とある地方都市で聞いた話。
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中心市街地から車で十分ほども行けば、県内でも有名な山に行き着くことができる。
さほど高い山ではないが姿が美しく、また山裾は海ギリギリまでせり出した面白い地形だった。
山の半分をぐるりと取り囲むように道路が走り、そのすぐ隣はもう海だった。中心市街地へと向かうその道路は片側三車線で交通量もかなりのもので、おまけに走っていると両側から山と海が迫ってくるようで、少し緊張感があった。
山裾に沿って、道路はゆるくカーブを描く。そのカーブが一番きわまったところ、つまり山が一番せり出した箇所に、一体の地蔵が置かれていた。
地蔵は小学校高学年ほどの子供の背丈の、大きなものだった。いつでも花が供えられ、小さく微笑んだような優しい顔をしていた。
ここは、昔から土砂崩れが頻繁に起きる場所だった。異様にせり出した山裾は、古くからの土砂崩れで段々伸びていったのだといわれている。山は崩れるたびに、近くの集落や畑を飲み込んだ。
この地蔵は、土砂崩れに被害者を慰めるために建立されたのだそうだ。
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ところがいつの頃からか、この地蔵に不名誉な噂が立つようになった。
地蔵は左手に宝珠を乗せ、右手はこちらに向けた形で地を指している。遠めに見れば、右手でおいでおいでをしているようにも見える。
その手の形から、地蔵が事故を招いているという噂が立ってしまったのだ。
よく見れば手の向きからそうではないことは明白なのだが、子供を中心にこの噂は広がり、今では心霊スポットの一つとして数えられるようになってしまったのだという。
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「まったく、罰当たりな話ですよぅ。肝試しだなんてそれだけでも失礼なのに、こんなゴミまで散らかしていって」
老婆はブツブツ言いながら、地蔵の周辺に散乱したお菓子の袋や空き缶を拾い集めていた。朝の散歩のついでに地蔵に手を合わせるのは昔からのことだが、最近は、特に夏場ともなればこんなふうにゴミが散らかっていることが少なくないのだという。
私はゴミ拾いを手伝いながら、「そうですね」と頷いた。
「お地蔵様ができてから、土砂崩れは起きていないんですよね? 霊験あらたかなお地蔵様だ」
「まぁ、土砂崩れはなぁ」
老婆は、どこか含みを持たせるように言った。
「地蔵様が来られてから、この道路で事故が増えたのは、本当なんですよぅ。まぁ、その頃に道路も広くなって、その分スピードを出す輩が増えたからなんでしょうけど。馬鹿みたいに飛ばすから、大体が死亡事故になってねぇ。それを地蔵様のされて、いい迷惑ですよ。ねぇ?」
最後の一言を、老婆は地蔵に向けて言った。
地蔵はもちろん答えず、静かな微笑みをたたえたままだった。
作者実葛
以前他サイトに投稿していた作品を、加筆修正したものです。