迷惑者───召喚者シリーズ

中編5
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迷惑者───召喚者シリーズ

「着きましたよ」

運転席の男が、助手席に座る男に知らせる。

「分(わ)っーてるよ」

面倒臭そうに、助手席の男が返す。

彼等を乗せて来た軽自動車が、真っ暗闇に包まれた学舎(まなびや)の駐車場に停まっている。

「あら、いらして頂けたんですね。フフっ」

運転席の男に渋い顔をしていた者───灘江民斗が振り向いて、「おっ」と言う感じで姿勢を正す。

「御依頼通りの時間かなと思われます」

面倒臭そうな先程の態度とは打って変わって、ピシリと声を張る灘江の目の前には、紺色のスーツに身を包んだ、ショートカットで涼しい目元の女が佇んでいる。

「………どうすんでしたっけ」

灘江と正反対の態度を取るのは、運転手───園部元蔵である。

「おいっ!!依頼者に対して何て言い種(ぐさ)だ!社長にも注意されたろ!」

灘江は園部に喰って掛かる。

(………)

灘江に対しては優しい笑みを浮かべていた紺色のスーツの女だが、スっと真顔になって眉間に皺(シワ)を寄せる表情を園部に見せた。

「今話しますから、がっつかないで下さいましな」

何か、園部に自分に取って嫌なものが付いている様な表情の、節根冴美(せつね・さえみ)。夜な夜な学校から変な音や声が聞こえるとの話を、彼等の雇われる探偵事務所に依頼したのが彼女である。

連れ立って、校舎へと近付いて行く。

許可を取って校舎に入る為の合鍵を貰っていた為、灘江が鍵穴に差し込もうとする。

「リーン!ゴーン!ガーン!ゴローン!」

けたたましい鐘の音が響く。

「ひっ!!」

一瞬ギクリとする灘江、口元に密かに笑みを浮かべる節根………が、園部が、

「………っせェな、授業中でもないのにほざくな!」

といつの間にやら入っていて叫んでいる。

ガシャン!ギゴゴゴン………バン!

金属が勢い良く落ちて、思い切り歪む様な音がしたかと思うと、スピーカーの電源が破裂音と共に落ちる。

「………おい、園部さんよ。ちゃっかり鍵奪うな」

「あっ、済みません………何だか腹立っちゃって」

苦い顔をする節根、革靴とスニーカー、パンプスの音がリノリウムの床に響き渡る。

階段が有る。

「いち、にー、さーん、よーん、ごー………」

ボウっと薄明かりの蛍光灯が照らしているが、上の方が薄暗く良く分からないながらも、数を数える子どもの声が聞こえる。

「ははあ………あれですね、十三階段か何かだ」

ニヤリと節根に語り掛ける灘江、ニコリと妖艶な流し目と笑みで頷く節根。

が、

「13(じゅうさん)!」

園部が野太い声で言った瞬間、

ガシャーン!

薄暗く良く見えない一番上から、崩れる様な音………正確に言えば、足元に在った支えが一気に無くなる………絞首刑の際の足場が無くなる様な音が響く。

「あっ、うっ………ああ、いや………だ………怖………い」

「怖がらせると怖い目に遭うんだよお」

園部が………いや、園部の後ろに気味の悪い笑みを浮かべた薄気味悪い男が居て、その言葉を発した直後に、すぐに居なくなる。

(えっ?!………こんな人知らない!誰なのっ!!)

薄気味悪い男と目が合ってしまった節根、今迄感じた事の無い不愉快さを覚える。

再び園部が灘江に喰って掛かられていた。

「園部っ!!………酷いじゃねェか!」

「え?チャイムの時に怒鳴ったのしか覚えていな」

「あれだろ、数えて降りて来た時に遭遇して腰抜かす前に怖い目に遭わせたんだろ!」

「だから何の話………」

「わーっ♪」

バタバタバタ………と上履きをすのこの上で走らせた際の、独特なパカパカパカと言う音と共に、今度は集団の騒々しい声が渡り廊下から響いて来る。

「はて面倒な」

園部が近付いて行くと、元気の良過ぎるはしゃぎ声から一変して、

「ぎゃあーっ!!御免なさーいっ!!来ないでェェェ」

と怯えた声が響き、節根が渡り廊下の引き戸をガラリと開ける。

「ヒっ!!どうしてあんな………」

不機嫌な表情で顔を真っ赤にした憤怒の表情の落武者と、何故か旧日本軍の格好をした兵士が、顔の無い子ども達を睨み付けていて、怯えた声を出しながら子ども達は、シュワシュワとドライアイスの煙を噴出させるが如く消失する。

「さあ、音楽室にでも行きますかね」

睨み付ける園部の前で、うずくまる節根。

「大丈夫ですか節根さんっ!!節根さん!」

慌てて駆け寄り、節根を介抱しようとする灘江………だが。

「運転手さん………とんだ狸振りね………悔しいわ………依頼料は振り込んだけど………ああ………怪談を破壊する奴なんて初めてだし不快よ………忌々しい………」

「ああー………」

ポケーと口を開いたままの園部。

自身の着ているスーツのボタン辺りをグっと掴みながら、 苦悶の表情の節根が………消えると言うより溶けている様な形で消えつつある。

「見たいのに見られないって奴の願い位、叶えたらどうなんだろ。化かして泣かせるより、そっちの前向きな願いを叶えれば良いのにね」

丁寧な言葉遣いから一転した園部、何処か嘲笑う様な感情を織り込んだ様な、小馬鹿にした様な捨て台詞を投げ掛ける。───まるで、節根が異形の存在であったと見透かしていた様に。そして、化かす相手を間違えて来たのだと、説教をする様に。

「それだと、怪談にならんだろうがァァァァァァ!お前の願いなんて………一生叶わせてなるものかァァァァァァ!」

悔し涙を滲ませる様な顔で溶けて行く節根、スーツも消えてしまい、狐を思わせる白い塊が力尽きてそれも光の粒になって消えてしまう。

「殴りたきゃ殴って良いですよ、灘江さん」

「良い女だったのに、手前ェっ!!………あー………っ!!」

化かそうとしていた側が、それを上回る茶化しと屁理屈同然の言葉の前に崩れ去ると言うおかしな顛末を見せられ、確かに依頼者にまんざらでも無い感情を抱いていた自分に気付かされる灘江………

園部が腕時計を見ると、外が薄曇りで夜明け前の空であるのも手伝って、4:00過ぎである事が確認出来る。

「社長にどう報告すんだよ」

「私の所為にでもして下さい」

むくれた表情で、再び通用口の外側に立つ灘江と眠そうな顔付きの園部、ガチャリと再び園部が鍵穴に鍵を通して、扉は再び職員の出勤する時迄の僅かな封印に掛けられた。

学舎に妙に優しく穏やかな空気が漂い、何処も異常が無かったかの様に、柔らかな朝日が差し込み始める。

Concrete
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天津堂さん、御指摘有難う御座います。
過去に漫画家を目指していたのも有って、脚本のト書きにも似た様な書き方や、単なる状況説明にしかなっていない文体だったなと読み返しながら考えておりました。

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