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短編2
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霧のほたる

とある盆地の町で聞いた話。

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周囲を山に囲まれたその町は、朝霧で有名だった。

気温が下がると、放射冷却によって冷やされた空気が霧となる。盆地では山から流れ込む冷気が霧を濃くし、さらに空気の循環が少ないため、霧は朝日が完全に昇るまで長く居座ることになる。

周囲の山から見下ろせば、町が霧にすっぽりと覆われた幻想的な景色を見ることができた。そんなとき、町は白いベールに隠されているようでもあり、乳白色の湖に沈んでいるようでもある。

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この町の中心には、一本の川が流れていた。夏には蛍の乱舞が見られる清流だった。

この川には、まことしやかに囁かれる不思議な噂があった。

川の周辺では、川霧も手伝ってより濃い霧が漂う。その霧の中に、いるはずのないほたるがスゥッと飛ぶ姿が見えることがあるという。朝霧が発生するのは気温が下がってからなので、蛍の成虫が飛び交う季節とは異なっている。

なので霧の中で見つけるほたるは、いわゆる蛍ではない。

そんなほたると追いかけていくと、もう亡くなってしまった会いたい人に、会えることがあるのだという。

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ある人はほたるを追いかけた先に、背をむけて立つ父親の姿を見た。

ある人は、背後に友人の咳払いを聞いた。

またある人は、隣に立ってそっと手を握ってくれる妻の温かさを感じたという。

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「でもね、誰もがはっきりと会えたわけではないんですよ。

実は私もね、霧の中に蛍のような光を見たことはありますよ。でも、話に聞くように死んだ人に会えるなんてことはなかった。蛍に見えたのも、きっと朝日の反射かなにかでしょう。正直、噂というより迷信ですよ、迷信」

私にそう語ってくれた男性を、次の日の朝霧深い川原で見かけた。人待ち顔でウロウロと、乳白色の世界を歩き回っていた。

人は誰でも、なくしたものを求めずにはいられないのだろう。

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