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中編5
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【都市伝説】ミミズ人間

『これは悪い夢だ』って、私、そう思った。

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だってさっきまで、友達の(マナミ)と長電話してたはずなんだもん。

クラスの恋バナでひとしきり盛り上がって、

そのあと(マナミ)ったら、夜中だっていうのにヘンな話聞かせてきて。

電話切ったあと、部屋の電気消さずにyou tubeで米津とか聞きながら寝たはずだもの。

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でも今、私はひとり、パジャマ姿でヘンな場所に立っていた。

見覚えがあるような、ないような。

そんな特徴のない街並み。

それも、真っ暗な。

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重苦しい、厚い雲に覆われた夜空。

その下には、停電に見舞われたように真っ暗な家々が、闇に沈んでひっそりと佇んでいた。

家と家の間を、まっすぐ路地が続いている。

街灯だけが不均等に灯っている。

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車の走る音も、犬の鳴き声も、なにもしない。

無音だ。

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ホントに、

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ホントに、ここ、

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ホントに、ここ、どこ?

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埃っぽい、生ぬるい風が吹いてきた。

生臭い。

魚屋の店先を通りかかった時に嗅いだような臭い。

あれ?

夢って臭いしないって聞いたような。

どうなんだっけ?

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shake

カンカンカンカン

背後で不意に甲高い音がした。

死ぬほどびっくりした。

胸が痛くなるほど心拍数がはね上がった。

なんなのもう。

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ふりかえると、踏切があった。

踏切の向こうにも、鏡写しのように、こっち側と同じ真っ暗な家々と、まっすぐな路地が続いている。

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赤いライトが激しく点滅している。

でも、遮断機は上がったままだ。

カンカンカンカン。

カンカンカンカン。

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ーーもぞり

踏切の向こうの路面で、何か動いた。

なんだろう?

酔っぱらいの人が道端で寝てたのかな?

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ーーもぞり

それは身体をアスファルトに横たえたまま、少し、こちらに近づいた。

手足を縛られた人間が、身体をよじってにじり寄ってきた感じ。

皆でキャンプに行った時に、寝袋に入ったままふざけた時にあんな動きになったのを思い出した。

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ーーもぞり

ねえ、なんでそんな気持ち悪い動き方すんの?

ひょっとして病人の人?

具合悪くて立って歩けないとか?

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ーーもぞり

ーーもぞり

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やだもう、見たくないのに目が離せない。

ここから立ち去りたいのに、足が、動かない。

そう。今、気付いた。

さっきは自然に振り向けたのに、今は身体が動かせなかった。

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ーーもぞり

やがて、「それ」の姿が、闇の中からはっきりと見えてきた。

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それは巨大なミミズだった。

1メートル以上ある。

人間サイズのミミズ。

いや、足がある。股関から脚が二つに別れている。

肩の部分から細い、身体を支えるには細すぎる腕が生えている。

全身皮膚をきれいに剥がされたかのように、むき出しの筋肉がピンク色にテラテラと光っている。

ミミズ、人間。

ミミズ人間だ。

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むき身の神経にアスファルトがこすれて苦しいのか、身悶えながら進んでくる。

カンカンカンカン。

鳴り続ける踏切のこちら側へ。

やだ!来ないで!

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不意に、

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shake

ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン!

shake

ゴー!

電車の車両が目の前を猛烈な勢いで通り過ぎた。

ミミズ人間のちょうど真上を。

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shake

ブチブチブチブチブチブチ!

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圧倒的な質量が、柔かい肉を、筋を、すり潰して切断していく。

顔に何かの液体がかかった。

それが何かはわかりたくもなかった。

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wallpaper:926

すべての車両が通り過ぎて、踏切の警報音が鳴りやんだ。

結局遮断機は一度も降りなかった。

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再び訪れた静寂。

目の前の線路には身体半分、上半身だけになったミミズ人間の残骸があった。

動かない。

……助かった?

助かった……。

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shake

「あああぎゃあぃあがぁピぃああああぃうぎゃぴぃあああぃぃぃ」

shake

ビチビチビチビチビチビチビチビチ!

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動いた!動いた!まだイキテル!

頭をブンブン振り回し、細い腕を前に伸ばしながら。

残った上半身をよじりながら、先程よりも比べ物にならない程の速さで。

倍速の動画を見せられてるみたい。

あっという間に足元に。

動かない、私の足元に。

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ピタ。

ミミズ人間の手が。指が。

私の足首に触れた。

ヒンヤリして、グニグニしてて。

骨なんか入ってないみたい。

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前にショッピングモールに入ってる駄菓子屋で買った、紐状の細長いグミ。あれ思い出した。

触れられたところから、鳥肌とともに冷たい血が全身を巡っていく。

私は気づかないうちに絶叫していた。

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今までずっとうつ伏せだったミミズ人間が、ゆっくりと顔を上げた。

顔も身体と同じ。

皮膚を剥がれたピンク色。

髪の毛も眉毛も、まつ毛もなくて。

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だから人相なんてわかる訳ないんだけど。

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その顔、

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その顔、なんか、

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その顔、なんか、(マナミ)に似てて。

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その顔が微かに嗤ったように見えた。

そして、ミミズ人間はこう言った。

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「次、

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「次、アナタの

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「次、アナタの番ね」

〈完〉

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・・

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・・・

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『……そんな話』

(カナ)が電話口で話を終えた。

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「ちょっと(カナ)、夜中なのになんて話すんのよー!

寝れなくなったらどうしてくれんの?」

私はわざと明るい声で文句を言った。

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さっきまでクラスの恋バナで盛り上がってたのに、不意に、(カナ)がヘンな話をしてきたのだ。

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『あ、そういえば(ユカ)、こんな話知ってる?』

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って。

まるでさっきまでの恋バナは場繋ぎで、ホントはこの話をする隙をうかがっていたみたい。

まあ、気のせいかもだけど。

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『あはは。ごめんねー。私も友達から聞かされちゃってさ。

ひとりで怖がるの嫌だから、(ユカ)のこと巻き込んじゃった。

一緒に地獄に落ちようぜー』

(カナ)はそう言って笑った。

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『もう遅い時間だね。そろそろ寝よっか』

まるで用事は済んだというように、(カナ)は話を切り上げてきた。

ヘンな(カナ)。なんなの?マジで。

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『おやすみ(ユカ)。

話、聞いてくれてマジでありがとね。

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じゃあ、

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じゃあ、また、

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じゃあ、また、あとでね』

〈完〉

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