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中編4
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赤い虫

一度他サイトに投稿させて頂いた話です。

私はうにょうにょと動く、手足がない芋虫や蛆虫がとても苦手です。好きだという方はあまりいらっしゃらないかとも思いますが、私は極度にそれが苦手、というより恐怖すら感じるほどです。

ただ、家の中にいればそんな虫になど遭遇することはめったにありません。不潔にしていなければ蛆虫などわくこともなく、植物を多く飾っていなければ芋虫などもいないでしょう。

だから、怖いからと言ってひどく恐れることもないはずなのですが。

私が小学校低学年の頃のことでしょうか。

当時、二段ベッドの上に私が、下に妹が寝ておりました。

子供の頃から寝つくまで時間がかかる私は、布団に入ってからも天井を眺めたり、その日あったことやたわいもないできごと、頭に浮かぶことをぼんやりと考えたりしております。

そんないつもの夜。

ふと、

「もし、ここに蛆虫がいたらどうしよう・・・」

そんなことが頭に浮かんだのです。

蛆がわくようなものもない、二段ベッドの上の布団の中で、ここに蛆虫がいたらどうしよう?

そんなわけない。

いるわけがない。

でもいたら?

私の体を包んでいる布団のどこかに、蛆虫が這っていたら?

それが私の体に移り、たとえば私の耳の中から体に入ってしまったりしたら?

バカらしい想像はどんどんとふくらんでいきます。

でも、いるわけがない。

いるわけないじゃないか・・・。

自分で自分のバカらしい想像を遮るようにして目を閉じようとしたその時。

私のあごまでかぶっている毛布の端を、赤い何かが動いていたのです。

体長5ミリ程で透明で薄赤い体を蠕動させて這っているそれは、色は微妙に違いますが蛆虫そのものでした。

毛布の端を体を蠕動させ、右側から左側に向かってうにょうにょと這っている。

私の顔の位置からそれまではたぶん、20センチも離れていない。

私の体は硬直しました。

赤い蛆虫から目を離すことができません。

蛆虫はこれ1匹だけだろうか。もしかして、他にも、布団の中の方にもいるのだろうか。

確かめたい。

でも動けない。

動いてこの、赤い蛆虫が私の顔にぽろっと落ちてきてしまったら。

動けない。

蛆虫が毛布の左側に到達した時、蛆虫から目を離さないようにしながら布団から這いだし、両親の寝室へ急ぎました。

布団に蛆虫がいる。しかも、薄赤い色の。透明の。

怪訝な顔で私の話を聞く両親。

何かの見間違いだろうと言います。

私もそう思いたい。

でも、それは明らかに動き、私の目の前を移動している。

見間違いなんかではない。

言い張る私に根負けした父が、毛布を取り窓の外で

ばさん、ばさん・・

と何度かはらってくれました。

「もういないから寝なさい」

毛布をベッドに戻し両親は寝室へ戻り、私はまたベッドに入りました。

毛布を端から端までよく確かめる。

透明な薄赤いそれはどこにもいませんでした。

二度目にその蛆虫を見たのは中学2年生の頃でした。

勉強嫌いの私はよく宿題を忘れました。宿題を忘れる生徒は罰として机の横に立たされたり座らされたりしていました。

その日も私は机の横に座らされていました。

学校の床は暗い緑色のリノリウムというのでしょうか、うっすらと冷たい床です。

正座をしている私の足を征服のプリーツスカートが傘のように包んでいました。

ふと、何気なくでした。

「まさか、ここに赤い蛆虫いたりして」

子供の頃に見たあの赤い蛆虫を思い出したのです。

いくらなんでもこんな学校の床にいるわけなどない。

でも、あの時もいるわけなどない毛布に、あれはいた。もしかしたら、ここにあらわれてもおかしくないのではないか?

そう思い、足を包むスカートをちらっとめくり、床を見ました。

いた。

いたのです。

あの時と同じ、体長5ミリ程の透明な薄赤い体を蠕動させ、床を私の机の方に向かってうにょうにょと這っていたのです。

え?

とうして?

小さなそれはただ前にしか進めないかのように、前進しています。

ひたいの横から冷や汗が頬をつたいます。

この虫は私がわき起こしたものなのか?私の体のどこかから出てくるのだろうか?私の制服のどこかに、いつの間にかについていたのか?

私はそっと位置をずらし、動揺を誰にも悟られないように座り続け、授業が終わりました。

赤い虫は消えていました。

それ以降は現在までその赤い虫は見ていません。

あの虫は本当にいたのか。

私が私自身に見せた幻覚だったのか。

いたらどうしよう。

その気持ちが恐れる何かを視せてしまうのなら。

だが。

なぜ、あの色だったのか。

それが一番不思議でしかたがないのです。

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