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中編3
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廃屋の悪魔

私が子どものころ、近所に一つ廃屋がありました。

その家には昔、お金持ちのお爺さんが住んでいらっしゃったそうです。

ところが、お爺さんが引っ越しをされてからは、その家は買い取り手もなく廃屋となってしまいました。

もともと古い家でしたから、朽ちるのも早く、窓ガラスにはひびが入り、壁には染みが広がっていました。

私たち近所の子どもは、その廃屋の染みを恐れていました。

染みは茶色く薄く広がっていたのですが、金曜日の夕方だけは、染みが黒く濃くなるという噂が子どもたちの間で流れていました。

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私の親友のKちゃんは、その染みのことを悪魔と呼んでいました。確かに、広がった染みの形は角の生えた悪魔のように見えました。

そのころ、Kちゃんはオカルトにはまっていたこともあり、近所の子どもたちの不気味な噂に興味津々でした。

「ねぇ 夕方に悪魔を見に行こうよ」

Kちゃんが楽しそうに言いました。

小学校が終わり、私はKちゃんと近所の公園で遊んでいました。

Kちゃんの提案を私は渋りました。

その日は金曜日だったのです。

私はしつこく渋っていましたが、Kちゃんだけを行かせるのも可哀想な気がして、結局、廃屋に向かいました。

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廃屋に着くと、壁の染みが見えました。恐怖心から、染みがいつもより濃く感じられました。

私とKちゃんは庭にあったむき出しのコンクリートの塊に腰をかけ、しばらくお喋りをしていました。

最初のうちは早く帰りたいと思っていたのですが、Kちゃんとのお喋りに夢中になり、気がつくと空が橙色になるまで居すわっていました。

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「Kちゃん、そろそろ帰ろっか」

私はKちゃんにそう促しました。

「うん!」

Kちゃんは元気よく答えましたが、ふと、視線をそらすと急に絶叫しました。

「Kちゃん どうしたの?」

Kちゃんは答えてくれませんでした。

Kちゃんの細い足ががくがくと震えていました。

私は立ち上がり、Kちゃんの視線の先に目をやりました。私が座りこんでいた位置からは、見えなかったのですが、壁の染みが赤黒くなっていました。

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私も思わず悲鳴をあげそうになったのですが、急いでKちゃんの方を向いていいました。

「Kちゃん!大丈夫!暗くなってきたからそう見えるだけだよ!早く帰ろう!」

私はKちゃんの腕をつかみました。

ところが、Kちゃんは放心していて、立ち上がってくれません。

「…やなだ、さたらな」

Kちゃんはそうつぶやきました。

「えっ…Kちゃん何言ってるの?」

「なかやら、なたま…ヴヴああ」

Kちゃんの言葉がだんだん意味のわからないものなり、嗚咽まじりになりました。声はいつものKちゃんの声ではありませんでした。混乱する私の横でKちゃんは、ずっと訳のわからない嗚咽を漏らしています。

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Kちゃん…!どうしよう。

私は泣きそうになりました。

そのとき、急にKちゃんが立ち上がり、地団駄を踏み始めました。Kちゃんの顔は鬱血していて赤黒く、壁の染みと似た色になっていました。白目を剥いて、地団駄を踏むKちゃんの姿を見て、私は思わず逃げ出してしまいました。

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私は一目散に家に帰り、玄関の扉をあけると倒れこみました。奥から驚いた母が出てきて、話を聞いてくれました。

私は倒れこんだまま、涙がとまりませんでした。

「Kちゃんが…!Kちゃんが…おかしくなっちゃって…!」

母は私の話が理解できないようでした。

「Kちゃん?Kちゃんなら、さっきお母さんと、ここにいらっしゃったわよ」

「えっ…!」

「旅行のお土産、あなたに渡し忘れたからって、わざわざ持ってきてくださったの」

母の言葉を聞いて、私は混乱しました。

背筋が寒くなったのと、急いで帰ってきた暑さで体がおかしくなりました。

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そのまま、私は意識を失い、2日ほど寝込んでしまいました。少し体調が回復して、おそるおそる学校にいくと、Kちゃんが心配そうな顔で話しかけてくれました。

Kちゃんにおかしな様子はありません。

私は、それから廃屋の前を通るのが怖くなりました。

1年後、廃屋は取り壊されて空き地となりました。それでも、私はいつも、あの赤黒い染みを思いだして身震いがします。

Concrete
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