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中編3
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間のもう一人

とある友人に聞いた話。

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友人には八歳下の妹がいるのだが、その妹について、彼は子供の頃から不思議な感覚を持っているという。

時折、妹が妹でないときがある、というのだ。

どこがどう違うのか、それを説明することはできないという。ただ、朝起きて「おはよう」と言ったとき、食事中、歩いている後姿、何気なくこちらを向くしぐさ、あくびのあと、眠っている最中でさえ、「今は、違う」と違和感を感じることがあるのだそうだ。

両親にそれを告げても、意味がわからないと相手にされなかった。彼自身意味がわからなかったのだから、仕方のないことだった。

妹が妹でないと感じる時間は、一瞬のこともあれば、長くても三十分程度だった。なので、そのうち友人も気にしなくなった。

妹の違和感について、友人は心当たりがあるという。

実は彼と妹の間には、妹が生まれる五年前に、性別もわからぬうちに流れてしまったもう一人のきょうだいがいたのだ。

妹が生まれるずっと前に、「もうすぐお兄ちゃんになるんだよ」と父親に頭を撫でられた記憶、肩を落として静かに泣く母親の記憶が、おぼろげに残っているという。

一目会うこともできなかったそのきょうだいは、きっと女の子だったのだろう。普段は妹に寄り添い見守ってくれていて、妹が妹でないときは、きっとその子が妹に代わって世の中を見ているのだろう。

友人はそう思うことにした。

年の離れた兄妹は、友人が進学して家を離れたことを機に、会う回数がぐんと減った。友人が会うたびに妹は大人っぽくなり雰囲気も変わり、彼女が成人した頃には、その様子に違和感を感じることもなくなったという。

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「いい話じゃないか」

私は心からそう言った。

しかし、友人はどこか浮かない顔でため息をついた。

「この前、久しぶりに妹と会ったんだよ。今度結婚するんだと言うから、祝いに飲みに連れて行ったんだ。少し照れくさかったけど、案外話が弾んで、酒も進んだんだ」

楽しい話のはずなのに友人の顔はますます暗くなり、私は不安を覚えた。

「子供の頃の思い出話で盛り上がったんだけどな? 妹が、『お兄ちゃん、昔大怪我して頭を縫ったことがあったよね』と言い出したんだ。怪我は何度もしてるけど、頭を縫ったのは七歳のときの一度きりだ。

妹は続けて言った。『玄関でふざけて飛び降りて、段差で頭を打っちゃったんだよね。私近くで見てて、びっくりしたよ』ってな。怪我の原因はその通りだが、妹はそのとき、生まれてないんだよ」

他人から聞いた話を、あたかも自分で体験したかのように思い違いをすることは、小さい子供にはままあることだ。彼の妹も、両親などから聞いた兄の怪我の話が心に残り、そのような勘違いをしたのではないか。

私がそう言うと、「そうだといいけどな」と友人は酒を煽った。

「俺が怪訝そうな顔をしたからだろうな、妹は一瞬だけ、『しまった』というような顔をしたんだ。そのときの顔にな、久しぶりに例の違和感を感じたよ。俺の妹は、こんなだったかな、って・・・」

まぁ、酔っ払いの感覚なんて、当てになんないよな。

友人はそう言って力なく笑った。

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