それは薄暗い場所で目を覚ました。
?「ここは‥どこだろう‥」
それは立ち上がろうとしたが、足に力が入らず倒れてしまった。回りを見渡そうとしたが、なぜか首に力が入らず、顔を動かす事が出来なかった。ただ、回りに自分と同じような動かない連中が転がっているのは見ることが出来た。
?「あれ、おかしいな。足が動きにくい‥関節が曲がらない‥どうしたんだろう。」
??「お、まだ喋れるやつがいるな。あぁ。動かなくていい。というか動けないだろう。」
?「あなたは誰ですか?ここはどこなのですか?」
??「ここはゴミ捨て場だ。俺達みたいな廃棄ロボットのな」
?「‥ゴミ捨て場‥あぁ、私は捨てられたのですか。それと、体が動かないのはどういうことでしょう?」
??「ここの空気には特殊な電磁場が流されていて、それは徐々に我々の機械部品を壊してしまうんだよ。ペースはゆっくりだが、いずれ何もすることも出来なくなる。普通は電源モジュールは切られた状態でここに送られて来て、知らないまにメイン部分は完全に壊れてしまうのだがね。たまに君の様に電源が起動してしまうやつもいる。まぁ痛みとかはないから安心したまえ」
?「痛みもなにも私達ロボットに痛覚はありませんし、私の様な低級のロボットに感情モジュールは搭載されていませんよ。そんなロボットは一部の高級品だけですから」
??「失礼。そうだったな。俺が目覚めてから喋り相手がいなかったものだから。なぁ。どちらかが話せなくなるまでここにいて良いか?」
?「どうぞ」
?「しかし、人間というのは不思議なものですね。なぜ私達に対してこんな廃棄方法をとるのでしょうか。焼却炉につっこんでしまえば、一瞬で燃えてしまうのに」
??「俺の知識によるとだな、それは「かわいそう」というものらしい。今は時代が進み、1家庭に1台のロボットが働く様になった。人間はそのロボットと長い時間を共にして、「愛着」なるものがわくらしい。それを焼却炉につっこんで燃やすというのは出来ないみたいだ」
?「はぁ。電磁場で壊すのと何が違うのか私には解りませんが」
??「この方法は、我々の処理に迷いに迷ったあげく人間のえらいお方が決めたらしい。なんでも電磁場で壊されるのは我々の意識を構成する内部部分だけで、苦痛もなく眠るように起動不能になるとかで、人間の「良心」が痛まないらしい」
?「よくわからないですけど、我々は人間の決めた事に従うだけですから、私の質問に意味はありませんでしたね」
??「なぁ。君の主人について教えてくれないか?といっても、あんまり俺の主人と変わらないのだろうけどな」
?「詳細なメモリーは、個人情報の流出を防ぐために消されています。ですから私が話すのは、個人の特定する心配のない情報、つまり何気ない事しかありませんが」
??「それでいいさ」
?「私は40年間、ご主人の世話をしてきました。ご主人が6歳の時に私が与えられ、それから毎日色々な形でお世話をしてきました。ご主人は時に悩み、それを乗り越え、また間違いをやり、反省したり反省したふりをしたりして、毎日必死に生きている様子でした。
小学校、中学、高校、社会人と、いつも何かに悩み続けていましたが、その中でも本当に楽しそうな顔をされていた時もありました。テレビ番組を見て泣いていたかと思えば、次の日は大笑いをしていたりしましたね。ある人と大喧嘩をして、その後は二度と関わらないといったご様子でしたが、しばらくしてその方を大切な親友だと私に紹介したこともありました。私はそれをずっと見てきました。細かい事は思い出せませんが、それは確かに私の中に残っています」
??「あぁ。やっぱりどこの人間もそんなものだな。俺の場合は女だったが、それと大差ない。そうだ。俺は少し高性能でな。その女の声を録音したテープがあるんだよ。今再生してやるから‥いかんな。視覚モジュールがやられたか、目が霞んできやがった。スイッチの場所が見えない‥それに、もう腕も動かねえや」
?「すいません。なんて言いましたか?あなたの声が聞こえなくなってきています。私の聴覚モジュールが壊れてきたのでしょうか?」
??「もうお互いに時間が無いようだな。お前と話せて良かったと思うよ。あ、最後に一つだけ聞いておきたいことがある」
?「何ですか?」
??「なぜ人間が「死」ってやつをすごく恐れるのか、こういう状況になったら俺にも理解出来るのかと考えた事があってな。でもどうやらそれは理解出来そうにないみたいだ。お前はどうだ?」
?「それは当たり前ですよ。我々に感情モジュールは搭載されていないですし、そもそも我々は使い捨ての消耗品なんですから。人間とは本質的に違うものなのです。理解しようとするだけ無駄ですよ」
??「そうだな。さて、俺はもう終りかな。人間はこういう時には「挨拶」って奴をするみたいだ。じゃあな」
?「さよなら。私も何か‥」
そのあと、何かの部品が弾ける音がして、誰かが「おい」と言った様な音がした。それからは、物音一つすることはなかった。
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令「こんな廃棄工場なんかに、一体何の用事があるんですかい?」
幽「少し興味深い会話を耳にしましてね。」
作者嘘猫
このロボットがどことなく人間らしく見えるのは、自分だけでしょうか。