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短編2
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月の河童

とある棚田の美しい集落で聞いた話。

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そこは山の斜面に張り付いてあるような小さな集落で、傾斜に沿って大小形様々な棚田が広がる美しい場所だった。

その棚田には、一匹の河童が住んでいるという。

河童とはいうものの、頭に皿を乗せ背中には甲羅を背負いキュウリを好む、昔話によく登場する緑色の生き物とはまた違うらしい。

その河童は、おかっぱ頭の子供の影なのだという。影なので、顔はもちろん男か女かさえもわからない。ただ、大きさや仕草から子供だろうと推測されており、集落の住民の中にはストレートに「田童(たわらし)」と呼ぶ者もいるという。

ではなぜ河童と呼ばれているかというと、泳ぎがとても達者だからだそうだ。

浅いはずの田んぼで、まるで池ででも泳ぐように自在に泳ぐ。またどういった理屈かはわからないが、田んぼから田んぼへ土中を潜って自由に行き来できたらしい。その河童にとっては、田んぼの畦などプールのコースロープに等しいものなのかもしれない。

河童はいつも月の出とともに現れ、夜中を田んぼで遊び、月の入りとともに消えてしまうという。現れるのは田んぼに水を張っている期間だけだが、時には水を抜く直前の実った稲穂を撫でていることもあるのだとか。

数多くある棚田のどれか一つを住処としているらしいが、どこに住むかはその年の気分次第のようだ。ただ、河童が住み着いた田んぼは毎年必ず豊作になるため、集落の人々は自分の田んぼに来てもらえるよう、田おこしの前にはこぞって供え物をするのだという。

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「お供え物はなにを? やっぱりキュウリですか?」

私がそう尋ねると、話を聞かせてくれた男性はイヤイヤと笑った。

「実はキュウリは人気がなくてね。甘いお菓子が好きなようだよ。やっぱり、河童というより田童だな。今年はどうやらうちの田んぼに来てくださったみたいでな。娘に頼んで、いいところのチョコレートを買って来てもらった甲斐があった」

彼がチラリと目をやった仏壇には、某高級菓子店の紙袋があった。

私は、来客用に出された茶菓子と一瞬見比べてしまい、内心苦笑したのだった。

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