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長編9
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現代風の呪い

これは、ある退職した警察官Aから聞いた不思議な話。長くなりますので、お時間があるときにどうぞ。

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Aさんは警視庁の捜一(捜査第一課)を最後に退職した警察官だった。警察人生の殆どを刑事として過ごし、捜一にも何度も配属され、様々な犯罪の捜査に関わってきた。特に警部に昇進し、警察人生最後となった捜一で経験した事件は不思議なものが多かったという。

捜一では通常、警部が班長として一つのチームを率いる。Aさんも班長としてチームを率いていたのだが、このAさんのチーム、手掛けることになった事件には不思議な因縁が多く、同僚からは冗談交じりに「警視庁捜査第一課呪殺班」だとか「呪い班」だなどと言われていたそうだ。

これは、そんなAさんから聞いた事件の一つだった。守秘義務があるということで、細かい名称などは教えてもらっていない。また、被疑者の詳細な供述の内容なども教えてもらっていない。

ただ、当時報道発表された事実よりは突っ込んだことを話してくれた。

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「最初は単なる自殺、という話だったんだけどなー」

都内のB区の1Kのアパートで40代後半の男性の遺体が発見された。第一発見者は異臭がするという通報を受けて現場に駆けつけた若い警察官だった。

所轄署の捜査により、男の名前はT.Y、死因は腹部を包丁で刺されたことによる失血死という事はすぐに分かった。発見時、死後1週間から10日くらいは経っていた。部屋は内側から鍵がかかり、凶器と思われる包丁からは、Y自身の指紋が逆手に握るようについていたことから、自分で自分の腹を刺して自殺したと思われた。

「その年は梅雨明けが早く、7月に入ったばかりだったけど、すでに暑い日が続いて、遺体の腐敗の程度もひどかったんだ。それで臭いが漏れて通報につながったんだな。そうでもなければ、身寄りのないYの遺体はもうしばらく発見されなかったかもしれない。」

そう、Yには身寄りがなかった。もとは、妻と二人の男の子供がいたのだが、長男が中学1年生のときに自殺したのをきっかけに、妻とは離婚してしまったという。Yの両親も既に鬼籍に入っており、Yは天涯孤独であった。

「なんで、こんな痛そうな死に方をしたのかと最初は不思議に思ったもんだった。でも、捜査するうちに、その後ろの因縁が見えてきたんだ」

Yの息子Mは中学校でいじめにあっていたようだった。それを苦に、Yの死のちょうど2年前、放課後の誰もいない学校の自分の教室で、自殺をした。その時の手段もナイフで自分の腹を刺すというものだったのだ。

「この自殺事件は、当時ちょっとした話題になったんだ。ただ死んだんじゃなかったからね。Mは自分が死ぬ間際にTwitterにいくつか投稿をしたんだ。」

『これから僕は死にます。僕はH中学校1年2組、M.Yです。

 僕が死ぬのは、いじめを受けていたからです。いじめていた奴らは、同じ学校のS.R、K.G、J.Fの3人です。』

(※注 もちろん、実際の投稿はすべて本名だったが、Aさんは名を教えてくれていない。ここでは筆者が勝手に当てたイニシャルを書いている。)

『今、学校にいます。ここで死にます。ナイフを使います。』

(※注 この投稿に死んだ教室とナイフの写真が添付されていたそう)

『僕は死にますが、R、G、Fの3人は絶対に許しません。呪い殺します。』

そして、最後に実際に自分の腹にナイフを突き立てた「後」に、その写真を撮って、投稿したのだった。

「直接関わってはいないが、非常にショッキングな事件だったようだ。すぐに報道規制がかかり、あまり世間には発表されなかったんだ。こういう少年の自殺は不用意に報道すると模倣した連鎖自殺を招いちまうおそれがあるからな」

このときの資料によると、父親であったYは、学校に猛然と抗議をしたようだが、教育委員会の調査の結果は「いじめの事実は確認されなかった」というお決まりのものだったという。友達同士のふざけ合いだった、というわけだ。

その後、なおも父親のYは学校や教育委員会に申し入れをしたり、いじめをしたとして息子のTwitterで名指しされた生徒に会おうと試みたが、ことごとく拒否されたそうだ。

「そうこうしているうちに名指しされた3人は次々と引っ越していった。報道規制があったとはいえ、拡散したTwitter投稿まではどうすることもできなかったんだ。居づらくなったんだろうな」

「その後、Yは落ち込んだんだろうな。仕事も辞め、妻とも離婚してしまった。次男の親権も妻に渡し、退職金はすべて妻に慰謝料という名目で渡した。そうして、Y自身も引っ越してしまったんだ」

事件はこれで終わったかと思われていた。しかし、今回のYの自殺をきっかけとした捜査で新事実が明らかになったのだ。

なんと、Twitterで名指しされた三人の少年ーR、G、Fがその後、次々と不審な死を遂げていたのだ。

「Rは父親の転勤を表向きの理由に、Y県に引っ越していた。けれども、引っ越しをした先にもすぐに噂が広まったらしい。例のTwitterの投稿も転校先の生徒たちが次々とリツイートしていたようだ。」

なにせフルネームが記載されており、例の腹にナイフが刺さっている画像までセットで広まったのだ。Rの家に無言電話がかかってきたり、『人殺し、出ていけ!』などという中傷ビラが貼られるようになるまでにそう時間はかからなかった。父親の転勤先の会社の社員も例の投稿を目にするようになり、Rの父親も仕事をやめざるを得なくなった。

「追い詰められたんだろうな。結局、引っ越しをしてから半年もせずにRは自室で縊死してしまったそうだ」

二人目のGは、O県に引っ越した。父親は会計士で、今までの勤め先を辞めて、O県の県庁所在地で新しく会計事務所を立ち上げ、独立した。心機一転頑張る、という気持ちの現われだったのだろう。

ところが、やはり、ここでも例のツイートが広まり始めてしまった。特に、このGの名字は珍しいものだったので、Gの父親の会計事務所の顧客からも「もしかして」などと話題が出たり、家の表札の下にいたずら書きをされたりした。もちろん、G自身の転校先でも噂になってしまい、Gは引越し後、程なくして不登校になり、家に引きこもるようになってしまった。

「引きこもったGは毎日母親や父親に暴力を振るうようになったようだった。ときには包丁を持ち出す事もあったという。」

こんな事態になって、一番最初に音を上げたのは母親だった。離婚届に自分のサインだけを残して家を出てしまった。「G」という名字を名乗るに耐えられなくなってしまったのだ。母親が出ていってから後、更にGの家庭内暴力は激しさを増していった。父親は大層困ったようだった。

その上、Gの父親の会計事務所には顧客が寄り付かず、程なくして倒産することになった。こうして、Gと父親は路頭に迷うことになった。

「最後には、父親がGを殺し、無理心中を図ったんだ。これが大体Yの自殺の1年ほど前だった」

父親は死にきれずに生き残り、服役したという。おそらく現在も服役中だろうとAさんは言った。

「Mが書き残したツイートはまさに「呪い」だった。どこまでも追いかけて二人の少年の命を奪う結果になったんだからな・・・」

最後のFの死は他の二人とは違っていた。

Fの父親はPTAの役員を積極的に務めるなど、非常に学校に協力的だったようだ。教育委員会の調査でF達に有利な判断が出たのも、この父親の働きが無関係ではなかったらしい。実際、噂では、いじめていたという3人の中で最も中心的な役割を果たしていたのはFだったにも関わらずだ。

Fの父親は賢い男だったようで、Twitterの投稿が消せない可能性があることにも気づいていた。そこで、息子を親戚筋に養子に出し、改名までさせた。こうして、Fは全くの別人として東北の片田舎H県の中学校に転校することになったのだ。

「名前も変えてしまったからな。例のTwitterの投稿が広まるってこともなかったらしい。」

実際、Fは引っ越しをしてから2年間というもの特に問題なく学校に通っていた。ところが、そんなある日、Fが高校1年に進学したときのことだった、ネットのニュースで、Mの自殺が都市伝説のひとつとして取り上げられた。

「人名こそ伏せ字にしていたが、「Twitterの呪い」ということで記事が出ていたんだ。どこでどう調査したのか、RやGが死んだこともほとんどそのまま記載されいてたんだ。そして、最後の一人はまだ生きているが、消息不明ーと記事は結ばれていた。」

その記事のコメント欄にFが投稿をしたのが確認されている。

『公的な教育委員会の調査では、いじめの事実はなかったということ。

 Mの完全なる逆恨み。RやGは被害者。むしろ、Mの父親のほうが問題だったという噂』

あくまで第三者という風は装っているが、それは間違いなくFの投稿だった。なぜなら、教育委員会の調査の結果については、当時、全校の保護者会で発表されていたが、Mの父親が学校に執拗に申し出をしたなどの事実は伏せられており、少数の関係者しか知らないことだったからだ。

「Fはこの投稿の2週間後に、下校途中に何者かに襲われ、腹を刺されて死んだんだ。まるで、ネットに潜んでいた呪いに「発見」されてしまった、とでも言うかのようにな」

地元警察は当然捜査をしたが、夕方の田舎道での犯行で、目撃者もなく、犯人を特定するに至らなかったそうだ。

「時期も死に方もバラバラ。多分ここで、Yが死ななければ、一生この3つの事件はつながることがないままだったろうな。だが、Yの死によって、急転直下、一気に繋がりが見えてきたんだ」

鍵はYが残した日記だった。Yは律儀な性格で、ずっと日記をつけていた。それは息子のMが死んだ後も同じであった。そこに、R、G、Fの死についての意外な真相が書かれていた。

「Yは、Mの死について、公的に3人を裁くことができないと悟ったんだ。それで、自分で鉄槌を下すことにしたんだな。離婚もその準備だったようだ。」

Yは伝をつたってRやGの引越し先を調べると、すぐにその地域の様々なIT掲示板にMが流したツイートのURLを貼り付けていった。実は、何度か当該ツイートは削除されたのだが、Y自身が魚拓をとっており、いろんなアカウントを使って再投稿を繰り返していたのだった。

Yはそうやって彼らが引っ越す先々で噂を流していった。その間も、RやGの様子を観察し、死を確認するまで付け回していたようだった。

その様子は日記に克明に記載されていた。

Fについては、Yも苦労したようだった。父親の機転により、足取りが容易に追えなかったからだ。そこで、Gの死亡を確認した後、なけなしの金で私立探偵に依頼したようだった。結局、例のネットニュースはその私立探偵のアイデアだったのだ。殆どの人がMに同情的なコメントをする中、Mに批判的なコメントをしたFの投稿は目立ったのだ。そこから、居場所を特定するまでにはさほど時間がかからなかった。

「Fを刺殺したことも日記に書かれていたよ。ついでに凶器のナイフも部屋から出てきたから、F殺害犯はYで決まりだった。」

Aさんは、ここまで話すと、一息ついた。

「さっき、Yは公的に3人を裁くことができないと悟り、それで自分で鉄槌を下すことにしたーと言っただろう。俺も当時、そう報告書に記載した。でも、本当は、そこに書かなかったことがあるんだよ・・・」

Aさんは証拠品の日記をめくる。Mの死から、学校の説明、教育委員会の調査の履歴、自分で聞き取った内容、教育委員会の調査結果に対する憤り、失意と絶望。

「日記をめくって、Mの死から3ヶ月後。そのページには、中央にこう書かれていた。

 『お父さん、あいつらを殺して』

 その筆跡は、どうみてもYさんのものじゃなかったんだ。」

念の為、筆跡鑑定に回したところ、その筆跡はMのものと一致した。日記はその記述の前も後もびっしり書かれている。

Mが死んだ後に書いたとでも言うのだろうか?

Yはこの記述の後から、離婚をして、R、G、Fの殺害を計画している。

「そんなバカバカしいこと報告書に書けないだろう。死んだ人間が、殺人を教唆したなんて。」

だから、俺は呪殺班なんて言われるんだよなーとAさんは笑って言った。

Concrete
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@天津堂 さま
いつも読んで頂いてありがとうございます。
映像化希望という言葉は励みになります!

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