土曜日の下校時間。
川沿いの土手に黒猫の死骸が転がっていた。生後半年くらいだろう。潰された目に剥き出しのあばら骨。鼻からは血が流れていた。
夜、寝付けずに天井を眺めていると部屋の外で猫の鳴き声がした。そっとドアを開けると、足元から何かが部屋に入ってきた。明かりを付けて探したが何もいない。ベッドに潜ると、顔に液体が滴ってきた。ぬるりとしたそれは鉄錆の臭いがした。見上げると天井に赤黒い染みが広がっていた。
日に日にそれは形を変えて、猫の姿になった。毎夜滴る赤黒い液体も気にせずにいたら、いつの間にか染みごと消えていた。
問題は、それ以来鏡に映る僕の顔が黒猫になっていることだった。同級生の久那戸ミコだけが気付いて、僕を須崎ではなく猫崎と呼ぶようになった。
彼女がそれにも飽きて、実家の神社でお祓いをしてくれたのは一か月も後のことだった。
「これでやっと解放されたよ、ありがとう」
彼女は僕をじっと見て、笑いを噛み殺しながら言った。
「いいの。気にしないで、魚崎君」
作者ゴルゴム13
主人公・須崎光一と神主の娘にして同級生・久那戸ミコの、ゆるい怪談話。
第一話 http://kowabana.jp/stories/32117
第二話 http://kowabana.jp/stories/32804