『呪いの舘』。
街から少し離れた小高い丘の上にある、空き家になった古びた洋館のことだ。
そこには昔からひとつの噂があった。
まだ人が住んでいたその昔、中学生になる娘が原因不明の病に冒され、若くして命を落としたという。
その後、娘の死をきっかけにしたかのように家族は離散。
いつのまにか洋館は空き家となり、長い年月の末、いわくつきの廃墟として知られるようになった。
今、この街でささやかれている噂というのはここからだ。
有名な心霊スポットとなった洋館に忍び込んだ若者たちの体験談として、死んだ娘が大切にしていたウォークマンが形見としてその舘に飾られていて、廃墟と化した今でも、夜な夜な音楽をならしているというものだ。
ある日のこと、マッチョ、メガネ、そしてこの僕チビの仲間3人は、成り行きというか、若者特有のノリで、なぜかその噂の真相を確かめに行くことに・・・。
門と言った方がいいような立派な玄関の横に、壊れた出窓があり、難なく入ることができた。
まだ陽の高い時間帯だったので、特に恐怖感もなく、舘の隅々まで調べ歩いた。
いくつかの小部屋を回りつつ奥の方へ進んでいくと、陽当たりの良いベランダに囲まれた大きなリビングに出た。
奥には立派な暖炉があった。
すると突然、僕たちの耳に何やら音楽が聞こえてきた。
音のする方へ目を遣ると、暖炉の上の壁にウォークマンが掛けられている。
それが音を発しているようだった。
おそらく最大音量なのだろう。
ウォークマンのイヤホンから音の割れたサウンドが、数メートル離れたこちらにまで漏れ聞こえていた。
僕たちは唖然とした。
にわかには信じることができなかった。
目の前にある現実は、紛れもなく噂の通りだった。
そして、まさかの出来事が起きた。
イヤホンから漏れ聞こえているだけだった音が徐々に大きくなり、いつしか部屋全体に響き渡っていたのだ。
あまりのことに微動だにできず、声すら出せず立ちすくむ僕たち。
心の中は完全にパニックに陥っていた。
耳をつんざく不快音はますます大きくなっていく。
それに比例して、僕たちの鼓動はリミッターが外れたように、信じられないスピードで脈打っていた。
次の瞬間、再び理解しがたい事態が起きた。
気配を感じ目を向けると、ベランダの外に人間がいたのだ。
しかも二人だ。
こちらを見ている。
二人は女の子だった。
お揃いの真っ赤な洋服に、瓜二つの容姿をしていて、双子のようだった。
異様な雰囲気をたたえる二人の姿に、僕たちはさらなるパニックに陥った。
人間であるとは到底思えなかったからだ。
睨んでいるようにも、笑っているようにも、無表情であるようにも見える二人の顔は、爬虫類を連想させた。
だが、その直後、それが笑顔だったことに気づく。
二人は表情を変えぬまま、突然笑いだしたのだ。
薄い唇を頬の端まで伸ばし、ヒャヒャヒャヒャと奇声を発しながら、壁を這う爬虫類のように両手両足を曲げて、飛び上がり出したからだ。
ジャンプの高さは裕に2メートルを越えていた。
楽しそうに、はしゃいでいるようだった。
あまりの恐怖にハンベソかきながら、とにかく逃げ出そうとする僕たち。
しかし、逃げるには二人がいるベランダの方へ近づかなければならない。
仲間の一人、マッチョが意を決してダッシュした。
が、二人は大ジャンプで出口に近づくと、それまで横一文字だった口を大きく開け、威嚇をしてきたのだ。
ベランダのガラス一枚を挟んでいたとは言え、あまりの迫力によって、マッチョはショックで気絶をしてしまった。
『もう逃げ場はない』
残されたメガネと僕は、恐怖と絶望に満たされた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・。
今にもはち切れそうな鼓動が全身を包んでいた。
僕の意識は気絶寸前だった。
その瞬間だった。
突然、見慣れた部屋の風景が目に飛び込んできた。
『え?夢?』
興奮はいまだに収まらない。
ハァハァハァハァハァ・・・。
高鳴る鼓動は夢の中のまま、今も続いている。
ドックンドックンドックンドックン!!
5分くらいだろうか。
ベッドの上でしばらく座り込み、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。
気付けば朝の5時。
一日のスタートなのに、たかが夢のひとつですでに疲労困憊だ。
ボリュームのある悪夢を見たことで、一日損したような得したような複雑な気分と、夢だったことへの安心感が、同時に押し寄せてきて、部屋で独り小さく笑った。
外はもう明るかったが、まだ時間があったので、もう30分だけ二度寝することにした。
布団をかぶろうとしたその時、窓の外からヒャヒャヒャヒャとあの笑い声が聞こえたような気がしたが、僕の頭の中では「ただの悪い夢」としてすでに処理済みなので、不気味な笑い声は聞こえなかったことにして、布団にもぐりこんだ。
完
作者とっつ
中学生投稿者が頑張っているのを見て、便乗させていただきました。
過去に書いた夢の話を投稿させていただきました。
他人の夢の話って、見た本人にとっては臨場感ある怖いものであっても、他人にとっては支離滅裂であって、その臨場感を伝えるのも受けとるのも、なかなか難しいものですよね。
僕のこの話も、自己評価は低く、なにかキッカケでもなければ、投稿する気が沸いてこなかったと思います。
夢の部分は本当に見たものです。
オチは付け加えました。
でも、大人になると、子どもの頃より怖い夢を見なくなった気がします。
中学生のお二人、応援してます。
うちの子たちは、お二人のようにこんなに立派な文章は書けません(((^_^;)