短編2
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センサーライト

とある知人に聞いた話。

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彼女は家の玄関に、以前電池式の人感センサーライトを置いていたそうだ。帰宅が大抵暗くなってからなので、いつも重宝していたという。

しかし一年ほど前、電池切れなのか調子が悪いことがあった。点いてほしいときには点かず、ありがちな話だが、なにに反応したのか誰も通っていないのに点くこともあったという。

ちょうどそのころから、知人は不眠気味だった。眠れないというわけではないのだが、眠りが浅くてすぐ起きる。夜半に起きずとも、寝た気がしない朝を迎えることが多かったという。

その傾向はだんだん悪化していき、夢遊病のような症状まで出始めた。ふと目が覚めると、寝ていたベッドから移動しているのだ。

はじめはベッドの脇に立っていた。それが寝室のドアの外、廊下の中ほどと、少しずつ玄関に向かっているようだった。

そしてそんなときにはいつも、だれもいない玄関のセンサーライトが煌々と光っていたのだという。

病院に行って薬も処方してもらったが、改善は見られなかった。

そしてある夜とうとう、目覚めた場所は玄関で、しかも土下座のような形でうずくまっていた。しかしそれは謝罪しているというよりは、まるで三つ指付いて客人を出迎えているようだったという。

いよいよこれは大変だ、どうしたものかと悩んでいたが、不思議なことにその日以降、夢遊病はおろか不眠の症状さえピタリと治まった。夜中に目覚めることもなく、毎朝気持ちのよい目覚めだ。今までのことはいったいなんだったのかと、知人は首を傾げた。

そしてそれと同時に、電池切れだと思っていた玄関のセンサーライトも、不具合がまったくなくなったのだという。

知人はそれらを訝しむことなく、純粋に喜んでいた。

ところが、職場でポロっとその話をしたとき、一人の同僚から言われたのだ。

「それって、誰かを外からお迎えしたみたいで気味が悪いわね。もう出迎える必要はなくなったから、あなたの夢遊病もライトも治ったんじゃないの?」

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「それを言われた途端ね、なんだかものすごい寒気がしたの。私のなけなしの本能が、全力で同意してるみたいでね。それで、家の中でなにがあったわけではないんだけど、すぐに引っ越したのよ。それが良かったのか悪かったのか、それはわからいけど、なんだかすっきりしたわ」

私は大きく頷いた。話の途中から、知人の同僚と同じことを想像してしまっていたのだ。

「前の部屋、こないだ通ったらまだカーテンがかかってなくて、入居者はいないみたい。いずれは誰かが入るんでしょうけど…」

知人がお迎えしたかもしれない誰かは、まだその部屋にいるのだろうか。

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