先日、私が喫茶店で聞いた会話。
残念ながら、自分の真後ろで話されていたことだったし、振り返ってジロジロ見るようなこともできなかったので、どんな人が話していたかまではよくわからない。
ただ、声や話しぶりから、どうやら高校生くらいの若い女性二人組だろうと思えた。
二人を仮にA、Bとしよう。
A「ねえ、『サトルくん』って知ってる?」
B「何それ?」
A「知らないの?結構、言ってるよ、みんな」
B「えー知らない」
A「ちょっと、怖い話なんだけどさ」
A「SNSでサトルくんと友達になると、ある日連れてかれちゃうんだって」
B「えー何それ。連れて行かれるってどういう意味?」
A「連れて行かれるって言ったら、連れて行かれるのよ。あの世に。」
B「こわー。でも、そんなん、友達にならなきゃいいじゃん」
A「まあ、そうなんだけど、世の中恐いもの好きっているじゃない?これって、友達の友達が体験したっていう本当の話なんだけどさ・・・」
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このあとのAの話を要約すると以下の通り。
恐いもの見たさで、サトルくんのIDに友達申請したC(男性らしい)は、試しにメッセージを送ってみた。
C「君は誰?」
サトル(以下、S)「サトルだよ」
C「本当にいたんだ」
S「いるよ」
そんな感じから始まり、普通にSNSのやり取りは続いていった。以外にもCとサトルくんは気が合って、趣味の話などを良くするようになった。Cも最初こそ、友人たちに
「サトルくんと友達になったぜ」
と冷やかし混じりに言っていたが、そのうち、本当にサトルくんとの会話を楽しみにするようになっていった。
同級生たちが、Cの異変に気づくのにそんなに時間はかからなかった。まず、授業中も、四六時中スマホを気にしている。先生に注意を何度も受ける。休み時間中はずっとニヤニヤしながらスマホを操作している。もちろん、登下校中は歩きながらずっとスマホを操作していた。
そんな姿を見て、周囲の友人も次第にうす気味悪くなってきていた。
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終いには先生にスマホを取り上げらてしまった。授業中、あまりにも堂々とスマホを操作していたためだった。
「返してくれよ!」
Cは柄にもなく先生に食ってかかった。
先生が説教をしだすが、全く聞かずに
「返せよ!返せよ!」と繰り返した。
最後には、涙声になり
「お願いだよ〜、返してくれよ〜返してよ〜」と半狂乱になってしまった。
ここにきて、周囲はやっとヤバさに気が付き始めたが、どうすることもできなかった。
噂だけが先走る。
「○組のCってやつがサトルくんと友達になって狂ったらしい」
「脇目もふらずにスマホにかじりついている」
「食事もとっていないんじゃないか?なんだかやつれたっていう噂」
「もうだめだ。あいつ、完全に憑かれている」
などなど。
噂はまたたく間に広がり、それとともに、Cが学校に来る頻度はどんどん減ってきた。
Cが学校に全く来なくなってしばらく後、CのSNSからいろんな人に一斉にこんなメッセージが流れた。
「サトルくんに会える、サトルくんに会える」
「サトルくんに会える、サトルくんに会える」
・・・
それだけが延々とタイムラインに流れてきた。不気味に思った友人たちは、次第にCのアカウントをブロックし始めた。
Cとは親友だと自認しているDだけは最後までSNSをブロックせずにいたらしい。
たまに、「どうしたんだよ」「大丈夫かよ」
と打ってみるが、帰ってくるメッセージはひたすらに
「サトルくんに会える、サトルくんに会える」
だった。
流石に、不気味に思い、また、通知がひっきりなしで迷惑でもあったので、Cからのメッセージの通知を切ってしまった。
数日後、ひさしぶりにCのアカウントを開いてみると、画面いっぱいに未読メッセージとして
「サトルくんに会える、サトルくんに会える」
と書かれていて、ゾッとした。
最後のメッセージを確認すると、そこだけ違っていた。
「6月22日」
そこで、タイムラインは終わっていた。
6月22日といえば、来週であった。Dはなんだか嫌な予感がしたので、Cの家を訪ねてみた。
Cの親が出迎えてくれたが、DがCに会いたいと言っても首を振るばかりだった。
「ごめんなさい。Cは部屋に閉じこもって全く出てこないの・・・」
Dは言葉がなかった。あの明るかったCがどうしたのだろう。
その後、DはSNSで何度かCに呼びかけてみたが、全く返答はなかった。
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B「それで最後はどうなったの?」
A「わかんない」
B「わかんないって?」
A「消えちゃったんだって」
B「え?」
A「だから、6月22日に、Cって人は家からもどこからも消えちゃったって。多分、サトルくんに連れてかれちゃったんじゃないかってこと」
B「こわ・・・」
A「今でも、行方不明らしいよ。それで、たった一回だけ、DのタイムラインにCからのメッセージが流れたんだって。」
B「え?なんて?」
A「サトルくんに会えた、って」
ここで、私は喫茶店を出なくてはいけなくなってしまい、名残惜しいと思いながらその席をあとにした。ちらりと見た感じでは、話をしていたのは、制服をきている女子高生二人組であった。
作者かがり いずみ
話を聞いていて、ちょっとゾッとしました。
皆さんは楽しんでいただけましたか?