とある古ぼけたアパート。
そこに住むチンピラ風の男性が、あることを理由に、大家に対して家賃の引き下げを要求していた。
そのあることとは、男性の部屋が『いわくつきの部屋』であるということだった。
男性のいう通り、確かにその部屋にはいわくがあった。
30年もの昔、その部屋で、虐待によって幼い子どもが母親に殺されるという事件があったのは事実だった。
返答に困った大家は『検討してみますので、明日まで待って下さい』と、その日はやり過ごした。
次の日、大家は疲れきった身体を引き摺りながらも男性の部屋へ出向き『やはり家賃の引き下げはできません』と伝えた。
『なんだとオラ!どういうことだよ!』
チンピラ風の男性は、大家に食ってかかった。
しかし、大家は怯まなかった。
なぜなら、このアパートに入居するほぼ全ての世帯が家賃の滞納や未納をしていたため、このアパートの家賃収入だけを頼りに生活していた大家は、この数年間、ギリギリの生活を強いられていて、これ以上の収入減には耐えられなくなっていたからだ。
『確かにあなたの部屋で昔、虐待事件があったのは事実です。ですが、他の部屋だって殺人事件が起きています。しかし、みなさんはそのことで何一つ文句を言ってきていません。何一つ……』
数日後、このアパートは日本一有名な事故物件として知られることとなる。
完
作者とっつ
今夜はなかなか寝付けないので、暇潰しに連投してみました。
ネタバラシをすると…
住民の家賃滞納で苦しい生活をしていた大家が、全世帯の住民を皆殺しにしたあと、最後にチンピラ風男性の元を訪れた
…ということです。
他の部屋の住民たちは、自分が死体になってしまっては、何一つ文句を言えませんからね。
もちろんチンピラ男性も殺されました。
全部屋いわくつきのアパートなんて、間違いなく日本一有名な事故物件となることでしょう。
ちなみに、「いわくのない部屋」と対になる作品として書いたものです。
よろしければ、そちらもご覧ください。