中編4
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親切な隣人

最近、私の身に起きたことを聞いてほしい。一言でいえば、隣人トラブルだ。

私は賃貸マンションに住んでるが、隣室に女性が入居してきた。40代後半くらいのどこにでもいそうな女性で、一人住まいのようだった。

翌朝、朝食を済ませた頃、その女性が私の部屋を訪ねてきたんだ。

「はじめまして~。隣に引越してきた、リフロンティア・マリア・キリストです。引越しのご挨拶にと思いまして~」と女性が言った。

「は?」いや、名前があり得ないだろ? それに今は朝の6時だぞ。

私は「申し訳ありません。お名前、もう一度よろしいでしょうか?」と訊いた。

「リフロンティア・マリア・キリストです」

「は、はぃ・・・。 こちらこそよろしくお願いします」私はドアを閉めようとした。

その女性は、ドアの内側に半身を入れてドアの閉鎖を阻み「ところで、今何してるんですか?」と訊いてきた。

「え?」

「いや、何をなさってるんですか?今からどこか行くんですか?」

「最近のコロナの影響で、自宅でテレワークなんですよ。えっと、すいません。いきなり何ですかね?」私は困惑していた。

「いつ仕事辞めるんですか?自分がすべきことが分かってないんですか?」さらに女性は続ける。

「あ?何言ってんだ?おい。お前いい加減にしろよ」私はどちらかと言えば気が短い方だ。この女は普通じゃない、しかも喧嘩を売ってきてる、遠慮の必要はない。私はそう判断した。

「いつから私と一緒に世界を救うんですか?仕事なんて庶民がやることで、私たちには全人類の救済という使命があるんですよ!」

うわぁ。ガチだ。

「もういいから。私そういうのやってないし興味もないんで」私は女を押し出し、ドアを勢いよく閉め、あえて大きく「ガチャッ」という音を立てて鍵をかけた。

『本当にいい加減にしてくれよ・・・』そういう気分だった。

つい数日前、斜向かいのAさんの奥さんが、旦那さんを殺してバラバラにして燃えるゴミの日に出してたってことで警察に逮捕されるという、トンデモな事件があったばかりだった。

その件で、見たくもないものを偶然見てしまったというのもあって、何か気分転換になるようなことはないかと探していた矢先、変な女が訪ねてきた格好なのだ。

それから数時間後、11時半には仕事を済ませ、昼食をとっていたときだ。ドアのポストに何か投げ込まれた。郵便か?ドアポストの中を見ると、一通の手紙だった。切手も消印もない。

いやな予感を覚えつつ、封を切って中を見ると、手書きの字で埋め尽くされた便せんが10枚も入っていた。

その手紙は『人類救済の使命 リフロンティアに与えられた義務と運命』というタイトルで始まっていた。そのタイトルから、差出人は明らかだった。まともな内容であるはずがなく、読む必要なんて全くなかったが、つい途中まで読んでしまった。

手紙によれば、あの女性は宇宙を統治する神の分身であり、この世界には、他にも数体の分身がいる。その分身を統括して、全人類を救うのが彼女の義務であるところ、人類救済の出発点にしようと思って移り住んだ住居の隣人が、まさにその分身の一人だった。

という内容で『私は親切だから、世界の真実をお前に教えてやる』というトーンで書かれていた。

内容はまだ続いていたが、腹が立ってきて途中で読むのをやめ、手紙をゴミ箱に入れて、今夜の酒の肴を買いに行った。

買い物先では本屋やホームセンターなどにも立ち寄り、帰宅したのは18時頃だった。ドアポストにまた切手と消印のない手紙が入っていた。

舌打ちしながら手紙を開封すると、食事に使うフォークと手書きの便せん数枚が入っていた。

『?』と思い、手紙を読んでみると

このフォークは私が使っていたもので、ロンギヌスの槍と同等の霊格を持つ神器。お前は自分の運命に気づけていないが、これで両目を貫けば真実に目覚め、私と一緒に世界を救える。

という内容が『私は優しいから、お前を助けてやる』というトーンで書かれていた。

「いや、もうこれ脅迫だろ!」

私はすぐに警察に通報した。通報を受けて臨場した警察官に、一部始終を話した。警察官は私の話を聞くと「一応、隣の人にも話聞きますから」と言って隣室のチャイムを鳴らした。

私はドアを少し開けて、その様子をうかがっていた。ピンポーンピンポーンと警官がチャイムを鳴らすと「は~い」と女性の声がした。

「ちょっと待ってくださいねぇ~。今開けますから~」

そう聞こえた数秒後だ。隣室のドアが開いたかと思うと、女の手に握られた包丁が飛び出してきた。警官は左肩を深く刺され、悲鳴をあげながら後ずさりした。

「神罰!神罰ぅ!!」と叫びつつ、女は包丁を持って警官に襲い掛かると、警官も叫びながら拳銃を抜いて発砲した。女は銃弾を受け、動かなくなった。警官は無線で何やら報告していた。

その後、相当な深夜まで警察署で事情聴取を受けた。帰宅後、もはや何も食う気になれず、買った刺身が無駄になった。

Concrete
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