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中編3
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幻のラーメン屋

とある知人に聞いた話。

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彼女は中学校に上がるまでとあるアパートに住んでいたのだが、そこには冬になると時折ラーメン屋台がやってきたそうだ。

さすがに人力ではなくトラックだったが、夕方になると誰もが知っているあの「チャララ~ララ、チャララララ~」という音楽を流し、赤提灯とのれんを掛けた、どこか哀愁漂う昔ながらのラーメン屋台だったという。

ラーメン屋台はいつも、アパートの敷地の隅にある小さな公園で客を待っていた。知人は一度でいいからそのラーメンを食べてみたいと常々思っていたが、屋台が来るのは不定期で、おまけにいつも母親が夕食の支度に取り掛かる時間と重なっていたため、「今晩はラーメンにしようよ」とねだっても一蹴されていたそうだ。

結局、知人はラーメンを食べる機会のないままアパートを引っ越してしまった。悔いが残ったためか屋台の細部までよく覚えており、特に、トラックに描かれた「・・・龍だよね?」と誰かに確認したくなるような特徴のある絵は、忘れたくても忘れられないという。

そんな彼女は十数年後、同じ町内出身の男性と結婚した。お互いの実家はすぐ近くだが、幼馴染ではない。二人は、年が十三歳も離れていたのだ。

隣近所のことでも、それだけ年が離れていればかなりのズレがある。知人たち夫婦はそのジェネレーションギャップを、会話のスパイスとして楽しんでいた。

あるとき、年長である夫が子どものころの思い出を語った。

「俺なんかが小・中学生の頃、夕方になるとよくラーメンの屋台が家の近くに来てたんだよ。いつも五時くらいかな。オフクロが仕事で夕食が遅かったから、よくばあちゃんがおやつに買ってくれたんだ。三人兄弟で二人前のラーメンを分けろってな。家のすぐ前の道は狭くて通らなかったから、いつも弟が二階からでかい声出して呼び止めて、俺が鍋を持って買いに行ってた。

なんの工夫もしてないただの棒ラーメンなのに、めちゃくちゃ美味く感じたの、あれ、なんでだろうな。トラックに下手くそな蛇の絵描いてて、おっちゃんは無愛想で、でも美味くて。なんか忘れられないんだよなぁ」

「私も、そのラーメン屋さん知ってる!」

年齢差がある二人にとって、子供の頃の共通の思い出というのは珍しかった。そのため知人は喜んで自分の子供時代の話をしたのだが、夫は「そんなはずないんだけど」と首をかしげた。

「だってあのラーメン屋、俺が高校に入った年に事故してやめたはずだよ。山のほうに営業に行った帰りに、山道のカーブを曲がりきれなくて谷に落ちたんだ。おっちゃんは即死、トラックは廃車」

「えー!?」

しかし、話せば話すほど二人が見たラーメン屋台の特徴は一致しており、違うラーメン屋だったとは思えない。

そこで知人は、彼女の母親に確認の電話を入れた。ラーメンを食べたことこそなかったが、何度もおねだりしたし、母親もあの哀愁漂うチャルメラを聞いているはずだった。

ところが。

「ラーメン屋? そんなの来たことないわよ」

と、またもや一蹴された。

「子供の頃のあのアパートに、時々屋台が来てたでしょ? 何度か私、食べたいって言ったじゃない」

「夜にラーメン食べたいなんてとんでもない、って断わったことなら覚えてるけど? 生協の車と間違えたんじゃないの?」

「生協はチャルメラ鳴らさないでしょ!」

埒が明かないと夫婦揃ってお互いの友人に確認したが、夫側は「あのラーメン屋は事故ってやめた」、知人側は「ラーメン屋台なんて見たことない」とそれぞれ口を揃えた。

結局、なにもわからなかったそうだ。

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「でもね、旦那に言われました。そんな得体の知れないラーメン食べなくて正解だよ、って。確かにそうなんですけど・・・」

「けど?」

知人はプクッと左頬だけ膨らませ、鼻息荒く言った。

「『俺は本物食べたけどな、美味かったよ』ですって! いい年して、大人気ないと思いません?」

私は愛想笑いを返しながら、内心「ごちそうさま」と呟いた。

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怖いというよりは、不思議な話ですね。
夜泣きラーメン、地元でも子供の頃にはありました。
一昔前には割とどこでもあったのかもしれません。
現代ではコンビニに淘汰されたり、近所迷惑とかもあるんでしょうか、
夜の屋台そのものが珍しくなってますね…ちょっと寂しい

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