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≪三題怪談≫そして、誰もいなくなった

短編2
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≪三題怪談≫そして、誰もいなくなった

お彼岸のある日。

とある民家の庭先にある桜の木の根元。

一人の女性が神妙な面持ちで両手を合わせていた。

ここは彼女の夫と娘が眠る場所だ。

二人を亡くしたのは、今から10年前。

家族に秘密にしていた借金を苦に、夫が一家心中を図ったのだ。

犯行現場は、家族の思い出のつまった自宅。

娘は首を絞められて死亡。

妻も首を絞められて意識を失ったが、数時間後、運良く息を吹き返し、一命をとりとめた。

夫は、二人を手にかけたあと、庭にあった桜で首を吊って死亡した。

遺骨を散骨したのは、その桜の根元だ。

世間は妻を「夫の狂行によって家族を失った悲劇の妻」そして「自らの命すら奪われようとしたにもかかわらず、夫と娘を供養し続ける、健気な妻」と思っている。

だが、妻の心の内は違っていた。

妻は、勝手な理由で大切な娘の命を奪った夫が許せなかった。

この家は元々夫の実家。

桜の木は、夫の誕生を記念して両親が植えたもので、夫の分身とも言えるもの。

散骨の際、夫の遺骨は桜の木の根元に埋葬されたが、娘の遺骨はそこから2メートルほど離れた場所に散骨された。

娘の遺骨を散骨した場所には、ぶどうの苗が植えられた。

妻はこの家に暮らし続けながら、桜の木とぶどうを見守り続けてきた。

ぶどうの蔓は、桜に巻きつき、成長とともに幹を強烈に締め上げるようになっていった。

10年を経た今、桜の幹は今にもネジ切られそうなほどに、ぶどうの侵食を受けていた。

今日はお彼岸であると同時に、二人の命日でもあった。

妻が両手を合わせたその時、巻き起こった一辻の疾風が、ネジ切れる寸前だった部分から、とうとう桜の木をポキリとへし折った。

それは娘の分身を利用して、妻が夫への復讐を果たした瞬間であった。

が、その直後、妻の方向へ倒れかかった桜の枝が、妻の喉元を貫き、夫もまた、本懐を成し遂げた瞬間でもあった。

物悲しい秋空の下、そして、誰もいなくなった。

Concrete
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