短編2
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おこじんさま

とある田舎の集落で聞いた話。

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その集落では、多くの家の裏手に「おこじんさま」を祀る祠があった。

おこじんさまとは「荒神さま」が訛ったものらしい。その名の通り、気性が荒くすぐ祟る神として、その近辺では知られていた。

ないがしろにしたり気に入らないことをすると、すぐ怒る。なので多くの家では仏壇にするのと同じように、毎朝簡単なお供えをしているそうだ。

しかし困るのは、「おこじんさま」がどんなことで怒るのか、人間にはわかりづらいことだった。

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こんな話を聞いた。

隣町から嫁いできたとある新妻は、おこじんさまのことを知らなかったため、姑からお世話の仕方を教わった。毎朝祠の周辺を掃除し、水を一杯お供えする。姑から言われたのはそれだけだった。

しかし新妻は、祠の裏にボウボウと生い茂るススキが気になった。これでは虫や蛇が湧くかもしれないし、なにより神様に対して失礼だろう。

そこで、気を利かせたつもりで祠の裏のススキをすべて刈ってしまった。したことをひけらかすつもりもないため、このことは姑にも黙っていた。

その晩から、新妻は高熱を出し寝込んでしまった。

熱は三日続き、四日目には嘘のようにピタリと治った。安堵と怒りの滲んだ顔の姑が彼女に言った。

「あんた、おこじんさまの裏のススキを刈ったやろ。あそこは昔から、神様の遊び場だったんよ。余計なことをしたから、お怒りに触れてあんな熱が出てしまったんよ」

あんな草むらで、いったいどんな遊びをするというのか。

新妻は理不尽さに呆れたという。

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「その出来事があったせいで、なんでも勝手に物事を進めてはいけないと、肝に命じましたよ。なにをするにも、まず姑にお伺いを立ててね。おかげで、まぁまぁ良好な嫁姑関係を築けたと思いますよ」

元新妻は、ニコニコとそう語ってくれた。

「おこじんさまの祠は、今もあるんですか?」

「はい、ありますよ。でも、掃除をしてお水を供えたら、あとはほったらかしです。近所の人は昔、屋根に生えていた雑草を何の気なしに抜いたら、それが神さまのお気に入りだったとかで、やっぱり祟られたそうです。文字通り、触らぬ神に祟りなし、ってね」

私は苦笑しながら、「理不尽だなぁ」の一言をなんとか飲み込んだ。

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「小さな親切大きなお世話」と言ったところでしょうか?
中々気を利かせるのも難しいですね。

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