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中編6
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コインロッカー

<飲み会帰りのOLの投稿>

あれが何だったのか、未だにわからない。

あの日、私は会社の帰りに友人たちと食事会という名の飲み会をして、結構遅くなった帰りだった。A線のB駅で私は降りるのだが、その駅は、11時をすぎるとそんなに人がいなくなるところだった。

私は、ちょっと飲みすぎたかななどと考えながらフラフラと駅の構内を歩いていた。ちょうど、右手にコインロッカースペースがあった。別に、コインロッカーに用はないのだが、見るとはなしに見ると、人影があった。

しかも、その人影は、髪の長い女性のようだった。コインロッカーから何か取り出しているふうでもない。ただ、ロッカーの方に向かって立っているように見えた。

何をしているんだろう、と思い、もう少し顔を向けてみた。その瞬間、私は背筋がゾッとする。なぜって、その人物は向こうを向いているのではなく、こっちをむいていることがわかったからだった。体の向きは明らかにこちらを向いているが、頭の向きは向こう向きなのだ。

いや、よく見ると長い髪を前に垂らしているせいで、後ろ姿のように見えていたのだった。

気持ちが悪い

私は思って、その場から足早に立ち去ろうとした。

そして、十分離れたとき、やめておけばよかったのだが、振り返って確認してしまった。

見えたのは、その女性が、コインロッカーから何かを取り出すところだった。

私の見間違えでなければ、いや、見間違えであってほしいのだけど、その取り出されているものは、ズルリ、とロッカーから引っ張り出された、人間のように見えた・・・

私は短い悲鳴を上げて、その場から走り去っていた。

次の日、そのロッカーの前を通ったが、全く異常なところは見られなかった。

あれは、一体、何だったのだろうか。今でもわからない。

<リストラされた男性の証言>

あれは今考えても、何だったのか、と首をひねりたくなる。

一つだけ言えることは、あまり深入りしないほうがいいということだ。

私は会社をリストラされ、しばらく職がなくブラブラしていた時期があった。あれは、その時のことだった。

ある日、私の携帯に電話がかかってきた。いくつか受けている採用試験の合否通知かと思い、勢い込んで出てみると、妙に機械音的な女性の声でこう言われた。

「割のいいアルバイトがあるのですが、興味はありませんか?」

いたずらか、何かの詐欺かと思い、切ろうかと思った矢先

「1時間ほどの作業で10万円を用意いたします。」

と言われ、気持ちがぐらついた。

正直、その当時は収入のあてがなく、お金に困っていた。まだ、失業保険は出ているにしても、余剰資金はいくらあっても良かった。

「仕事はかんたんです。あるコインロッカーから荷物を取り出し、別の駅のロッカーに入れてもらうだけです。」

ものすごく怪しい。覚せい剤とか、後ろ暗い金とか、そういうのではないのだろうか?犯罪の片棒をかつぐことになるんじゃないだろうか・・・。

そう思いながら、私は話を聞き続けてしまった。先方はそれを「諾」の印と受け取ったのかもしれない。更に話を進める。

「条件がいくつかあります。

 ひとつ、ロッカーの中身については、誰にも他言しないこと。

 ふたつ、ロッカーの中身の「中」を決して見ないこと。

 みっつ、ロッカーの中身をすべて全く同じように移すこと。」

引き受ける場合には、鍵は午後にでも郵便受けに入れておく、というのだ。私はちょっと迷ったが、引き受けることとした。

果たして、ロッカーの鍵とコインロッカーの場所を記した紙が午後、いつの間にかポストに投函されていた。期限は明日の夕方までで、次のロッカーの場所は自分で決めていいということだったが、環状のY線の駅の何処かでなければいけないとのことだった。

紙には、終わったあとの連絡先と報酬の引き渡し方法も記載されていた。

私はその指定された駅に行き、指定された場所のロッカーを鍵で開けた。そこにあったものについては、例の条件があるので、ここでは言えない。ただ、中身を見てひどく動揺したのは確かだった。それは私が想像していたものではまったくなかった。

非常に気味が悪いものであったが、今更やめるわけにも行かない。

私はそれらの「荷物」を紙袋に入れた。持った瞬間はそれほど重い感じがしなかったが、中で微かに動く気配があった。

ロッカーをあとにし、私はできるだけ早くことを済ませたかったので、隣の駅のロッカーに運ぶことにした。「荷物」をロッカーに入れ、鍵をかけ、鍵を所定の私書箱あてに送付した。仕事はそれで終わりだった。これで、次の日にはポストに報酬が投函される、という約束だった。

ところが、次の日にまた、あの機械音的な女性の声で電話がかかってきていた。「きていた」というのは、直接取ることが出来ず、留守電になっていたからである。

「コインロッカーの場所の記載がありません。コインロッカーの場所をお知らせください」

10分後

「コインロッカーの場所の記載がありません。コインロッカーの場所をお知らせください」

また10分後

「コインロッカーの場所の記載がありません。コインロッカーの場所をお知らせください」

・・・

都合、20回近くのメッセージ記録があり、私は怖くなった。

慌てて、ロッカーの場所のメモを例の私書箱宛に送付したが、おそらくそれが届くまでの間だろうか、日中、間断なく電話の呼び出し音が鳴り、気が狂いそうになった。

次の日、気がつくと、報酬はきちんとポストに放り込まれていた。

意味の分からない、そして、気味の悪い体験だった。

<ロッカー管理会社のアルバイトの話>

コインロッカーに荷物をずっと預けているとどうなるか知っているだろうか?

大抵の運営会社は定期的にチェックをして、ロッカーが長期に渡って開けられた形跡がないと「放置」とみなして、中身を取り出して移管してしまうのだ。

僕は、大学生時代にその「移管」のバイトをしたことがある。

S駅の南口コインロッカーは人目につきにくく、利用しにくいからか、そんなに一杯になるものでもなかった。

しかも、そのロッカーは旧式で、作業員が目視で利用状況を確認する必要があった。

料金の回収と一緒にロッカーの利用状況を確認し、数日に渡って、同じロッカーが使用中であれば中身を確かめる必要があった。

ちょっと人通りから外れた深夜のコインロッカーはなんだか嫌な気配がして恐ろしいものでもあったが、バイトを続けるうちに慣れた。

実は置き忘れというのはそれほどある訳ではなく、自分も2ヶ月このバイトしているが、まだ一件も置き忘れを移管した経験がなかった。

ところが、ついに、3日間滞留しているロッカーがあったのだ。なんとなく嫌な予感はしていた。

先輩からは、「滞留のロッカーを開けたら、中から嬰児の腐乱した遺体が出てきた奴がいる」だの、「バラバラ殺人の被害者の頭が入っていて、開けた瞬間に目があった」だの、恐ろしい話をいくつか聞いていたからかもしれない。

そうは言っても規則なので仕方がない。僕はロッカーを開けてみることにした。

ロッカーを開けてみて僕はゾクリとした。

中には紙で何重にも封をされた古びた壺が一つあった。それだけならまだしも、ロッカーの内壁に、奇妙な文字が書かれたいわゆる「御札」のようなものがベタベタと貼られていたのだった。

怖くなり、先輩に電話で相談をした。その結果、「規則には違反するが、もう一日だけ様子を見よう」ということになった。

次の日、恐る恐る南口コインロッカーを見に行くと、件のコインロッカーは「空」、つまり、中身が取り出されていたのだった。念のため、中を覗くと、昨日貼り付けられていた御札のようなものも、きれいに剥がされていて、何の痕跡もなかった。

Concrete
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@むぅ
コメントありがとうございます。
他の話も読んでみてくださいませ。

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