたの?」

突然、ミキの声音はいつも通りに戻った。その時、俺はミキにからかわれたことに気づいた。

「お、面白い話だね」

かろうじてこれだけ言うのが精一杯だった。

「でしょ?

 午前2時にするにはピッタリの都市伝説かなと思って」

ミキは屈託なく笑う。

俺は脱力した。

「じゃあ、もうひとつ、ついでに、

・・・ねえ、伝えて・・・」

ミキの声音が落ちる。

  しんと、受話器の向こうが静まり返る。

「ねえ、なんで逃げたの?私を置いて・・・」

Concrete
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