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中編7
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事故

ガス漏れによる爆発事故だった。

当時、二階建ての事務所にいた7名は倒壊により瓦礫の下敷きとなった。

駆けつけた救急隊員は生存者がいるとは考えにくかったが、懸命に検索した。

結果的に奇跡的にではあるが、男1人女2人の3名もの生存者が見付かった。

しかし、余談は許さない状況。3名ともすぐに集中治療室に運ばれた。

その頃、現場には規制線が張られていたが、多くの地元記者とテレビ局が駆けつけていた。

こんな時に!と、いつも救急隊員は思う。

幸いだったのはこの事故が起きた時代には、まだ個人が携帯電話を所持しておらず、SNSが発達していなかったことだ。

SNSが発達した現代であれば、救急隊員のストレスは極限であっただろう。

だが、それも数日も経つと見向きもしなくなるのである。

世間が見向きもしなくても、もちろん立ち向かわなければいけない者もいる。

事故原因を探らないといけない者、遺体の身元を確認しないといけない者、医療の現場にて一生懸命戦う者。

また、事故被害者の家族もその一人だ。

死亡が確認された方の家族は数日寝らずに生存者3名の中に家族がいるとの吉報を待ち続けていたが、ついには叶わず、泣き崩れる。

生存者3名の家族もまた辛い日々を過ごしていた。

いつ亡くなるか分からない状況の上、一命を取り留めてもこの先意識が戻るかどうか。

意識が戻ったとしてもこれから先今まで通りの生活が出来るのだろうか…。

3人の生存者の内の由美と最近結婚した達也もまたその一人だ。

搬送先の救急病院で緊急手術が終わるのを待っている。

待っている内に他の生存者のご家族であろう方も病院に駆け付けた。

さすがに妻の職場の人のご家族っていうと誰が誰だか分からないが、1人知っている人を見付けた。

以前、由美の親友と一緒にダブルデートをしたことがある。

その時に来た彼だ。確か、名前は悟。

だとしたら、生存者のもう1人は香織だ。

なんでも条件のいい男性とのお見合い話が来ていたのを香織が断ってから、両親が結婚に賛成してくれない。と嘆いていたのを覚えている。

達也はもちろん両親に連絡を入れたが由美と達也の実家は遠くにあり、駆け付けるまでに時間が掛かるであろう。

でも、1人で待つのもいささか精神的に参る。

思い切って悟に声をかけた。

「こんにちは。覚えていますか?」

悟もこちらに気付く。

「こんにちは。もちろん覚えています。」

「このような時に声をかけさせてもらって申し訳ありません。お互いただ待つだけというのは余計に色々考えてしまうと思いまして・・・。」

「構いません。私も誰かと話していた方が落ち着きます。」

二人はお互いになるべく事故の話を避けて他愛のない話をする。

そこに駆け足が聞こえてきた。

2人の夫婦が入ってくるなり、奥様が怒鳴り声を上げた。

「なぜ、あなたがここにいるの!!」

「すいません・・・。」

悟は何も悪くないのだが謝った。

達也はこの夫婦と悟の間に何があったのかは全く知らない。

しかし、怒りが込み上げて怒鳴りつけてやろう!と思って立ち上がったが、悟が必死に耐えているのに自分が怒るのは甚だ場違いだ。と考え直して、優しく言った。

「ここは病院です。お静かに願います。」

「誰なの?あな・・・。」

やかましい母親が言いかけたが、父親が制止した。

「みっともないからやめなさい。」

その後、しばらく沈黙が続いた。

その沈黙を切り裂いたのは手術室の扉が開く音だった。

由美の手術室ではない。

では、香織さんの?

と思ったが、それも違い男の生存者の手術室であった。

お医者さんが出てきて、ご家族が駆け寄る。

お医者さんが首を横に振るとご家族が泣き崩れる。

側にいた看護師が肩を支えて別室に案内していった。

その様子を見ながら、達也はいっきに緊張が走った。

香織の家族も一緒であろう。

手術室の扉が開いてほしいようなほしくないような・・・。

どのくらい経ったであろうか・・・。

由美の手術室でない扉が開いた。

もちろん聞くつもりもなかったが、嫌でも耳に入る。

「一応、一命は取り留めましたが、意識は戻っておらず、いつまた容態が悪化するか分からず予断を許さない状態です。」

そういうと、悟も香織の両親も泣き崩れた。

生きていたことへの嬉し涙だったのか、また絶望の淵に立たされたことへの涙だったのか・・・。

分からないが、前者の方が強いだろうと思っていた。

その後、しばらくして由美の手術室の扉も開いた。

「もう心配いりません。大丈夫です。ですが・・・。」

「何ですか?」

「残念ながら、爆発による破片が顔にいくつか刺さってしまい、片目は失明、また、顔中に手術痕が残ってしまいます。女性にとっては・・・。」

「生きているだけでも構いません!今後は私が支えます!」

念のため、集中治療室に入れられた。

その後、達也と由美の両親も駆け付け、入院の準備や休息を取るために、次の日来ると伝えて自宅に帰った。

次の日達也が病院に行くと

達也がいくとすぐに看護婦から呼ばれて、診察室に向かった。

「何かあったんですか?」

「容態が悪化しました。副作用かもしれません。由美さんが最近病院に行かれたり、飲まれていた薬はありますか?」

「いえ、病院はありません。薬もないはずです。置き薬もありませんし、市販薬が必要な時には職場から薬局近い私が買っていましたから・・・。」

「そうですか・・・。治療ではなく、不妊治療などはしていませんか?」

「いえ、子供は2人ともほしいと思い、子作りはしておりましたが、不妊治療まではしておりません。」

「分かりました。原因を探ります。」

「念のため、ご主人さんは病院にいてください。」

達也はまた不安にかられたが、由美の両親も「大丈夫よ!昔から強い子だったから!旦那さんのあなたが一番知っているでしょう。」などと冗談で励ましてくれて、いくらか気持ちが楽になった。

また医者に呼ばれた。

「原因が分かりました。もう大丈夫です。」

「本当ですか?ありがとうございます。何が原因だったんですか?」

「非常に申し上げにくいことです。意識をしっかり持ってください。」

「大丈夫です。昨日から覚悟ばかりしていますので、だいたいのことでは驚きません。」

「ピルです。」

「ピル?」

「はい。避妊薬のピルです。今回投与した薬とピルとの組み合わせが悪かったのだと思います。」

「何かの間違いでは?2人とも妊娠を望んでいたんですよ?」

「申し訳ありませんが、検査結果は正確です。成分が検出されました。ご主人が望まれていても奥様は仕事を続けたいなどの理由から内緒で服用されるケースもございます。」

達也は由美の部屋の前までいき、頭を抱えた。

(自分本位だったのかな?子供がほしいって笑顔で語ってくれたのは嘘だったのか・・・。)

意識のない由美をガラス越しに見つめながら思った。

そんな暗い気持ちを吹き飛ばすような事件が起きた。

悟と香織の両親が急いでやってきたのだ。

どのような事態であるかは容易に想像出来た。

「ご臨終です。」

悟と両親は泣き崩れた。

両親は悟の方を抱いた。

皮肉なもので、娘死してやっと和解出来たのだ。

悟が部屋から出ると達也と目が合った。

お互い軽く会釈をした。

達也は正直、隠れて避妊していたのはショックだけど、亡くなるよりかは・・・。と思った。

悟は正直、なぜ同じところにいて、あっちだけ生きていて、こちらが死ぬんだ!という感情に陥った。

この感情が悟を苦しめる。

なぜ、香織が・・・香りだけが・・・。

生きているあっちが憎い!憎い!憎い!

結婚もスムーズにして、生きていて、いいことばかりではないか!

もちろん向こうに何の責任もないことは分かる。

でも、こう思わずにはいられなかった。

感情が抑えられない悟の足がとある所に向かった。

病院の屋上である。

悟はそんな感情を抱いた自分を恥じ、また香織のいない喪失感から身を投げた。

病院は一時騒然となり、そのことは達也の耳にも入った。

もちろん悟の憎悪の気持ちは知らない。

でも、彼女がいなくなったらそうなるだろうな・・・。と、とてもつらい気持ちになる。

しばらくして、看護婦が達也の元へやってくる。

「意識が回復しました!集中治療室はまだ出れませんが、容態も安定しているので、室内に入ってもらって結構です。」

達也が室内へと入るとお医者さんがいた。

「今はまだしゃべれるまでは回復出来ていませんが、2~3日でよくなるでしょう。」

「ありがとうございます。」

医者が出て行った後にまじまじと由美を見る。

片目や顔中が縫われている。

整形外科の先生とも話したが、片目を戻すことは出来ないが、顔の傷は目立たなくなるまで回復するでしょう。と、言われたので、回復したら伝えてあげよう。

由美は片目を開いて、達也を見ている。

達也が笑うとにっこりと返してくれたような気がした。

両親も駆け付けて、その夜みんなやっと落ち着いて寝ることが出来た。

3日目だった。

いつものように、由美の病室にいくと何か言いたげにしている。

達也はナースコールを押した。

「由美さん。苦しくないですか?苦しくなければ酸素マスクを一時外しますよ?苦しければまばたき1回。苦しくなければまばたき3回行ってください。」

まばたきは3回だった。

「あまり長くはしゃべれません。10分後にまた来ます。容態が悪化したら呼んでください。」

「ありがとうございます。」

看護師が出ていくと達也は話しかけた。

「由美。大変だったんだぞ。もう大騒ぎ!でも、無事でよかった。」

「あ・・・あ・・・あり・・・ありがと。」

「全然大丈夫。ほしいものあれば何でも言ってね。」

「うん・・・。」

「どうした?」

「なんで、みんな由美っていうの・・・?私、かおり・・・。」

達也は病室を後にして、病院の屋上へ向かった。

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