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短編2
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竹屋の渡し

みめぐり神社の稲荷へ詣でようと思っとった。

ちょうど桜の季節でな、

竹屋の渡しから舟に乗ったはいいが、花見客でごった返して押し合いへし合い、

今にも舟べりからひとがあふれそうじゃった。

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はるか向こう岸を見渡せば、

土手づたいにそりゃあみごとな桜の並木が、水戸さまのお屋敷のあたりまでずうっと続いとったよ。

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やがて川の中ほどまで差しかかったとき、

対岸から「伝七やあい」と名を呼ばれた。

見ると、舟つき場の桟橋から手をふる女がいる。

姉の登美じゃった。

娘の時分そのままに、市松模様の小袖を着ておった。

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あまりに懐かしかったので「おうい」と手をふり返すと、

彼女の周りに、わらわらとひとが集まりはじめた。

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木場町の弥平おじ、

はす向かいに住んでいた鶴婆さん、

表具屋のご隠居、

妙心寺の先代住職、

どれも懐かしい顔ばかりじゃった。

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そのときわしは、ふっと思ったんじゃ。

このまま川を渡ってはいけない。

なにせ向こう岸にいるのは、みな彼の世の人間ばかりなのじゃ。

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こう見えても漁師のせがれよ、

夢中で水へ飛び込んだ。

泳ぎには自信があった。

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ところがわしが飛び込んだとたん、それまで穏やかだった大川の流れが急に荒れ狂いだしてな、

泳ぐどころか、浮かんでいることさえままならなくなった。

「こりゃあ、いかん――」

そう思ったときには、もう遅かったよ。

かなりの水を飲んで、意識がふっつり途切れてしもうた……。

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気がつくと川縁へ寝かされとった。

大勢の野次馬がわしの顔を覗き込んでてな、

少しはなれた場所には筵が敷かれ、死体がずらーっと並べられておったよ。

訊けば、ひとの重みで舟がひっくり返り、助かったのはわし一人ということじゃった。

Concrete
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