ある男がいた。
いわゆるニートだ。
例に漏れず、彼も一日中自室にこもり、ネット三昧の日々を送っていた。
彼にはハマっているサイトがあった。
それは簡単に言えば、怖い話の投稿サイトだ。
今でこそニート生活を送っている彼だが、もともとはかなりの高学歴の持ち主だった。
なので、文章を操る能力は高く、知識も豊富だったので、彼が投稿する創作ホラーは人気が高かった。
このサイトは読者の投票によるランキングシステムが充実していて、彼がこのサイトを気に入っている最大の理由はそれだった。
彼が投稿するたびにランクもポイントもグングン上昇。
サイト内では彼を讚美するコメントが舞い踊った。
就職につまづき、社会からの疎外感にさいなまれ、引きこもり生活を送るようになった彼にとっては、このサイトで評価されることがなによりの幸せだった。
だが、実社会での経験が乏しい彼が、常に高いレベルのホラーを創作するには限界があり、いつしか壁にぶちあたっていた。
彼には「信者」と呼ばれるファンも多くいたが、ファンの存在自体も彼にとっては苦痛だった。
ネタ不足の彼にとって「次も期待してます」というコメントが最大の重荷だったからだ。
しかし、それでも彼はその重圧に耐え、絞り出すように創作を続けた。
時に心ない中傷コメントにどんなに心を痛めつけられても、ひたすらに投稿を続けた。
来る日も、来る日も・・・。
社会と隔絶した彼にとってはもう、このサイトこそが唯一の心のよりどころだったからだ。
ただ、読者はやはり正直だった。
彼をしのぐ新進気鋭の投稿者が次々に現れ、ファンもそちらに流れていった。
そもそも、無理矢理文章を絞り出すような作品には読者を引き込む力がなかったのだ。
そこで彼は気付いた。自分の作品に足りないもの。
それは、臨場感やリアリティであることに。
ある日のこと、母子家庭の彼にとって唯一の家族である母親を呼びつけ、ニートにありがちな高圧的な態度で「最近起こった事件や事故で、怖いと思ったものはあるか?」と聞いた。
しかし、突然そんなことを聞かれた母親がすぐに思い当たるわけもなく、イライラが募っていた彼は、いつまでもいい返答をしない母親を蹴り飛ばした。
その数日後、彼の部屋に来た母親は「最近起こった残忍な事件があるの」といって話をしてきた。
それは彼の住む町で起きたものだった。
事件とは、屋外で飼われている犬が毎日のように殺されているのが見つかっているというものだった。
犬たちはエサで釣られ、油断したところを襲われたらしく、飼い主が気付いたときには無惨な姿に変わり果てていたという。
暴れたり鳴き声をあげたりしないように、首を一気に紐で締め上げたあと、まだ息がある状態で舌を抜き、足の付け根の腱を4ヶ所とも切断。
簡易的に、いわゆる「達磨」状態にして、無抵抗で生きたままの犬に拷問を加えていった痕跡があるという。
目をくりぬかれたり、皮を剥ぎ取られたり、耳に釘を刺されたりと、その殺し方は実に残虐でむごたらしいものであった。
犯人はいまだに捕まっていない。
その話に興味をもった彼は、母親から詳しく話を聞くと、すぐさまそれをネタに創作ホラーを書き上げ、投稿した。
すると、読者の反応は凄いものだった。
リアリティに満ちた内容は、読者を惹き付け、あの頃のような、彼を讚美するコメントが次々に寄せられてきたのだ。
それからというもの、彼はネタに詰まると、母親を呼びつけ、興味深い事件や事故の話を聞いて、創作を続けた。
母親の話はいつもリアリティに満ちていた。
ニュースやネットで調べてもわからないような詳細に至るまで事細かく、現実味を帯びていた。
まるで、その目で見てきたかのように・・・。
母親のおかげで、彼は再びサイト内で優秀な投稿者として返り咲いたのだった。
ただ、それでも母親を意味もなく見下していたのは変わらず、ネタが弱く、彼がイマイチと感じたときには、急に不機嫌になり、いつものように蹴り飛ばしていたが・・・。
ある日、いつものように母親を蹴り飛ばしたとき、ゴッと鈍い音がして、そのまま動かなくなってしまった。
しかし、すでにサイコパスに覚醒していた彼は、これを好機と捕らえ、遺体をそのまま放置し続けたのだった。
彼は気づかなかったが、母親の服の下には、無数の噛み傷や引っ掻き傷があり、
そこから、腐敗やウジ虫の増殖が始まりだした。
日に日に腐り、異臭を放つようになってきた母親の遺体。
異臭が強くなり、全身の皮膚や肉が崩れていくにつれ、彼の心の中では、期待はどんどん膨らんでいった。
それまで想像や又聞きでしか創作してこなかった彼にとって、これほどリアルな題材はなかったからだ。
彼は遺体が時間と共に腐敗していく様子を詳細に書き綴ったメモをもとに、三日三晩かけて会心の創作ホラーを書き上げ、投稿した。
物凄い反響を期待していた彼であったが、読者の反応は意外なものだった。
上位にランクインするどころか、1ポイントすら獲得できずに1週間が過ぎた。
あまりにむごすぎる描写の多い彼の投稿は、いつしか読者に毛嫌されるようになっていたのだ。
そしてとうとう1ヶ月が経過したが、彼のこの投稿には1ポイントも入れられることはなかった。
このサイトこそが心の拠り所だった彼は猛烈な疎外感によって絶望の淵に追い込まれ、ほぼ白骨化した母親の亡骸のそばで首を吊って死んだのだった。
彼は知らなかったのだ。
どんな投稿も必ず最大限の評価をくれて、ありとあらゆる手段でポイントを引き上げてくれていた最大のファンが、自分の母親だったことを・・・。
完
作者とっつ
ホラテラ時代に書いたものを加筆修正しました。
なので、サイトのモデルはホラテラです。
怖話は投稿者も読者もモラルが高いので、ずっとなくならないでほしいです。
ネット環境があまり良くなくて、投稿のペースは落ちていましたが、それもが最近改善したので、もうちょっとサクサク投稿していけたらいいと思ってます。100投稿1000ポチが目標です。