短編2
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幽霊に叱られる

とある友人に聞いた話。

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彼は大学入学を機に念願の一人暮らしを始めたのだが、張り切っていたのは最初の数ヶ月だけで、すぐに自堕落な生活を送るようになった。

昼過ぎに起きて夕方までダラダラと過ごし、それからアルバイトに出かける。深夜まで働き、その後バイト仲間と少し遊んでから、明け方に帰宅し就寝。そしてまた昼過ぎに起きる━━。学生の本分であるはずの勉学が、入る余地のない生活だったという。

当然、一回生にして留年が決定した。

実家にもすでに留年通知が届いている頃だ。さてなんと言い訳しようか。いっそのこと退学し、働いてもいいかもしれない。

親不幸にもそんなことを考えながら、いつものように明け方に帰宅したある日のことだ。

いつもなら素通りなはずのアパートの集合ポストに、ふと目が止まった。自分の部屋番号のポストから、なにやら白い紙がはみ出ている。抜き出してみると、それは一通の封書だった。

差出人の名前はなかったが、友人はその筆跡に見覚えがあった。その達筆な筆文字は、彼の亡くなった祖父のものによく似ていたのだ。

まさか、じいちゃんからじゃないよな。

冗談交じりにそう思いながら、部屋に帰って封を開けてみた。丁寧に三つ折りされた便箋を開くと、

「お前は、なんばしよっとかぁ!!!」

聞き覚えのある怒声が響き渡り、友人は腰を抜かした。

それは確かに、亡くなったはずの祖父の声、叱り方だった。

怒声は一度きりで、その後はなにも起こらなかった。恐る恐る便箋を見ると、なにも書かれていなかったという。

彼はその後、両親に頭を下げて学業を続けさせてもらった。心を入れ替えて励み、学部を首席で卒業したそうだ。

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「今でも、気が緩みそうになるとあの手紙を開くんだ。祖父はちゃんと叱ってくれるよ。ただ最近、力が弱くなったのかなぁ。勢いも声も小さくなってね。開くと音が鳴るクリスマスカード、あるだろ? あれが古くなった感じで、笑えるよ」

笑える、と言いながら、友人はどこか寂しそうだった。

私は、大人になっても叱ってくれる存在があることを、少し羨ましく思ったのだった。

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いいお話ですね。ある意味祖父母の愛は、親よりも深いですからね。

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