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中編5
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BGMはオリーブの首飾り

     

     

    

ここは海に囲まれた小さな小さな田舎町である。

  

  

そんな田舎町での怪異にまつわる、そんなお話。

  

  

  

ℍ中学校でのお話。 

  

  

クラブ活動も終わり下校時間になると、放送部の子たちが

カウントダウンの意味を込めて「オリーブの首飾り」

という曲を校内に流す。下校の音楽と呼んでいた。

表門の鍵が閉まってしまう30分前からだ。

  

  

「生徒の皆さん、下校の時間が近づいてきました。速やかに片づけをして

下校してください。只今下校時間30分前です。」

  

相当な大音量で流す為、スピーカーがブゥンブゥン唸っている。

校舎も校庭も中庭も、教室内の机たちまでもが

音の振動でプルップル震えるのではないか?と思える程だ。

友人との会話もそれに乗じて大声になる。

そのくらい大音量で流され、校内から出遅れた生徒は表門に鍵を掛けられ

閉じ込められてしまう、そしてこっぴどく怒られるという惨事に遭う。

何故か、17時までに校内から出ないとひどく叱られる。

  

  

ある日、私は残念なことに教室に忘れ物をしてしまった。

友人に付いてきてもらい

教室まで走って向かう事となった。

先生に報告をして教室に向かったのだが

「早くしろ!」と一括されただけだったので

時間に猶予はもらえないらしい、と悟った。

何故なら校内は広く、目的の教室までは中庭を二つ超えて、さらに渡り廊下を二つ

超えて行かなければならず、それを往復して校庭を突き抜けて表門まで行かねばならない。

下校時間まであと10分少々だというのに間に合う気がしない。

しかし、このミッションをコンプリートせねばならず髪の毛を振り乱して走った。

  

  

「只今、下校時間10分前です。」

スピーカーから流れる声に急かされる。

  

友人も一緒に走りながら少しイライラされているようだ。

いやぁ申し訳ない。

夏だったので汗びっしょりになりながら滑り込むように教室へ入る。

体を斜めにして走る足を決して止めることなく小走りに変えつつ

自分の机から目的の忘れ物をゲットし、

その流れのまま機微よく

風の抵抗が邪魔しないように更に体を傾斜しながらクルリと華麗に翻り

教室の出入口までスライドで走る。

計算しつくされている!完璧だ!

友人は教室を出た所で足踏みをしながら待っている。

早く、早く行かなければ。

  

  

そこで体を斜めにし過ぎていたからだろうか、私は教室の出入り口で

盛大に横滑りでスコーンと転んでしまった。

ご丁寧に学生鞄の中身も盛大にその場で店出しとなる惨事。

  

「う。。。。。。イタッ。。。」

咄嗟に友人からの優しい慰めの言葉を期待したが見事に裏切られる。

  

「なにしてるの!?鈍くさいんだからぁ やばいよ!門がしめられるから

先に行くよ!」

友人、さっさっと走り去る。

  

  

寂しい。。。 

まぁ仕方ない。。。足も痛いわ。

急いで鞄に荷物を詰め込み立ち上がろうとした時、ふと廊下の一番向こう端に

誰かいたような気がした。

  

  

まだ誰かいるのかな。

 

 

私は教室の出入り口に留まったまま

鞄を閉めながら廊下を見渡す。

私の教室はA組でいわゆる角部屋に位置しており、出入り口は一つだけだ。

A組の教室の入り口からはまっすぐに廊下が伸びている。

その廊下沿いの右側に他のクラスの教室が縦に3つ位置し

一番手前から、B、C、D組となる。

誰かいたような気がしたのは一番奥のD組の辺り。

  

  

キーコーキーコー、キーキーキーッ

  

  

私「?」

  

  

金属が擦れ合うような音が耳の奥に響いた。

大音量のオリーブの首飾りが一瞬聞こえなくなる。

キーンと頭痛がする。

ふいに、廊下を見ている視界がぼやけて、

  

  

それはいた。

  

  

廊下の一番端にハイソックスの足が立っていた。

白い綿生地に紺色のラインが入ったハイソックスの足だけが私から見て横向きに立っている。

膝小僧から下だけだった。

体中に電気が走ったようなショックを受けて友人を呼ぼうとするが声が出ない。

最悪な事に体が硬直して動かない。

  

  

  

  

やがてそれはゆっくりこちらに向きを変えた。

  

  

やばい、こっちに来る。

これはやばいやつだ。

  

  

  

冷や汗でびっしょりの硬直した体に渾身の力を込めて、ふぅぅーっと息を吸い込み

「とぉーぉりゃゃああああああああああーーーー!!!」

と叫び、気合で飛び起きて隼の如くの速さで飛んで校庭の表門まで一気に走った。

 

  

  

  

 

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表門には先生と友人が待っていた。

「何してるんよ!遅いよ」 友人が言う。

時計を見ると17時2分を過ぎたあたりだ。

  

「お前、汗びっしょりだな。大丈夫か?まあいい早く帰れ」先生が言う。

  

  

はいはい、帰りますよ。

先生さよなら、ごきげんよう。

  

表門を出て歩き出してから先生の方を ふと振り返る。

「先生、今日宿直ですか?」

「あぁ、そうだよ」

心なしか、先生の目が微妙に引き攣っている。

17時までに下校しなければならない理由を知っているのかもしれないと思った。

   

先生の肩越しに宿直室が見える。

その窓に、正確にはその窓枠の内側にハイソックスの足が立っているのが

ぼんやりと見えた。

窓枠って幅が狭いのに立てるんだ。。。つま先で立ってんのかな。

まぁ、、、人間じゃないしね。。。

  

  

先生、頑張ってね。

  

  

  

  

  

心の中で呟いて

家路へと急ぐ夏休み前のある日の放課後なのであった。

  

  

  

  

  

  

  

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