短編2
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お彼岸

「おかえり、誠二。

ひと休みする前に爺ちゃんに手を合わせてきなさい」

お彼岸でわざわざ帰省した俺に、開口一番母は言った。

仕方なく奥の間に行くと、仏壇の前に腰を降ろした。

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仏壇には何枚かの写真が飾られていた。

古ぼけた祖父の写真。

その隣にまだ新しい写真が置かれている。

見おぼえのあるその顔は、誰のものだっただろうか。

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目を閉じ、手を合わせる。

線香と古い畳の匂いがした。

庭からは、ツクツクボウシの寂しげな鳴声が聞こえてくる。

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ッキンーー。

不意に何かが弾けるような甲高い音。

続いて、ぽた、と何かが畳に落ちる音がした。

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目を開ける。

それは小さなネジだった。

なんのネジだろう?いったいどこから

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ぼとり

拾い上げようと伸ばした俺の腕が落ちた。

え?なんで

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畳が迫ってくる。

視界が暗くなった。

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『父さん、セイジ壊れたよ』

『誠一、コイツに誠二の写真見せたらダメだって言ったろ』

『俺じゃないよ、婆ちゃんだよ』

『コイツは誠二やない誠二やない』

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『婆ちゃん、レンタルが気に入らないのはわかるけど、母さんがまだ認められないんだよ。

ちょっと我慢してよ』

『しかし、ソフトもハードも弱すぎだろ。

メーカーに文句言ってやる。こっちだって高い金払ってるんだ』

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『誠二ー、ご飯の前にお風呂入っちゃってー。

夕飯は誠二の大好きな』

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目を開けると、工場の薄暗い天井が見えた。それがゆっくりと移動している。

違う。オレが移動しているんだ。ベルトコンベヤーで運ばれている。

周りにはオレと同じようなモノが、目を閉じ流れに身を任せている。

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川の先に、光る葡萄のような巨大なオブジェが見えてきた。

マザー。

依頼者の希望に沿った人格をオレたちの身体に植え付け、そして消し去る中枢システム。

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オレは自分が人でないことに気付いてはいけなかったのだろう。

でも気付いてしまった。

本来視ることのできない世界の外側に。

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ああ願わくば、機械に生み出されたオレたちにも、人と同じ彼岸がありますように。

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母さん。

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【800文字】

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