とある友人から聞いた話。
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彼は長距離トラックの運転手をしている。その仲間内で、有名な自動販売機があるらしい。
人家もまばらな田舎の国道などでは、休憩用に路側帯を広く取っている箇所が所々ある。そこには大抵自動販売機が設置されており、中にはそれが五、六台並んでいるのも珍しくはない。
そんな、とある田舎町のとある休憩所には、ハズレの自動販売機があるという。
五台並んだ自動販売機の、右から二台目が「そう」だという。見た目はなんの変哲もない自動販売機だ。
なにがハズレなのかといえば、選んだ商品がその通りに出てこないことが度々あるのだという。
真夏に温かいおしるこが、真冬にはキンキンに冷えたスポーツドリンクが出る。喉が渇いているのにトロリとしたコーンスープが出る。コーヒーが飲めない者にはコーヒーが、炭酸が飲めない者にはコーラが、甘いものが苦手な者にはいちごミルクが出るという。
これだけでも十分嫌がらせなのだが、当たり付きでもないのに、いらないジュースが一気に数本ゴロゴロ出てくることもあるそうだ。
そしてハズレの飲み物が出たときだけ、自動販売機が喋るという。妙に甲高くイントネーションが狂った機械独特の声で、
「ざんねん、ハッズレ〜! まったきってね〜〜‼︎」
そして、キャハハハッと、そこだけ生身の人間のように笑うらしい。
その自動販売機のことを知っていても知らなくても、初めてそれに遭遇した者は、その声を聞いて必ず固まってしまうという。
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「ただの機械の故障じゃないのか? そんな傍迷惑な自動販売機、さっさと販売元に連絡して撤去して貰えばいいじゃないか。それとも、連絡先も書いていないような古いやつなのか?」
私が呆れてそう言うと、友人は無精髭を撫でながら返した。
「大手メーカーので、ちゃんと連絡先も書いてるよ。中には実際に連絡した奴もいたらしい」
「それなのに、変わらないのか?」
「モノは変わったのかもしれんが、ハズレは相変わらずだ」
「じゃあ、そんなの使わなきゃいいじゃないか。一緒に並んでる他のやつは普通なんだろ?」
そこで友人はニヤリと笑った。
「実はな、あそこの自販機でハズレに当たると、ツキが回ってくるんだよ。競馬やパチンコで大勝ちしたり、宝くじで億を当てた奴もいたらしい。だかみんなあそこで買いたがるんだ。最近じゃ、アタリの自動販売機なんて呼ぶ奴もいるよ」
なんじゃそりゃ。
「お前もあるのか」
「あるぞ、一回だけな。その直後に行ったパチンコで、凄いことになった」
「それはそれは」
「でも、一回だけなんだよなぁ。何度もあそこは通るけど、狙っていくと普通の自動販売機なんだよ。中には、あれに一万円つぎ込んだけど、目当てのコーヒーしか出てこなかった奴もいるってよ。なんでかなぁ」
なんでもなにも、それが普通で当たり前だ。
私がそう言うと、友人は悔しそうに髭を撫でた。
作者実葛
以前他サイトに投稿していた作品を、加筆修正したものです。