「おかえり、誠二。
ひと休みする前に爺ちゃんに手を合わせてきなさい」
お彼岸でわざわざ帰省した俺に、開口一番母は言った。
仕方なく奥の間に行くと、仏壇の前に腰を降ろした。
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仏壇には何枚かの写真が飾られていた。
古ぼけた祖父の写真。
その隣にまだ新しい写真が置かれている。
見おぼえのあるその顔は、誰のものだっただろうか。
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目を閉じ、手を合わせる。
線香と古い畳の匂いがした。
庭からは、ツクツクボウシの寂しげな鳴声が聞こえてくる。
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ッキンーー。
不意に何かが弾けるような甲高い音。
続いて、ぽた、と何かが畳に落ちる音がした。
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目を開ける。
それは小さなネジだった。
なんのネジだろう?いったいどこから
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ぼとり
拾い上げようと伸ばした俺の腕が落ちた。
え?なんで
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畳が迫ってくる。
視界が暗くなった。
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『父さん、セイジ壊れたよ』
『誠一、コイツに誠二の写真見せたらダメだって言ったろ』
『俺じゃないよ、婆ちゃんだよ』
『コイツは誠二やない誠二やない』
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『婆ちゃん、レンタルが気に入らないのはわかるけど、母さんがまだ認められないんだよ。
ちょっと我慢してよ』
『しかし、ソフトもハードも弱すぎだろ。
メーカーに文句言ってやる。こっちだって高い金払ってるんだ』
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『誠二ー、ご飯の前にお風呂入っちゃってー。
夕飯は誠二の大好きな』
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目を開けると、工場の薄暗い天井が見えた。それがゆっくりと移動している。
違う。オレが移動しているんだ。ベルトコンベヤーで運ばれている。
周りにはオレと同じようなモノが、目を閉じ流れに身を任せている。
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川の先に、光る葡萄のような巨大なオブジェが見えてきた。
マザー。
依頼者の希望に沿った人格をオレたちの身体に植え付け、そして消し去る中枢システム。
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オレは自分が人でないことに気付いてはいけなかったのだろう。
でも気付いてしまった。
本来視ることのできない世界の外側に。
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ああ願わくば、機械に生み出されたオレたちにも、人と同じ彼岸がありますように。
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母さん。
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【800文字】
作者綿貫一
ふたば様の掲示板の三題怪談(800字以内)、挑戦してみました。
こんな噺を。
ふたば様の掲示板
http://kowabana.jp/boards/101169
【9月のお題】
「彼岸」「ぶどう」「ネジ」